「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる新しいがんの治療薬が話題になっている。
一般的な抗がん剤が、がん細胞に直接作用して、がんの増殖を抑えるのに対して、免疫チェックポイント阻害薬は、本来、人間の体がもっている免疫力を引き出して、がん細胞を間接的に攻撃する。
がんは、遺伝子(DNA)が損傷することで起こる病気だが、通常ならDNAに傷がついてがん細胞が発生しても、人が本来もつ免疫の力によって排除されてしまう。ところが、がん細胞も生き残りをかけて、免疫の働きにブレーキをかけるたんぱく質を発生させ、自分が「がん細胞」であることを認識させないようにするため、免疫の攻撃力は弱まり、がん細胞が分裂・増殖していくのだ。
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫の働きにブレーキをかけるがん細胞の力を解除して、免疫力を活性化させる。本来の免疫とがん細胞の戦いを継続させることで、がんの分裂・増殖を抑える作用がある。これまで治療法が見つからなかった末期がんでも、劇的な効果が出ることもあり、使用を希望するがんの患者も多い。
だが、免疫チェックポイント阻害薬の利用には慎重論も出ている。
現在、オプジーボ(一般名ニボルマブ)、ヤーボイ(一般名イピリムマブ)という2つの免疫チェックポイント阻害薬が発売されており、一部のがんに健康保険が適用されている。
まず、2014年7月に、オプジーボが皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)に保険適用され、2015年12月に非小細胞肺がんにも追加適用された。ヤーボイは、2015年7月にメラノーマで承認された(いずれも手術できないがんの場合)。
これらの免疫チェックポイント阻害薬を使用したことで、末期のがんが小さくなったり、がん細胞が消失したりした人もいる。期待を寄せる声は大きいが、劇的な効果が見られるのは3割程度で、残りの7割はさほど大きな効果は見られないという。
また、阻害薬を利用した1割程度の患者に、間質性肺炎、甲状腺の機能障害、劇症Ⅰ型糖尿病、自己免疫性腸炎、重症筋無力症が起こるなど、これまでの抗がん剤にはない重篤な副作用も報告されている。
薬価が非常に高額なことも悩ましい問題だ。
たとえば、肺がんの患者に標準的な使用方法でオプジーボを使った場合、1年間の薬剤費はひとりあたり3500万円程度。健康保険が適用されるので、患者はこの一部を負担するだけでよいが、もしも適用対象となるすべての肺がん患者が使用すると、オプジーボ1剤だけで年間1兆7500億円かかるという試算が飛び出し、国民皆保険崩壊論が語られるまでになった。
その後、高額な医薬品をめぐる国の議論が進み、1つの薬剤が一定額以上売れた場合は薬価を大幅に引き下げるルールもできたが、この試算が社会に与えた影響は大きく、高額医薬品への警戒が強まっているのだ。
国は高額な医薬品を健康保険で利用する際のガイドラインを策定して、治療可能な医療機関に一定要件を設け、利用できる患者を事前に絞り込む仕組みを検討している。また、医薬品メーカーも、阻害薬の投与前に、効果が出やすいかどうかを調べる診断薬の開発も進めている。
免疫チェックポイント阻害薬は、すべてのがんを治せる「夢の新薬」ではない。限られた国の予算のなかで、できるだけ効果的な治療をするためには、効果が期待できる患者に絞り込んで薬剤を投与するのは合理的な判断なのかもしれない。だが、藁をもすがる患者からすれば、治る可能性があるなら使ってみたいと思うのが人情だ。
使える患者の絞り込みは、命の線引きにもつながる。財政論に引きずられて、ヒューマニズムの観点を忘れないように、慎重な議論を願いたい。
一般的な抗がん剤が、がん細胞に直接作用して、がんの増殖を抑えるのに対して、免疫チェックポイント阻害薬は、本来、人間の体がもっている免疫力を引き出して、がん細胞を間接的に攻撃する。
がんは、遺伝子(DNA)が損傷することで起こる病気だが、通常ならDNAに傷がついてがん細胞が発生しても、人が本来もつ免疫の力によって排除されてしまう。ところが、がん細胞も生き残りをかけて、免疫の働きにブレーキをかけるたんぱく質を発生させ、自分が「がん細胞」であることを認識させないようにするため、免疫の攻撃力は弱まり、がん細胞が分裂・増殖していくのだ。
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫の働きにブレーキをかけるがん細胞の力を解除して、免疫力を活性化させる。本来の免疫とがん細胞の戦いを継続させることで、がんの分裂・増殖を抑える作用がある。これまで治療法が見つからなかった末期がんでも、劇的な効果が出ることもあり、使用を希望するがんの患者も多い。
だが、免疫チェックポイント阻害薬の利用には慎重論も出ている。
現在、オプジーボ(一般名ニボルマブ)、ヤーボイ(一般名イピリムマブ)という2つの免疫チェックポイント阻害薬が発売されており、一部のがんに健康保険が適用されている。
まず、2014年7月に、オプジーボが皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)に保険適用され、2015年12月に非小細胞肺がんにも追加適用された。ヤーボイは、2015年7月にメラノーマで承認された(いずれも手術できないがんの場合)。
これらの免疫チェックポイント阻害薬を使用したことで、末期のがんが小さくなったり、がん細胞が消失したりした人もいる。期待を寄せる声は大きいが、劇的な効果が見られるのは3割程度で、残りの7割はさほど大きな効果は見られないという。
また、阻害薬を利用した1割程度の患者に、間質性肺炎、甲状腺の機能障害、劇症Ⅰ型糖尿病、自己免疫性腸炎、重症筋無力症が起こるなど、これまでの抗がん剤にはない重篤な副作用も報告されている。
薬価が非常に高額なことも悩ましい問題だ。
たとえば、肺がんの患者に標準的な使用方法でオプジーボを使った場合、1年間の薬剤費はひとりあたり3500万円程度。健康保険が適用されるので、患者はこの一部を負担するだけでよいが、もしも適用対象となるすべての肺がん患者が使用すると、オプジーボ1剤だけで年間1兆7500億円かかるという試算が飛び出し、国民皆保険崩壊論が語られるまでになった。
その後、高額な医薬品をめぐる国の議論が進み、1つの薬剤が一定額以上売れた場合は薬価を大幅に引き下げるルールもできたが、この試算が社会に与えた影響は大きく、高額医薬品への警戒が強まっているのだ。
国は高額な医薬品を健康保険で利用する際のガイドラインを策定して、治療可能な医療機関に一定要件を設け、利用できる患者を事前に絞り込む仕組みを検討している。また、医薬品メーカーも、阻害薬の投与前に、効果が出やすいかどうかを調べる診断薬の開発も進めている。
免疫チェックポイント阻害薬は、すべてのがんを治せる「夢の新薬」ではない。限られた国の予算のなかで、できるだけ効果的な治療をするためには、効果が期待できる患者に絞り込んで薬剤を投与するのは合理的な判断なのかもしれない。だが、藁をもすがる患者からすれば、治る可能性があるなら使ってみたいと思うのが人情だ。
使える患者の絞り込みは、命の線引きにもつながる。財政論に引きずられて、ヒューマニズムの観点を忘れないように、慎重な議論を願いたい。