「トリプルネガティブ」は、近年の研究で明らかになった乳がんのタイプのひとつ。

 乳がんは、エストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモン、HER2(ハーツー)というタンパク質を感知する受容体があるかどうかで、4つのタイプに分類される。

 通常は、患者のがん細胞の受容体を調べて、がんの増殖を抑える抗がん剤などを投与する。女性ホルモン受容体のあるタイプのがんにはホルモン療法、HER2受容体をもつタイプのがんならハーセプチンなどの抗がん剤が用いられる。

 ところが、トリプルネガティブ乳がんは、女性ホルモンの受容体も、HER2の受容体もなく、がん細胞が増殖していく原因が現状では解明されていない。その他の乳がんに効果的なホルモン療法や分子標的薬などが使えないので、治療が限定的になり、再発や転移をしやすくなり、予後がよくないことも多くなる。

 現在、乳がん患者全体の10~15%が、このトリプルネガティブだと言われているが、治療法がないわけではない。基本的には、その他の乳がんと同じように、腫瘍を取り除く手術と抗がん剤による補助化学療法を組み合わせる方法がとられる。

 抗がん剤選びは難しいが、トリプルネガティブ乳がんは、原因となる受容体が見つからないものをまとめて分類しているので、同じ抗がん剤でも患者によって効果が異なる。トリプルネガティブと言われた患者のすべてに効果がある標準治療は確立していないため、手探りで薬剤を選んでいくことになるが、最近の研究では効果の出やすい抗がん剤の種類も徐々に報告されるようになっている。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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