年寄り3人寄れば「病気自慢」である。オレのガンマGTPは60もある、いやオレなんか100を超えているぞ。それじゃあ血圧はどうだ。オレは150だが、キサマは? オレは180だ、参ったか? 終いにはケンカになることもある。
私のは自慢ではない。30代半ばのとき、医者に診てもらうという友人と一緒に阿佐ヶ谷の病院に付き添って行ったことがあった。
医者が、ついでにお前も診てやるから、まず血圧を測れ、と声をかけられた。看護婦が血圧を測りはじめ、しばらくして「センセイ、大変です」と大声を上げた。
医者がすっ飛んできて目盛りを見た途端、「患者はお前のほうだ」と言った。血圧は220だった。以来、毎月その医者の所へ通って降圧剤をもらって飲み続けている。
10年以上血圧は高止まりしていた。だが、50近くなってゴルフを始めたら、あっという間に下がりはじめ、今も薬を飲んではいるが、上が130で下が70と安定している。
私の知人にノンフィクション作家の本田靖春さんがいる。彼は50代半ばから重度の糖尿病を患い、両目をほとんど失明、壊疽(えそ)のため両脚切断という苦しい闘病生活を送り72で亡くなった。
私も50代から血糖値が高く、糖尿病治療薬を飲み続けている。だが、本田さんの頃より薬が進歩したのか、HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)は6.3~6.5%ぐらいで落ち着いている(6.5%以上の場合、糖尿病型と判定される)。酒も毎晩かなり飲んできたが、このところ医者の勧めもあって、週1回“ほぼ禁酒の日”をつくることにしている。
前置きが長くなってしまったが、私のささやかな体験からいっても、医者と薬との出会いは偶然がほとんどである。今かかっている医者が信用できないなら、いい医者に出会うまで探し続けるしかない。
『週刊現代』(以下『現代』)が6/11号から始めた「医者に出されても飲み続けてはいけない薬」は、かなりの反響があったのであろう、6/25号からは「医者に言われても受けてはいけない手術」も始め、毎週飽きずに大特集を続けている。
月刊誌『創』9月号は「医療現場での反響は大きいようで、かかりつけの医者に患者が『週刊現代』の記事コピーを手にして『先生、私の薬は大丈夫でしょうか』と尋ねるといった事例があちこちに発生している」と報じている。
部数は好調のようだとしているが、この『現代』の記事で医療現場が混乱して困っているとブツブツ言っている医者たちのほとんどは、当該の記事を読んでいなくて、新聞広告の見出しだけを見て憤っているとも報じている。
『週刊ポスト』はこの反響にわがほうも乗り遅れまいと、6/24号で「知らずに飲んだら危険! この2年以内に『副作用』を表示せよと厚労省から指示された『有名薬』一覧」という特集を組んでいる。
ここに『週刊文春』(以下『文春』)が7/21号で「『週刊現代』医療記事はねつ造だ!」と参戦したのだ。『文春』はこの記事を掲載した理由をこう述べている。
「『週刊現代』がこうした大特集を続け、大きな反響があるのも、世の中に根強い医療不信があるからだろう。ただ、ずさんな取材に基づく記事では何も解決しない。
実際に、読者や患者が最も知りたいことは、薬の副作用ばかりではなく、本当に正しい薬の『飲み方』と『やめ方』ではないか」
統合失調症に詳しい、たかぎクリニック院長・高木俊介医師もこう話している。
「抗精神病薬に突然死などのリスクがあるのは事実です。しかし急に薬をやめると激しく再発することがあり、より悪化するケースもあります。(中略)副作用のリスクに警鐘を鳴らすのはよいのですが、薬をやめるリスクや、やめ方についても丁寧に書かないと、患者さんの人生を台無しにする恐れがあるのです」
取材された医師が、こんなことを話していないと怒っているケースもあるようだ。
危険だ危険だと言いっ放しでは、いたずらに患者を惑わせるだけになってしまうだろう。
たとえば『現代』の7/23・30号に「医師20人に聞きました『内視鏡・腹腔鏡手術』は本当に安全ですか」というのがある。
