イネ科多年草のチガヤ(茅萱)を束ねた輪のことをいう。6月30日には、上賀茂神社や北野天満宮などの京都の神社で、鳥居や社頭に茅の輪が設置される。大きい茅の輪は直径4、5メートルもあるだろう。参拝者はこれをくぐって参拝することで、半年分の罪汚れが祓われるといわれ、これを茅の輪神事と呼んでいる。

 参拝のとき、茅の輪のくぐり方には決まりがある。茅の輪は普通、鳥居の柱に付けられているので、参拝者は茅の輪をくぐりながら、鳥居の周りを左回り、右回り、左回りの順に三回回る。そして、最後の四度目は回らず、ただ輪をくぐって社殿へ参拝に行くのである。

 この日、氏子の家では、着物姿を模(かたど)ったような紙の人形(ひとがた)をつくる風習が残っている。人形に息を吹きかけたり、手でなでたりして自身の穢れを移し、それを川に流したり、焼いたりすることでお祓いをするのである。最近はあまり見かけなくなったが、茅の輪のチガヤを抜き取り、それを輪にして家の門口につるし、厄除けにするという風習もある。

 これらは相当古くから行なわれている神事であり、由来は蘇民将来(すみしょうらい)の故事にちなむという。故事は、旅の途中で宿を乞うた素戔嗚尊(すさのおのみこと、別称・武塔神)を、蘇民が快く迎え入れたことから、素戔嗚尊は、茅の輪を付けていれば、疫病や穢れから免れられると教える。その後、蘇民やその家族は、長く無事に過ごしたというような内容になっている。京都では六月と十二月の晦日に、神に祈り穢れを払い除く、このような大祓が行なわれている。茅の輪神事が行なわれる六月の大祓のことを、夏越祓(なごしのはらえ)や水無月祓(みなづきはらえ)とも呼んでいる。


護王神社(上京区)の「茅の輪」の様子。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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