イギリスのEU離脱による急激な円高、原油安による燃油サーチャージの無料化などの影響で、2016年の夏休みは前年比7.4%増の約260万人が海外旅行すると見込まれている(JTB調べ)。

 楽しい思い出をつくって、無事に帰国できればいいが、旅行中に思わぬケガや病気をして、現地の病院で治療を受ける人もいるだろう。その時、思い出してほしいのが、健康保険の「海外療養費」という制度だ。

 海外旅行先で現地の医療機関を受診した場合は、かかった医療費の全額を自己負担しなければならない。ただし、帰国後に健康保険組合に申請すると、医療費の一部を給付してもらうことができるのだ。払い戻しを受けるには、外国の病院で受けた治療の内容がわかる書類、領収書(明細書)が必要になるので、海外旅行先で体調を崩して受診したときは忘れずにもらっておこう。

 タレントの親族による不正受給が問題になってから、海外療養費の申請には、渡航期間のわかるパスポートのコピー、海外の病院に受診の有無を問い合わせることの同意書の提出も求められるようになっている。

 これらの必要書類を健康保険組合に提出すると、2か月程度で払い戻しを受けられる。ただし、不妊治療や美容整形、歯科治療のインプラントなど、日本国内で健康保険の対象になっていない医療行為や医薬品については、給付の対象にはならないので注意を。

 このように、海外旅行先で受けた治療費についても、健康保険から一定の給付が受けられるものの、海外旅行先での医療費は日本よりも高額になることが多い。たとえば、アメリカで旅行中に心不全と診断され、25日間入院したケースでは2347万円の高額医療費が請求されている(JTB「2015年度 海外旅行保険事故データ」より)。

 海外療養費は、現地で受けた治療を日本で受けたと仮定して、日本の医療費を基準に計算するので、アメリカのように医療費の高額な国で受けた治療費の全額をカバーすることはできない。

 海外療養費で医療費の一部は取り戻せるものの、海外で病気やケガをして医療費が高額になったときに備えて、やはり旅行前には民間の海外旅行傷害保険に加入しておきたい。

 渡航先や本人の年齢、ふだんの健康状態にもよるが、医療費が高額なアメリカ圏に行く場合は、治療・救援費用が数千万円~無制限のプランが安心だ。

 海外旅行に行く前には、旅のプランを考えるとともに、医療費の備えも忘れずにしておきたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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