扇子は平安時代に京都でつくられた。現代においても、冠、烏帽子、扇子の作り手は「京の三職」といわれ、千年を超えて継承されてきた仕事である。

 一番初めにつくられた扇子は、木簡(もっかん)という細く薄い木の板を糸などでつなぎ合わせた檜扇(ひおうぎ)だった。その頃は紙が高価であったために檜が使われたそうで、徐々に扇子に使う材質を変えたり、片面だけに紙を張ったりするようになった。片面だけが紙の扇子は「蝙蝠扇(かわほり)」という。また、扇子の骨の部分に、細やかな透かし彫りを施したものには、「透扇(すかしおうぎ)」、「皆彫骨(みなえりぼね)」、「切透扇(きりすかしおうぎ)」などの種類がある。

 最近は和装だけにこだわらず、豊富な絵柄や材質を生かし、年間を通して使われているけれど、紙の扇子が広まったころは、夏に紙、檜扇などはそれ以外の季節に使うのがおしゃれだったようである。

 蝙蝠扇が登場すると、紙の上に、大般若経を綴ったり、上絵(うわえ)を描いたりする意匠物の扇子が登場し、著名な老師の墨筆や名のある人の絵が描かれた扇子は、古くなると、屏風の張り混ぜにしたり、掛け軸にしたりするようになり、長く観賞用としても用いられるようになっていった。

 京都では、子どものお宮参りのときに扇を奉納するのが一般的で、その後、13歳の十三参りの時に、大人用の扇子を持つという習慣がある。生まれたときからずっと、扇子を身近にしながら育っていくのである。


平家物語の故事からとった奇想天外な浄妙山(じょうみょうやま)を描いた扇子。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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