一人の女性がブログに書いたひと言が安倍政権を震え上がらせた。「保育園落ちた日本死ね!!!」がそれだ。

 衆議院予算委員会で民主党の山尾志桜里(しおり)衆院議員(41)から、このブログについて質問された安倍首相は、「実際に起こっているのか確認しようがない。これ以上、議論しようがない」と素っ気なく答えたため、待機児童問題に悩む母親たちが猛反発した。

 「保育園に落ちたの私だ」というフリップを掲げたデモが行なわれ、「保育園制度の充実は必要」とする署名が2万7千以上集まり、塩崎恭久(やすひさ)厚労相に提出された。

 『週刊文春』(以下『文春』、3/17号)でジャーナリストの猪熊弘子氏が、これを書いた母親にメールでインタビューしている。仮にA子さんとしておく。都内在住の30代前半の女性で夫と子どもの三人暮らしである。

 正社員の事務員として働いているが、現在は育休中だという。4月から復職しようと思い、互いの両親は遠方に住んでいるため保育園に預けようとしたが、すべて落ちてしまった。

 「保育園に落ちると、自治体から入園について『不承諾』っていう通知が来るんです。あの通知は本当に凹(へこ)みますよ。『不承諾よ、滅びろ』って思う。国が言うとおり、私は働きたいのに、保育園落ちて仕事を辞めなきゃいけないのは、本当に納得がいかないです」(A子さん)

 2015年4月現在の全国の待機児童数は、前年に比べて1796人増え2万3167人になった。

 「『一億総活躍』という目標を国が掲げるならば、きちんとそうなるように仕組みを整える義務があると思うんですよ」(同)

 安倍首相は対応を間違えたのだ。A子さんの言うように、誰が書いているかが問題の核心ではなく、何を言っているかについて答え、その対応について考えを述べるべきであったのだ。

 認可保育園に子どもを入れるのは東大に入れるより難しいと言われる。

 さらに保育園の問題には、働く保育士がいないという難問もある。理由は至ってシンプル。給料が安すぎるのだ。

 「一般労働者の賃金が月平均で約三十万円、保育士は約二十一万円と大きく下回っている。(中略)保育士には腰や肩、腕を痛めている人も少なくない。それも『職業病』と言われるほど、身体に負担が大きい仕事なのだ」(猪熊氏)

 自民党もこれはマズいと思ったのだろう、自民党内や公明党からも安倍首相の対応に批判の声が上がり始めた。このままいくと第一次安倍内閣の時の「消えた年金問題」の二の舞になりかねない

 「安倍首相は10日、政府与党連絡会議で『地域によってはなかなか(保育所に)入れない実態がある。早急に対策に取り組みたい』と表明した。自民、公明両党は作業チームを立ち上げる」(3月11日付、朝日新聞)

 言葉遣いはやや乱暴だが、一人の主婦の悲鳴のようなブログが安倍首相をあわてさせ、動かした。だがこの問題は選挙目当てのリップサービスで解決するほど生易しいものではない。安倍首相の本気度が試される。遅々として進まなければ今度は「保育園落ちた安倍死ね」と書かれるだろう。

 こうした待機児童の問題の背景には共稼ぎしなければ暮らしていけないという切実な現実があるわけだが、女性が社会進出していけば、収入で夫を上回る妻も出てくる。

 そこで同誌は、子どもを育てるために「専業主夫」になる男性が増え続けていると報じている。

 「今、専業主夫は日本に十一万人いるといわれている(厚生労働省『厚生年金保険・国民年金事業の概況』による)。正確には、働いていても年収百三十万円未満で、国民年金の第三号被保険者として妻の扶養に入っている男性の数だから、彼らがどれだけ家事や育児をメインに担当しているかは謎である。だがその数は、〇三年には八万人だったのが、〇八年には十万人、十三年には十一万人と増え続けている」(『文春』)

 なぜ男たちは主夫を選び始めたのか。東大卒で現在2児の父として主夫をしながら、「責任ある地位に就く女性が三〇%になるなら、主夫も三〇%に」を目指して「主夫の友」のCEOとして活躍している堀込泰三さん(38)がこう話す。