「なるべくやめたほうがいい」「やってはいけない」などの意見があるが、大学病院、民間病院、開業医とあるだけで、病院名はもちろん医者の名前もない。これでは記事のクレディビリティ(信ぴょう性)はどこにあるのか。
編集部の意図に合うようコメントを操作しているとは思わないが、「医療記事は、生命に関わるテーマで、データが正確か、科学的論拠に拠った適正な内容かといった点が非常に重要。医師をはじめとする専門家のチェックを経た上で記事を掲載すべき」(上智大学の田島泰彦教授、『文春』7/21号)という考え方も参考にすべきだろう。
もちろん医者によってそれぞれ考え方が違うこともある。どうしたら記事の信頼性を担保できるのか、『現代』編集部は熟考すべきではないだろうか。
だが、その『文春』だが、ミイラ取りがミイラになってしまったのだ。以来、それじゃあ、コチトラが正しい薬のやめ方、危険な手術の断り方を教えてしんぜようと、これまた毎号、同様の企画を始めたのだ。
『週刊朝日』も8/26号で「正しい知識を知って薬と上手に付き合おう 現役医師が手放せない薬」という特集をやっている。
『現代』(6/11号)が言っているように、こうした記事が読まれるのは、ノバルティスファーマ日本法人が起こした降圧剤・ディオバンを巡る不正事件など、製薬会社と医学部、医者、官界との癒着構造があり、医療不信、医者不信が蔓延していることが背景にあることは間違いない。
ノバルティスは社員を大学の非常勤講師に送り込み、5つの大学でデータの統計的分析を行なっただけではなく、効果を判定する委員会にも参加して、すべての情報に介入、操作していたのである。
それに各大学には毎年多額の寄付金を出し、超一流の雑誌に虚偽の報告書を載せさせ信用を得て、売上を大幅に伸ばしたのだ。
よく言われるように、製薬会社が効く安い薬より儲かる高い薬を医者に使うよう要請するのは日常茶飯事である。また、薬が病気をつくるとも言われる。新しい抗うつ剤が発売され、うつ病患者が飛躍的に増えたことはよく例に挙げられる。
こうした「原発ムラ」と酷似した構造が「薬ムラ」にはある。ここにこそメスを入れないと、製薬会社の思うままに薬の値段は上がり続け、医療費は膨らみ続けるのである。
根本治療をせずに、この薬は飲み続けてはいけない、この手術は危ないと言っても、製薬会社や医学界、天下りを狙う役人たちの意識は変わらないのである。
『現代』が何度も「飲み続けるな」と言っている糖尿病の薬に「ジャヌビア」がある。私はかなり長い間この薬を飲み続けているが、おかげさまで今のところ無事に生きている。
その薬に合う体質かどうかを医者の側が事前にチェックすることも重要なポイントであるはずだ。
先日、『研究不正』(中公新書)を出した元東大医科学研究所教授で東大名誉教授の黒木登志夫氏と会った時、飲み続けてはいけない薬というテーマを週刊誌がやっているが、どう思うかと聞いてみた。
「黒木 そこはやっぱり(読者側は)慎重に(記事について判断)したほうがいいですね。今の薬というのはブロッカー、つまり、ある作用点をブロックする薬です。睡眠薬というのは完全な睡眠の中枢だけを抑える薬じゃないんです。というのは睡眠についてよくわかっていないから、脳の活動全体を抑えて、眠くしちゃうわけです。
だけど血圧の薬とかは血圧のあるポイント、例えばカルシウムチャンネルとかアンジオテンシン受容体(Angiotensin Receptor)とか、そういうところにピンポイントで効くようにしているから、止めると三日ぐらいでその効果がなくなってしまいます」
患者にとって医者は神様である。だがその神も時として(否、往々にして)盲いることがある。
それを防ぐためには、患者側が週刊誌のような生半可な知識で右往左往するのではなく、自分で勉強するなり、信頼できる医者をいろいろな伝手を頼って探すことである。自分の命なのだから。
元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
