京都にはお盆(盂蘭盆)の火の行事がいろいろある。大文字焼きで知られる「五山の送り火」、北山(左京区)一帯で行なわれる松上げ、つくり花をつけた花笠の上の行灯に火を灯し、両手で動かしながら踊る久多(くた)花笠踊(左京区)などは特に有名である。

 このような行事は、火のもつ機能である精霊の送迎や供養などに関連し、いにしえからの深い思いを表したものといえる。以前の京都では、初盆などで供養の必要な家々にはいくつもの盆灯籠が吊され、軒先に連なる灯籠供養の様子を見物したり、灯籠の前で盆踊りをしたりするのが、お盆の風物詩であったという。その頃の灯籠は、枠を切り子の形に組んで、紙やつくり花などで飾りつけた切子灯籠と呼ばれるもので、昔は「灯籠売り」が、金(かな)灯籠や草提灯、行灯などを吊して売り歩いていたそうだ。現在は軒先に灯籠などを吊す家はほとんど見られなくなったが、そうした伝統は初盆にあたり親類縁者が、盆提灯や回転灯籠などを仏前に供える風習として受け継がれている。

 お盆に寺院などで行なわれる「万灯会(まんどうえ)」や「万灯籠」という行事は、このような灯火や灯籠をたくさん灯して先祖を供養する行事であり、その最たるものが「五山の送り火」であったと考えられる。「五山の送り火」の起源はわかっていないが、「妙」の文字を灯す山が「万灯籠山」、「船」を灯す山が「船形万灯籠」といわれていることなどから、灯籠行事から発祥したというのが定説になっている。


和紙に透かし模様を施した木枠の釣灯籠。昔から広く使われていた形状で、写真のものはお祭り用として残されていたもの。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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