東日本大震災をきっかけに、全国で広く利用されるようになったボランティアバスに対して、今年5月、観光庁から待ったがかかった。

 ボランティアバスは、地震や津波、土砂災害などを受けた被災地に、ボランティアを派遣するために利用されている。募集の主体となっているのは、被災地支援をするNPO法人や任意団体など。

 被災地にボランティアに行くときは、交通手段も宿泊先も自分で確保し、食べるものなどは自分で用意し、現地に負担をかけないのが原則とされている。だが、被災地支援のノウハウや現地との繋がりがないと、「ボランティアに行きたい」という意思はあっても、現地で活動するのは難しい。また、個人がそれぞれ車で被災地に行くと交通渋滞の原因にもなる。

 そうした人の受け皿となってきたのがボランティアバスで、一定の参加費用を参加者から集めてバスを運行する。また、参加する人も交通費や宿泊費などを軽減できたり、交通渋滞の緩和につながったりするとして、ボランティアに行く手段として定着してきていた。

 だが、旅行業法では、報酬を得て運送や宿泊の手配をする場合は「旅行業」とみなされ、たとえ利益の出ない実費の徴収でも、国や都道府県に対して旅行業者としての事前登録を義務づけている。そのため、この法律を厳密に運用すると、登録をしていないNPO法人や社会福祉協議会などが、参加費を集めてボランティアバスを運行するのは違法となる。

 ただし、復興庁のホームページには、被災地にボランティアに行くための手段として、ボランティアバスツアーの活用が紹介されている。被災地でのボランティアニーズの高まりもあり、これまではボランティアバスは黙認されていた形だった。

 ところが、ここにきて旅行業法違反を問題視した観光庁が、ボランティアを募集する団体に対して、「旅行業者としての登録を受ける」もしくは「旅行業者にツアー自体やツアーの参加費の徴収を委託する」などの改善策を求める通知を出したのだ。

 通知を受けた被災地支援団体は、今後、旅行業者への委託をすることでボランティアを募集することになるが、旅行業者を通すと、手数料などによって、ボランティアに参加する人の経済的負担が増えることになる。その結果、参加者が減ってしまったり、迅速な対応ができなくなったりすることも懸念されている。

 4月に発生した熊本地震の被災地では、まだまだ瓦礫の片付けなどのボランティアが必要だが、この通知によって、熊本への派遣を中止する団体も出ている。

 今年1月、軽井沢で起きたスキーバスの転落事故の影響もあり、バスの運行には社会の厳しい目が注がれている。もちろんバスが安全に運行されるように、国が規制をかけるのは必要なことだ。だが、被災地支援のボランティア活動を妨げるような法の運用には首を傾げざるを得ない。

 現状に合っていないのであれば、法律を変えるべきだし、安全なバス業者の選定に観光庁が協力するなど、支援団体の負担を抑えられるような行政の配慮が必要になるだろう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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