今週はリオ五輪一色。どこのチャンネルも水泳、柔道、体操ばかりで、暑さもあってうんざりしている。ボルトの3連覇だけが記憶に残る五輪になると思うね。それ以外のニュースではSMAPの解散か。いまさら中年男たちがどうしようとほっとけばいいと、私は思う。週刊誌は合併号ばかりで憂さ晴らしもできない。ちょっと古いが3本選んでみたので、スイカでも食べながら読んでください。
第1位 「美人マネージャーと夫が手をつなぐ『松任谷由実』のルージュの伝言」(『週刊新潮』8/11・18号)
第2位 「小泉純一郎大いに語る『日本人よ、目を覚ませ!』」(『週刊現代』8/20・27号)
第3位 「『第2のちあきなおみ』という『河合奈保子』が休養20年で売れている」(『週刊新潮』8/11・18号)
第3位。このところ河合奈保子のグラビアをよく見るが、彼女が「第2のちあきなおみ」と言われていると『新潮』が書いている。
彼女は80年に「西城秀樹の妹」として芸能界に登場した。『エスカレーション』などのヒット曲を飛ばし、80年代を駆け抜けたが、96年に結婚して、以来20年近く表舞台から姿を消している。
だがデビュー35年だった昨年、往年の河合のグラビアが週刊誌に掲載されると人気を呼び、今月の31日には写真集とDVDが同時発売されるというのである。
彼女の人気の秘密を、江戸川大学の西条昇准教授(アイドル論)が解説する。
「彼女は歌が上手で、同世代アイドルの松田聖子や中森明菜と違ってスキャンダルがなく、『男の匂い』を感じさせなかった。つまり、彼女の魅力は今も真空パックされたままなのです。その点、絶頂期に引退し、全く露出がないちあきなおみさんの人気と似ている。そんな彼女をDVDや写真集で見直すことで、40代、50代の男性は、輝かしかった自分たちの青春時代を取り戻しているのでしょう」
彼女は現在、家族とともにオーストラリアで暮らしているそうだ。53歳になった河合奈保子も怖いけど見てみたいね。
第2位。『現代』で小泉純一郎元総理がお得意の「反原発」について饒舌を振るっている。
小泉元総理は自らが発起人となって、先月設立した「トモダチ作戦被害者支援基金」への寄付を誌面を通じて訴えたいという。
日本ではあまり知られていないが、トモダチ作戦で3・11の被災地支援に参加した米兵のうち約400人が、その後被曝によると思われる健康被害で除隊を強いられ、7名が白血病などで亡くなっているという。
小泉元総理はこう話す。
「日本のために全力を尽くしてくれた彼らを、日本人として見過ごすことはできない。政府が動かないのなら、われわれがやる。(中略)
7月5日に基金創設の記者会見を開き、東京新聞に一面広告も出しました。1ヵ月足らずで、もう3000万円を超える額が集まっています。募集期限は来年の3月31日ですが、少なくとも1億円は集めたいね。
原発事故当時は海に向かって風が吹くことが多かったから、放射性のプルーム(雲)が、停泊していた空母を直撃した。しかも空母では海水を濾過し、真水にして使うそうですが、放射性物質までは取り除けない。シャワーや料理に使う水もすべて汚染されていたから、兵士たちは原発事故の最前線で、内部被曝と外部被曝のダブルパンチを受けたのです。
彼らは帰国後、鼻血が出たり、下血したり、腫瘍ができたり、原因不明の体調不良に襲われた。ところが、海軍病院の医者に診てもらっても『放射能が原因とは言い切れない』と、因果関係を認めてもらえませんでした。(中略)
東電は『原発事故と体調不良に因果関係があるとは断定できない』と賠償を拒否しています。アメリカの裁判は日本と違って、原告も被告も徹底的に情報開示をしないといけませんから、『トモダチ作戦』に加わった兵士の本当の被曝線量など、表に出したくない情報が出てきてしまう。それだけは何としても避けたいのでしょう。
日本政府も沈黙しています。実は訪米前に、外務省の北米局長に会ってこの話をしたのですが、『政府として法的には何もできない』と言っていました。
基金を設立したときも一悶着ありました。信頼できる知人に『発起人になってくれないか』と頼んで回ったんですが、なかなか受けてくれない。ある財界人は『私の一存では決められない。会社に相談してみる』と持ち帰ってはくれたけど、結局NG。だから、もう少数精鋭でやろうと思ったんです。
