粒子線治療は、悪性新生物(がん)の治療に使われる放射線療法のひとつ。比較的新しい治療法で、利用する放射線の種類から、そう呼ばれている。

 粒子線は、水素や炭素の原子核など極めて小さな粒子を利用した放射線だ。その中でも、いちばん軽い元素である水素を用いたものが「陽子線治療」、それよりも重い粒子(主に炭素イオン)を使うものが「重粒子線治療」だ。

 従来からある放射線は、エックス線やガンマ線など電磁波を用いた光子線と呼ばれるもので、体内を通り抜ける性質を持っている。そのため、正常な細胞にも照射される。

 一方、粒子線は、体の内部に潜んでいるがんの病巣を狙い撃ちできるので、周囲にある正常な細胞へのダメージを抑えられると言われている。

 また、「切らずに治すがんの最先端治療」などと紹介されてきたせいか、従来からあるエックス線やガンマ線による放射線治療より、効果が高いイメージもあるようだ。

 日本の医療制度では、安全性と有効性が確認され、広く一般に普及できると判断されると、健康保険が適用されて、少ない自己負担でだれでも利用できる治療として広まっていく。

 だが、これまで粒子線治療はあくまでも実験段階の治療として、健康保険の効かない先進医療の枠組みで行なわれてきた。

 2016年4月から、「ほかに有効な治療法がない」などの理由で、小児の固形がんへの陽子線治療、切除できない骨がんへの重粒子線治療に限定して保険適用が認められた。だが、そのほかのがんに対しては、粒子線治療の有効性は未知数のままなのだ。

 健康保険が適用されないと、その治療にかかる費用は全額自己負担だ。粒子線治療にかかる費用は施設ごとに異なるが、2015年度の実績報告では、平均で陽子線治療が約268万円、重粒子線治療が約309万円となっている。

 粒子線治療をターゲットとした民間保険、銀行ローンなどもあるが、高いお金を払ったからといって、必ずしもがんが消えるかどうかはわからない。

 民間保険会社の宣伝によって、粒子線治療には「夢の治療」というイメージを持つ人もいるようだが、過大な期待をもつのは禁物だ。

 がんになると、藁にもすがる気持ちになり、健康保険が適用されない治療を試してみたくなることもある。だが、病気の治療には、部位や病状の進行度によって、現段階でもっともふさわしいと専門家が認めた「標準治療」が確立されている。

 出所の確かではない情報に振り回されないように、まずは主治医によく相談して、科学的根拠があり、納得できる治療を選択するようにしたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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