軽減税率は、食料品などの生活必需品に、標準の消費税率より低い税率を適用する課税方法だ。所得額に関係なく同じ税率が適用される消費税は、日々の消費行動のなかでは所得が低い人ほど負担が大きくなる。こうした不公平感をなくすことを目的に、60年代から付加価値税(日本の消費税)を導入していた欧州諸国で採用されたのが軽減税率だ。

 日本でも、2017年4月に消費税を10%に引き上げるのに合わせて、食料品や新聞などの税率を8%に据え置く軽減税率が導入されることになった。

 対象となる品目は、(1)酒と外食を除くすべての飲食料品、(2)定期購読する週2回以上発行の新聞だ。

 だが、どのような品目に適用するかの線引きは難しく、最後まで難航を極めた。

 たとえば、同じハンバーガーでも、店内で飲食すると10%だが、持ち帰ると8%になる。

 椅子ありの屋台で食べるおでんは10%だが、椅子なしの屋台で買ったおでんは8%。

 大学の学食や社員食堂は10%だが、学校給食や老人ホームの食事は8%になる。

 また、見方によっては、石けんやトイレットペーパーなどの日用雑貨、赤ちゃんの紙おむつなども生活必需品といえる。

 それなのに、なぜ食品と新聞だけに適用されることになったのか、明確な理由を見つけるのは難しく、業界の力関係による恣意性を感じざるを得ない。

 当初、国は消費税10%への引き上げによって、低所得層に対して合計4000億円の負担軽減を行なうことにしていた。

 だが、軽減税率の導入によって、当初の予定より1兆円程度の減収が見込まれることから、この低所得層への負担軽減策を取り止めることになったのだ。それでも、残りの6000億円の財源確保の見込みはたっていない。

 さらに言えば、軽減税率は所得分配の公平性に逆行する愚策であることが、欧州諸国の社会実験から明らかになっている。

 品目ごとに決められる軽減税率は、所得額に関係なく一律の割引を受けられることになる。実際の暮らしの中では、所得の高い人ほどたくさん食料品を購入しているので減税額が多くなるのだ。

 たとえば、毎月、食品を20万円購入する高所得のAさんが、軽減税率の導入で4000円の減税を受けられる。

 一方、毎月、食品を2万円しか買わない低所得のBさんが受けられる減税額は400円。

 高所得のAさんのほうが、10倍も減税されてしまうのだ。

 理想的な福祉国家といわれているデンマークの付加価値税(日本の消費税にあたる税金)は25%で、軽減税率は導入されていない。

 物を買う場面では誰もが平等に税を負担するが、デンマークでは社会保障の給付の段階で、低所得層への手厚い対策を行なっているのだ。

 軽減税率の導入は失敗だったと、多くの国が認めている。それを後追いすれば、結果は目に見えている。

 消費税の引き上げまでには、あと1年以上ある。軽減税率の導入は撤回し、低所得層対策は手厚い給付を行なうのが、あるべき税と社会保障の姿だ。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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