オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年7月12日、国際社会が注目する判決を下した。南シナ海のほぼ全域に自国の主権が及ぶという中国の主張について、これを全面的に退けたのだ。裁判は、南シナ海における中国による主権の主張は、国連海洋法条約に違反するなどとしてフィリピンが提訴していた。

 中国が、南シナ海で、「主権が及ぶ」と言い張るエリアの境界線は、「九段線」と呼ばれる。断続する九つの 線で描かれており、その地図上の形状から、「(中国の)赤い舌」とも呼ばれている。

 そもそもは、1947年に国民党政府(中華民国)が引いた「十一段線」に由来し、現在の中国政府(中華人民共和国、1949年建国)がそのまま踏襲した形だ。十一から九に減ったのは、1953年に当時の中国が支援していたベトナムに配慮してトンキン湾の一部の島の領有権をベトナムに移したため、とされている。

 前述の判決は、この九段線について、「歴史的な権利を主張する法的根拠はない」と結論付け、さらに中国が「この海域や資源に対し、排他的な支配をしてきたという証拠はない」と指摘した。

 フィリピンの言い分をほぼ認めた形である。すなわち中国とすれば全面敗訴となった。

 これに対し、中国は判決を無視し、南シナ海での活動を自制する考えは全く見られない。いや逆に、海域の「人工島」の軍事拠点化をさらに推し進めようとしている。これでは「無法国家」である。

 責任ある大国なら、法の支配に基づきその「赤い舌」を口の中に引っ込めるべきではないだろうか。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   


板津久作(いたづ・きゅうさく)
月曜日「マンデー政経塾」担当。政治ジャーナリスト。永田町取材歴は20年。ただいま、糖質制限ダイエットに挑戦中。
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