 「妻とは高校時代からの付き合いです。大学院の修士課程を修了後、私は自動車会社でエンジン開発に携わり、妻は理系の研究職の道に進み、結婚しました。入社四年目で妻が妊娠。ところが喜びも束の間、彼女の職場は一年更新だったので、育休をとると仕事に支障が出ることが判ったんです」

 堀込さんは、それでは自分が育休をとれないかと考え、男性社員第一号として2年間の育休を申請したのだ。妻がアメリカに赴任すると同行し、育休が終わると一人で帰国したが、子どもと離れて暮らすのが寂しくなり、妻と話し合った結果「合理的な判断」として堀込さんが会社を辞めて主夫となる選択をしたのだ。

 「『主夫の友』の活動についても、ネット上では『どうせヒモでしょ?』という反応があります。でも、働かないヒモと違って、私たち主夫は責任を持って家事・育児をメインで担っています」(堀込さん)

 『文春』によると、堀込さんが率いる「主夫の友」には、兼業、専業のさまざまな形の主夫が登録しているという。

 「主夫になった理由も、『病気』『介護』『妻の転勤』『圧倒的な年収差』など多様だ。アメリカでは、リーマンショック後に急激に主夫が増えたという。現代では、『夫婦がいかにしてサバイバルするか』の戦略として、主夫を選択するカップルが増えているのだ」(同)

 だが、高収入の女性ほど「切磋琢磨できる男性」を好み、収入も自分と同程度を求めてしまうようである。カネを持っている女と結婚し、ヒモになって三食昼寝などと甘い考えを持っている男には見向きもしないようだ。

 それに主夫に向く性格かどうかも重要である。『文春』は主夫に向く男のタイプはこの4つだという。

 「・テーブルの上のものが落ちかけたら、先に手を出す
 ・無駄なプライドを捨てるのが上手
 ・家にいるのが好き
 ・女性でもすごい人は素直にすごいと思えるし、応援できる」

 私に関して言えば、最初の3つは“?”。すごい女性をすごいとは思えるが、彼女の下で働こうとは思わないから、主夫失格である。でも、資産家の女性のヒモになって、世界中を気ままに一人で旅して、港港に女あり、なんて生活には憧れたけどね。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 球春間近というのに、巨人軍の野球賭博から火がついた球界の賭博問題は、当然ながら他球団にも飛び火し、このままいくと開幕できないかもしれない
 厚労省は25年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症患者になると予測している。日本全体が認知症大国になる日が近いというのに、国はなにも対策を考えていない。自分の頭の中の消しゴムが活発に動き出し、日々記憶が消えていくような気がするが、さりとて病院に行ってMRIを撮ってもらうのは怖い。アルツハイマーはがんよりも怖いが、『ポスト』で語り合っている3人の認知症の人たちは、意外に明るい。比較的軽いということもあるのだろうが、認知症患者も楽しく暮らせる社会が早く来てほしいと、切に思う。

第1位 「トラブル続発の高浜原発『止めようとした裁判官』『動かそうとした裁判官』名前と顔を公開する」(『週刊現代』3/26・4/2号)
第2位 「巨人軍『野球賭博』汚染 本誌だけが知る全真相」(『週刊文春』3/17号)
第3位 「前代未聞の当事者座談会!『オレたち、認知症!』」(『週刊ポスト』3/25・4/1号)

 第3位。認知症は国民病になりつつある。そんな当事者たちが語り合った座談会を『ポスト』は掲載している。
 前代未聞かどうかはさておき、おもしろい企画である。東京・町田市に民家を改装したデイサービス施設「NPO町田市つながりの開(かい) DAYS BLG!(以下、BLG)」という一軒家がある。
 BLGには毎日10人ほどが集うが、みんな認知症と診断された人々だ。
 当日、何をするかを本人が選べるのが特長の施設で、昼食後のカラオケは定番だそうだ。
 市内で妻と2人暮らしの奥澤慎一さん(74)は3年前から通い始めた。建設会社勤務だった園田士郎さん(仮名、62)は定年後も嘱託として働き、勤務のない日にここへ来る。
 神奈川県在住の片岡信之さん(仮名、64)を加えた3人に話を聞いている。
 片岡さんは30歳ぐらいでものを覚えられなくなってしまって、メモをしないと頭に何も残らないという。医者に若年性アルツハイマーの傾向があると言われたのが50代後半。
 園田さんは地方の工事現場への長期出張が多かった頃、家族と「お土産を買って帰るよ」とか「この日に帰るから食事しよう」とか約束しても忘れることが続き、娘にきつく叱られたそうだ。
 そこで専門医のところへ行って検査を受けたら、アルツハイマーだと言われたそうだ。

