2005~2014年の10年間に、東京23区でうつ病などによって自殺した妊産婦が63人いたことが、順天堂大学と東京都監察医務院との共同調査で明らかになった。

 出生数10万人あたりで比較すると、自殺した妊産婦の割合は8.5人。妊娠・出産に伴う出血や病気で亡くなったケースが、出生数10万人あたり4.1人なのに、その2倍にあたる人が自殺で亡くなっているのは見過ごせない事実だ。

 妊娠・出産は、女性のホルモンバランスを変化させる。とくに、出産後はエストロゲンなどの女性ホルモンが大幅に減少する。出産にあたっては、出血など身体的なダメージもあり、体力も消耗するものだ。その疲れた身体で、お母さんたちは赤ちゃんのお世話をしているのだ。十分な睡眠時間もとれず、心身ともにつらい状況に追い込まれる人もいる。そのため、産後2~3か月の間に、1割程度が「産後うつ」を発症するといわれている。

 今回の調査を受け、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は、「産婦人科診療ガイドライン」を改定し、産後うつへの具体的な対応策を盛り込むことにした。産婦人科医などが、妊娠の初診時と出産直後に問診を行ない、産後うつになりやすい人を見つけ、早期に精神科医などの専門家への受診を促す予定だ。

 近くに頼る人がいなくて、ひとりで育児をしなければならない環境にいる人ほど、産後うつになりやすくなる。

 とくに、初産で出産経験がないと、「赤ちゃんに何かあったら大変」と、体力的にも精神的にも消耗しがちだ。産後うつにならないためには、ひとりで頑張らないで、育児をサポートしてくれる人を見つけることが重要だという。

 子どもの親である夫はもちろんのこと、家族や親戚、友人などに相談し、母親ひとりではなく、誰かと一緒に育児をしていく環境をつくりたい。近くに頼れる親や親戚がいない場合は、地域の子育て支援センターもある。市区町村によっては、産後の育児や家事をサポートしてくれる「産後家庭支援サービス」などが利用できるところもあるので相談してみよう。

 育児は重労働だ。それを、母親ひとりに任せようというのが、そもそも間違っている。

 医療者や行政が対策を講じるのは重要なことだが、身近にいる人同士が子育てをサポートし、自殺する妊産婦がなくなるような社会になることを望みたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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