2015年6月、選挙権年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げる改正公職選挙法が成立。1945年に25歳以上から20歳以上に引き下げられて以来、実に70年ぶりの変更となった。

 18歳に引き下げられる対象となるのは、衆議院、参議院、地方自治体の首長と議会の選挙、農業委員会委員の選挙、最高裁判所裁判官の国民審査など。地方自治体の首長解職や議会解散請求などの住民投票資格も、18歳以上になる。

 公布から1年間の周知期間を経て、2016年6月19日に施行されるため、実際に適用されるのは今年7月の参議院選挙からになる。

 若者の政治離れが問題となっている日本では、「18歳で判断できるのか」といった不安の声も聞かれるが、世界の選挙権年齢は18歳以上がスタンダードだ。約190の国と地域の約9割が18歳以上を選挙権年齢としており、オーストリアなど一部の国では16歳以上となっている。

 そのため、以前から日本でも選挙権年齢を引き下げるべきという声は上がっていたものの、政権与党である自民党の反対によって18歳選挙権は実現していなかった。

 しかし、2014年6月に「日本国憲法の改正手続に関する法律」(国民投票法)が改正され、憲法改正のための投票権が18歳以上に引き下げられた。これは、審議過程で民主党などの野党が、投票権を18歳以上にすることを求めたためで、憲法改正を急ぐ自民党はこれをのむ形で国民投票法は成立した。そして、付帯決議に、選挙権年齢の引き下げも2年以内を目途に法制上の措置をとることが明記されることになった。

 また、近年、ネットなどに保守的な主張を書き込む若者が増えており、支持の増加も期待されるため、自民党はこれまでの方針を転換。一気に、選挙権年齢の引き下げが実現することになったというわけだ。

 2015年10月、選挙権年齢の引き下げを受け、文部科学省は高校生の政治活動を禁じた1969年の通知を廃止し、新たな通知を教育委員会などに出した。この新しい通知では、学校外での政治活動を容認する一方、学校内での活動は放課後や休日も制限・禁止されるとしている。ほかにも、教員に対して「個人的な主義主張を述べることは避ける」など、政治的中立が強く求められており、規制とも受け止められかねない内容だ。

 だが、自民党の思惑通りに事が運ぶかはわからない。

 2015年8月に、日本労働組合連合会(連合)が、全国の15~23歳の男女1000名に聞いた「若者の関心と政治や選挙に対する意識に関する調査」によると、72.4%が「投票に行きたいと思う」と答えている。

 また、安全保障関連法に反対するデモを繰り広げたSEALDs(自由で民主的な日本を守るための、学生による緊急アクション)に代表されるように、これまで政治に無関心と言われていた若い世代のなかからも、自ら声を上げ、行動し、政治に参加しようとする人々が少しずつだが出てきている。

 いくら政治的中立という名の規制をかけても、自ら思考し、判断するという行為を止めることは、誰にもできない。その若い彼らが、今の政治に対してどのようなジャッジを下すのか。

 次の選挙で、新たに投票権を得る18~19歳の若者は約240万人なので、投票数が大幅に増えるわけではないし、若者の意見がすぐに反映されるわけではない。

 だが、この選挙権年齢の引き下げが、若者の政治参加の意識を高めるきっかけになることを期待したい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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