新聞広告も、東京新聞だけでなく読売新聞にも申請していたんです。ところが読売は『裁判で係争中の事案は掲載できない』と断ってきた。理解できませんよ。だって、現に健康被害を受けている人、病に苦しんでいる人がいるわけだから。裁判でどっちが勝とうが負けようが、困っている人たちを助けなければいけないことに変わりはないでしょう」
安倍政権と原発を擁護している読売新聞のホンネが出たということである。困った新聞だ。
第1位。『新潮』は大物歌手・ユーミンこと松任谷由美(62)の夫、正隆氏(64)に“浮気疑惑”があると報じている。
グラビアページには7月上旬、東京・用賀の歩道を二人が手をつないで歩く後ろ姿が載っているが、たしかに「いい雰囲気」である。
この女性、正隆氏の女性マネージャーで31歳。マネージャーなら親しくしていてもおかしくないはずだが、彼女が半歩前を歩いたり、人影がまばらになると寄り添うというのだから、ワケアリと思われるのは致し方なかろう。
『新潮』が件(くだん)の女性を直撃する。2人はどういう関係ですか? 当然、アーティストとマネージャーだと答える。
手をつないだことは? ないですと否定するのを待って写真を見せる。動揺した彼女が事務所にいったん戻り、10分後に再び戻ってくると、こう話す。
「さっきはつないでいないと言っちゃったんですけど、実はその時、私、社内で辞める辞めないって揉めてまして、気持ちがかなりナーバスになっていまして。それを松任谷が察して、手を、あの握ってくれたと」
松任谷氏は「手をつないだのは、彼女に辞められたくないからです。すごく大切な存在なので」と答えている。
『新潮』は、ユーミンに御注進に行く。そして「ご主人がマネージャーさんと手をつないでいらっしゃったのはご存知ですか?」とインターホン越しに問いかけると、「はい」と答え、「どうお考えですか?」と重ねて問うと、「問題外です」と天晴れな答えが返ってきた。
この原稿が終わったら、夫の浮気に怒った妻の家出を歌った『ルージュの伝言』を聞いてみよう。
私のは自慢ではない。30代半ばのとき、医者に診てもらうという友人と一緒に阿佐ヶ谷の病院に付き添って行ったことがあった。
医者が、ついでにお前も診てやるから、まず血圧を測れ、と声をかけられた。看護婦が血圧を測りはじめ、しばらくして「センセイ、大変です」と大声を上げた。
医者がすっ飛んできて目盛りを見た途端、「患者はお前のほうだ」と言った。血圧は220だった。以来、毎月その医者の所へ通って降圧剤をもらって飲み続けている。
10年以上血圧は高止まりしていた。だが、50近くなってゴルフを始めたら、あっという間に下がりはじめ、今も薬を飲んではいるが、上が130で下が70と安定している。
私の知人にノンフィクション作家の本田靖春さんがいる。彼は50代半ばから重度の糖尿病を患い、両目をほとんど失明、壊疽(えそ)のため両脚切断という苦しい闘病生活を送り72で亡くなった。
私も50代から血糖値が高く、糖尿病治療薬を飲み続けている。だが、本田さんの頃より薬が進歩したのか、HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)は6.3~6.5%ぐらいで落ち着いている(6.5%以上の場合、糖尿病型と判定される)。酒も毎晩かなり飲んできたが、このところ医者の勧めもあって、週1回“ほぼ禁酒の日”をつくることにしている。
前置きが長くなってしまったが、私のささやかな体験からいっても、医者と薬との出会いは偶然がほとんどである。今かかっている医者が信用できないなら、いい医者に出会うまで探し続けるしかない。
『週刊現代』(以下『現代』)が6/11号から始めた「医者に出されても飲み続けてはいけない薬」は、かなりの反響があったのであろう、6/25号からは「医者に言われても受けてはいけない手術」も始め、毎週飽きずに大特集を続けている。
