出版不況といわれて久しいが、だからこそ売ることにアクティブな書店の存在は希望の灯だ。棚は読書家がそそるように工夫され、トレンドを反映したフェアも充実。販促のため店頭に掲げられたPOP広告も、ありものではなく情熱的な手書きだ。このおもしろい本を、みんなに知ってほしい!という気持ちが伝わってくる。

 盛岡駅の駅ビルにある「さわや書店フェザン店」も、そんなアツい本屋の一つである。いまこの店舗は、「文庫X」と銘打ったユニークな試みが全国的な話題となっているところだ。あるオススメの書籍を、タイトル・著者名はおろか、内容にもいっさい触れず(ただし小説ではないことは明示されている)、シークレットな状態で店頭に並べたのである。お客は、書店員の手書きメッセージだけを頼りに、いくばくかのスリルを楽しみながら本を購入する(編集部注:500ページ超で価格は税込みで810円)。

 念のため、売れ残りの本を福袋的に処分しようとしたわけではない。担当の書店員は、文庫Xの「正体」に心を動かされたが、決して売りやすい本とはいえず、どう勧めていいかわからなかった。考え抜いた末の策だったのである。この策は奏功し、文庫Xは1か月あまりで1000冊以上売れたという。さらに、岩手県以外の全国に取り扱いが拡大し、いまだ絶好調だ。

 なお文庫Xの「正体」だが、本好きはマナーを心得ているというべきか、ネット上でのネタバレはほとんど見られない。今年12月には、さわや書店内のベスト本を決めるイベント「さわベス」の中で公表される予定となっている。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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