 「ぽつぽつと抜けはあっても、電車も一人で乗れるでしょ。小説も読めるし、好きな料理は自分で作っていましたから」(園田さん)

 奥澤さんは、「6年ほど前のことです。コンビニでタバコを一箱買いました。当然、お金を払うわけですね。ところが不思議なことに、レジの前に陳列してある同じ銘柄のタバコをもう一箱取って、ポケットへ入れてしまう」ために警察に突き出されたことが何回かあった。
 今は3人ともお酒はたしなむ程度だという。認知症が進むと酒で失敗することが多くなるようだ。
 園田さんは毎日日記を書くそうだ。それも当日ではなく、次の日に思い出して書くという。記憶力をテストするのだが、食べたものすら忘れることがあるという。
 飛び入りの72歳の鳥飼昭嘉さんは、クロスワードや数字パズルを毎日やると、結構頭を使っていいと話す。
 鳥飼さんは大手電機メーカーの設計担当だった30年ほど前に、くも膜下出血で倒れたことがきっかけで、脳血管性認知症と診断された。
 鳥飼さんは、わが子を連れて遊び場に行ったのに、子どもの存在を忘れて1人で帰ってきてしまったこともあるそうだ。
 奥澤さんは3年前、奥さんが BLGを見つけてくれて、もう一度社会や仲間とつながれるようになり、希望が差したという。
 鳥飼さんは、「症状は改善できますよね。僕は『後ろ歩き』がいいと聞いて、公園でやっていますよ」と話す。
 奥澤さんは「認知症でも、人間性は取り戻せる。あとは世の中です。家族だけじゃなくて、近所とか町の人が見守る。そういう社会になってほしい」と語る。
 奥澤さんは取材の最後にこう呟いたそうだ。

 「みんないつかは認知症になる。そういう時代です。でも、まだみんな、どこか他人事なんだよな」

 認知症は治すことはできないが、予防や脳を活性化させることで進行を遅らすことはできるそうだ。今からでも遅くはない。早速脳トレーニングを始めよう。

 第2位。読売巨人軍の野球賭博問題を追及し続ける『文春』は、一軍の貴重な中継ぎとして存在感を増してきていた高木京介投手(26)までが手を染めていたことを掴んだ。高木と巨人軍側に取材を始め、あわてた巨人軍側が高木に聴取し、高木本人がその事実を認めた。その結果、渡辺恒雄最高顧問、白石興二郎オーナー、桃井恒和球団会長までが辞める事態となったのである。
 巨人軍は『文春』発売前の3月8日に緊急記者会見を開き、9日夕方には高木にも都内で記者会見させ、「野球賭博に関与してしまい巨人の関係者や選手、小学校から野球をやってきて携わってきた皆様を裏切ってしまい本当に申し訳ありませんでした」(NHK NEWSWEBより)と謝罪させた。
 そのためか記事の扱いは2頁と少ないが、『文春』の余裕を感じる。だが、ここにも巨人軍側を震え上がらせる記述がある。笠原将生(しょうき)投手、松本竜也(りゅうや)投手、福田聡志(さとし)投手などから野球賭博を請け負っていたB氏は、現在海外に高飛びしているそうだが、彼と巨人軍の法務部長(当時)森田清司氏とのLINEでのやりとりが掲載されているのだ。
 森田氏は「笠原を巻き添えにしたくない」「球団としても出来るだけ軽い処分にしたいと思っています」と、B氏に対して大事にしたくないと“説得”していたというのである。
 これが事実なら、巨人軍のこの問題に対する認識の甘さ、危機意識のなさに呆れ果てるしかない。
 『文春』は「本誌の野球賭博に関する取材の過程では、大物選手から二軍選手まで、様々な名前が浮上している」としている。常識的に考えて、この問題は巨人軍だけにとどまらないはずである。「怖い人だと実感した」(高木氏)渦中のB氏を掴んでいる『文春』は、舌なめずりして巨人軍の大物選手や他球団の選手の名前をいつ公表しようか、時期を見ているに違いない。
 そうなれば、もうすぐ始まる公式戦など吹っ飛んでしまう。ちょっと賭けるぐらいと軽い気持ちでやっていたのだろうが、暴力団はそこが付け目である。一回引きずり込み酒を飲ませ女をあてがえば、野球選手などどうとでも操れると考えたはずである。この闇はそうとう深いはずだ。相撲の八百長事件のように、公式戦を中断して全選手の調査をするということになるかもしれない。