月刊誌『創』9月号は「医療現場での反響は大きいようで、かかりつけの医者に患者が『週刊現代』の記事コピーを手にして『先生、私の薬は大丈夫でしょうか』と尋ねるといった事例があちこちに発生している」と報じている。
部数は好調のようだとしているが、この『現代』の記事で医療現場が混乱して困っているとブツブツ言っている医者たちのほとんどは、当該の記事を読んでいなくて、新聞広告の見出しだけを見て憤っているとも報じている。
『週刊ポスト』はこの反響にわがほうも乗り遅れまいと、6/24号で「知らずに飲んだら危険! この2年以内に『副作用』を表示せよと厚労省から指示された『有名薬』一覧」という特集を組んでいる。
ここに『週刊文春』(以下『文春』)が7/21号で「『週刊現代』医療記事はねつ造だ!」と参戦したのだ。『文春』はこの記事を掲載した理由をこう述べている。
「『週刊現代』がこうした大特集を続け、大きな反響があるのも、世の中に根強い医療不信があるからだろう。ただ、ずさんな取材に基づく記事では何も解決しない。
実際に、読者や患者が最も知りたいことは、薬の副作用ばかりではなく、本当に正しい薬の『飲み方』と『やめ方』ではないか」
統合失調症に詳しい、たかぎクリニック院長・高木俊介医師もこう話している。
「抗精神病薬に突然死などのリスクがあるのは事実です。しかし急に薬をやめると激しく再発することがあり、より悪化するケースもあります。(中略)副作用のリスクに警鐘を鳴らすのはよいのですが、薬をやめるリスクや、やめ方についても丁寧に書かないと、患者さんの人生を台無しにする恐れがあるのです」
取材された医師が、こんなことを話していないと怒っているケースもあるようだ。
危険だ危険だと言いっ放しでは、いたずらに患者を惑わせるだけになってしまうだろう。
たとえば『現代』の7/23・30号に「医師20人に聞きました『内視鏡・腹腔鏡手術』は本当に安全ですか」というのがある。
「なるべくやめたほうがいい」「やってはいけない」などの意見があるが、大学病院、民間病院、開業医とあるだけで、病院名はもちろん医者の名前もない。これでは記事のクレディビリティ(信ぴょう性)はどこにあるのか。
編集部の意図に合うようコメントを操作しているとは思わないが、「医療記事は、生命に関わるテーマで、データが正確か、科学的論拠に拠った適正な内容かといった点が非常に重要。医師をはじめとする専門家のチェックを経た上で記事を掲載すべき」(上智大学の田島泰彦教授、『文春』7/21号)という考え方も参考にすべきだろう。
もちろん医者によってそれぞれ考え方が違うこともある。どうしたら記事の信頼性を担保できるのか、『現代』編集部は熟考すべきではないだろうか。
だが、その『文春』だが、ミイラ取りがミイラになってしまったのだ。以来、それじゃあ、コチトラが正しい薬のやめ方、危険な手術の断り方を教えてしんぜようと、これまた毎号、同様の企画を始めたのだ。
『週刊朝日』も8/26号で「正しい知識を知って薬と上手に付き合おう 現役医師が手放せない薬」という特集をやっている。
『現代』(6/11号)が言っているように、こうした記事が読まれるのは、ノバルティスファーマ日本法人が起こした降圧剤・ディオバンを巡る不正事件など、製薬会社と医学部、医者、官界との癒着構造があり、医療不信、医者不信が蔓延していることが背景にあることは間違いない。
ノバルティスは社員を大学の非常勤講師に送り込み、5つの大学でデータの統計的分析を行なっただけではなく、効果を判定する委員会にも参加して、すべての情報に介入、操作していたのである。
それに各大学には毎年多額の寄付金を出し、超一流の雑誌に虚偽の報告書を載せさせ信用を得て、売上を大幅に伸ばしたのだ。
よく言われるように、製薬会社が効く安い薬より儲かる高い薬を医者に使うよう要請するのは日常茶飯事である。また、薬が病気をつくるとも言われる。新しい抗うつ剤が発売され、うつ病患者が飛躍的に増えたことはよく例に挙げられる。
こうした「原発ムラ」と酷似した構造が「薬ムラ」にはある。ここにこそメスを入れないと、製薬会社の思うままに薬の値段は上がり続け、医療費は膨らみ続けるのである。
