毎年、7月14日からは祇園前祭(ぎおんさきまつり)の宵々山(よいよいやま)が始まり、17日の山鉾巡行に向けて、祇園祭は前半のクライマックスを迎える。この時期にお祭りの熱気とともに高騰するのが、海産魚「はも」の相場である。祇園祭は別名「はも祭」とも呼ばれており、この時期にしゃきっとした歯ごたえと、舌の味覚が最高になる「はも」の値は、祭りの間中、日々「うなぎ登り」になるといわれている。なかでも、瀬戸内の一本釣りのものは最高であるが、近年は韓国産が舌触りと味もぐっとよくなってきたと評判である。

 小骨が極めて多い「はも」は、身を開いて中骨を取り除いたあと、小骨の骨切りをしなくては食べることができない。骨切りとは、「はも」の皮を切らないように、身の部分だけに細かく包丁を入れるもので、どれだけ細かく綺麗に包丁を入れることができるかが、料理の出来映えを左右する。祇園祭の料理は、この骨切りをした「はも」を基本とした「はもづくし」が定番である。はもに金串を打って焼いた「つけ焼き」や「塩焼き」。つけ焼きにした「はも」を刻んできゅうりと合わせた酢の物の「はもきゅう」。骨切りした身を切り落としてから湯引きにし、それを梅肉やわさび醤油につけて食べる「はもの切り落とし」。どれもこれも、京都の夏に欠かせないご馳走である。

 江戸時代の「はも」は、商家の賄いでもよく食べられていた下魚だったというが、近年ではすっかり高級魚となった。だから、庶民は「はも」が食べたくなると、蒲鉾屋さんなどで「はもの皮」を買ってきて、これを「はもきゅう」風に、酢と塩で和えて食べる。「もったいない」が信条の京都らしい酒の肴で、暑い日にはちょうどよい。


1パック500円前後で売っている、はもの皮。少し手を加えるだけで、抜群においしい。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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