 第1位。今年は東日本大震災から5年になるが、被災地の復興も福島第一原発の処理も道半ばだ。
 大津地裁が3月9日に関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止めの仮処分を決定
 だが、安倍首相は「関電には、さらに安全性に関する説明を尽くしていくことを期待したい。政府としてもそのように指導していく」と述べて、再稼働を進める方針に変わりがない姿勢を見せている。
 上に行けばこの判決は覆るという思惑があるのであろう。日本の最高裁判所は「原発、基地問題など『統治と支配』の根幹に触れるような事柄についてはアンタッチャブル。司法による立法、行政の適切な監視など行われておらず、裁判所や裁判官は憲法の番人ではなく権力の番人、忠犬と堕している」(元裁判官の瀬木比呂志氏)。だが、ヒラメのように上の顔色ばかり窺う裁判官が多い中で、このような勇気ある判決を出した地裁の裁判官の「正義」を最高裁も引き継ぐべきだと考える。運転中の原発を止める判断は、日本では初めてのことである。
 そこで『現代』は、原発再稼働を止める判断を下した大津地裁の山本善彦裁判長(61歳)と、14年に大飯(おおい)原発、15年に高浜原発の再稼働差し止めを決めた福井地裁(当時)の樋口英明裁判長(63歳)の判断を覆した、樋口氏と入れ替わりに福井地裁へ着任した林潤裁判長(46歳)、山口敦士裁判官(39歳)、中村修輔裁判官(37歳)という法曹界でも超エリートといわれる3名の裁判官の顔写真を掲載した。
 こういう記事はどんどんやるべきである。関西電力側は原発を停止させる一方、これから仮処分に異議を申し立てる方針を示しているから、こちらもどうなるかわからない。
 『現代』によれば、このようなエリートたちが福井地裁に集まるのは異例だという。元裁判官の現役弁護士がこう語る。

 「本来、福井地裁は名古屋高裁管内でも比較的ヒマな裁判所で、アブラの乗った裁判官が来るところではない。しかも、この3人は東京や大阪など、他の高裁管内からの異動で、この人事には、各裁判所の人事権を握る最高裁の意向が反映されていると見るべきです」

 『現代』によると、裁判官3人の経歴には共通点があるそうだ。それは、全国の裁判所と裁判官の管理、運営、人事までを仕切る最高裁判所事務総局での勤務経験があることだ。

 「最高裁事務総局といえば、ゆくゆくは最高裁判事や、全国の裁判官と裁判所職員を含めた人々のトップとなる最高裁長官を狙えるようなエリートが集まるところ。彼ら3名は、全国の裁判官の中でも選り抜きの、いわば『将来を約束された』人々だと言えるでしょう」(明治大学政治経済学部教授の西川伸一氏)

 この3人は高浜原発再稼働を容認するために送り込まれてきたのだ。すぐに関電側の申し立ての審理にとりかかり、

 「審理の結果、原発の安全性について具体的に検討することなく、『危険性が社会通念上無視しうる程度にまで管理されている』から高浜は安全だと言ってしまった」(河合弘之弁護士)

 大飯原発再稼働の差し止め判決を出した樋口氏は名古屋家庭裁判所に飛ばされてしまった。樋口氏同様、山本裁判長が飛ばされ、また中央から再稼働推進派の判事を送り込まれ、決定を再度ひっくり返される恐れは十分にある。司法の人間の多くは権力のポチだということを忘れてはいけない。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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