根本治療をせずに、この薬は飲み続けてはいけない、この手術は危ないと言っても、製薬会社や医学界、天下りを狙う役人たちの意識は変わらないのである。
『現代』が何度も「飲み続けるな」と言っている糖尿病の薬に「ジャヌビア」がある。私はかなり長い間この薬を飲み続けているが、おかげさまで今のところ無事に生きている。
その薬に合う体質かどうかを医者の側が事前にチェックすることも重要なポイントであるはずだ。
先日、『研究不正』(中公新書)を出した元東大医科学研究所教授で東大名誉教授の黒木登志夫氏と会った時、飲み続けてはいけない薬というテーマを週刊誌がやっているが、どう思うかと聞いてみた。
「黒木 そこはやっぱり(読者側は)慎重に(記事について判断)したほうがいいですね。今の薬というのはブロッカー、つまり、ある作用点をブロックする薬です。睡眠薬というのは完全な睡眠の中枢だけを抑える薬じゃないんです。というのは睡眠についてよくわかっていないから、脳の活動全体を抑えて、眠くしちゃうわけです。
だけど血圧の薬とかは血圧のあるポイント、例えばカルシウムチャンネルとかアンジオテンシン受容体(Angiotensin Receptor)とか、そういうところにピンポイントで効くようにしているから、止めると三日ぐらいでその効果がなくなってしまいます」
患者にとって医者は神様である。だがその神も時として(否、往々にして)盲いることがある。
それを防ぐためには、患者側が週刊誌のような生半可な知識で右往左往するのではなく、自分で勉強するなり、信頼できる医者をいろいろな伝手を頼って探すことである。自分の命なのだから。
元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
今週はリオ五輪一色。どこのチャンネルも水泳、柔道、体操ばかりで、暑さもあってうんざりしている。ボルトの3連覇だけが記憶に残る五輪になると思うね。それ以外のニュースではSMAPの解散か。いまさら中年男たちがどうしようとほっとけばいいと、私は思う。週刊誌は合併号ばかりで憂さ晴らしもできない。ちょっと古いが3本選んでみたので、スイカでも食べながら読んでください。
第1位 「美人マネージャーと夫が手をつなぐ『松任谷由実』のルージュの伝言」(『週刊新潮』8/11・18号)
第2位 「小泉純一郎大いに語る『日本人よ、目を覚ませ!』」(『週刊現代』8/20・27号)
第3位 「『第2のちあきなおみ』という『河合奈保子』が休養20年で売れている」(『週刊新潮』8/11・18号)
第3位。このところ河合奈保子のグラビアをよく見るが、彼女が「第2のちあきなおみ」と言われていると『新潮』が書いている。
彼女は80年に「西城秀樹の妹」として芸能界に登場した。『エスカレーション』などのヒット曲を飛ばし、80年代を駆け抜けたが、96年に結婚して、以来20年近く表舞台から姿を消している。
だがデビュー35年だった昨年、往年の河合のグラビアが週刊誌に掲載されると人気を呼び、今月の31日には写真集とDVDが同時発売されるというのである。
彼女の人気の秘密を、江戸川大学の西条昇准教授(アイドル論)が解説する。
「彼女は歌が上手で、同世代アイドルの松田聖子や中森明菜と違ってスキャンダルがなく、『男の匂い』を感じさせなかった。つまり、彼女の魅力は今も真空パックされたままなのです。その点、絶頂期に引退し、全く露出がないちあきなおみさんの人気と似ている。そんな彼女をDVDや写真集で見直すことで、40代、50代の男性は、輝かしかった自分たちの青春時代を取り戻しているのでしょう」
彼女は現在、家族とともにオーストラリアで暮らしているそうだ。53歳になった河合奈保子も怖いけど見てみたいね。
第2位。『現代』で小泉純一郎元総理がお得意の「反原発」について饒舌を振るっている。
小泉元総理は自らが発起人となって、先月設立した「トモダチ作戦被害者支援基金」への寄付を誌面を通じて訴えたいという。
日本ではあまり知られていないが、トモダチ作戦で3・11の被災地支援に参加した米兵のうち約400人が、その後被曝によると思われる健康被害で除隊を強いられ、7名が白血病などで亡くなっているという。
小泉元総理はこう話す。
「日本のために全力を尽くしてくれた彼らを、日本人として見過ごすことはできない。政府が動かないのなら、われわれがやる。(中略)
7月5日に基金創設の記者会見を開き、東京新聞に一面広告も出しました。1ヵ月足らずで、もう3000万円を超える額が集まっています。募集期限は来年の3月31日ですが、少なくとも1億円は集めたいね。
原発事故当時は海に向かって風が吹くことが多かったから、放射性のプルーム(雲)が、停泊していた空母を直撃した。しかも空母では海水を濾過し、真水にして使うそうですが、放射性物質までは取り除けない。シャワーや料理に使う水もすべて汚染されていたから、兵士たちは原発事故の最前線で、内部被曝と外部被曝のダブルパンチを受けたのです。
彼らは帰国後、鼻血が出たり、下血したり、腫瘍ができたり、原因不明の体調不良に襲われた。ところが、海軍病院の医者に診てもらっても『放射能が原因とは言い切れない』と、因果関係を認めてもらえませんでした。(中略)
東電は『原発事故と体調不良に因果関係があるとは断定できない』と賠償を拒否しています。アメリカの裁判は日本と違って、原告も被告も徹底的に情報開示をしないといけませんから、『トモダチ作戦』に加わった兵士の本当の被曝線量など、表に出したくない情報が出てきてしまう。それだけは何としても避けたいのでしょう。
日本政府も沈黙しています。実は訪米前に、外務省の北米局長に会ってこの話をしたのですが、『政府として法的には何もできない』と言っていました。
基金を設立したときも一悶着ありました。信頼できる知人に『発起人になってくれないか』と頼んで回ったんですが、なかなか受けてくれない。ある財界人は『私の一存では決められない。会社に相談してみる』と持ち帰ってはくれたけど、結局NG。だから、もう少数精鋭でやろうと思ったんです。
新聞広告も、東京新聞だけでなく読売新聞にも申請していたんです。ところが読売は『裁判で係争中の事案は掲載できない』と断ってきた。理解できませんよ。だって、現に健康被害を受けている人、病に苦しんでいる人がいるわけだから。裁判でどっちが勝とうが負けようが、困っている人たちを助けなければいけないことに変わりはないでしょう」
安倍政権と原発を擁護している読売新聞のホンネが出たということである。困った新聞だ。
第1位。『新潮』は大物歌手・ユーミンこと松任谷由美(62)の夫、正隆氏(64)に“浮気疑惑”があると報じている。
グラビアページには7月上旬、東京・用賀の歩道を二人が手をつないで歩く後ろ姿が載っているが、たしかに「いい雰囲気」である。
この女性、正隆氏の女性マネージャーで31歳。マネージャーなら親しくしていてもおかしくないはずだが、彼女が半歩前を歩いたり、人影がまばらになると寄り添うというのだから、ワケアリと思われるのは致し方なかろう。
『新潮』が件(くだん)の女性を直撃する。2人はどういう関係ですか? 当然、アーティストとマネージャーだと答える。
手をつないだことは? ないですと否定するのを待って写真を見せる。動揺した彼女が事務所にいったん戻り、10分後に再び戻ってくると、こう話す。
「さっきはつないでいないと言っちゃったんですけど、実はその時、私、社内で辞める辞めないって揉めてまして、気持ちがかなりナーバスになっていまして。それを松任谷が察して、手を、あの握ってくれたと」
松任谷氏は「手をつないだのは、彼女に辞められたくないからです。すごく大切な存在なので」と答えている。
『新潮』は、ユーミンに御注進に行く。そして「ご主人がマネージャーさんと手をつないでいらっしゃったのはご存知ですか?」とインターホン越しに問いかけると、「はい」と答え、「どうお考えですか?」と重ねて問うと、「問題外です」と天晴れな答えが返ってきた。
この原稿が終わったら、夫の浮気に怒った妻の家出を歌った『ルージュの伝言』を聞いてみよう。