「育ってきた環境の違いなのか、そばの茹で汁を飲む人をはじめてみた。そば湯だからと言うのだけど、茹で汁ごときを健康に良いといって平然と飲む姿を受け入れられそうにない」(全文を原文ママ表示)

 とある女性が『はてな匿名ダイアリー』に投稿した、上記の「そばの茹で汁を平気で飲む彼氏」というタイトルのブログから端を発した論争のこと。

 これをめぐってネット上では、「そば湯を知らない人がいるのか」「まともな蕎麦屋行ったこと無いんじゃないのか」「そば湯知らんとかどんな人生歩んだらそうなるのか」……ほか諸々の驚きの声が殺到し、ツイッターのトレンドワードにも一時「そば湯」という単語が登場するほどの騒ぎになったらしい。

 しかし、大学を卒業する約30年前まで大阪に在住していた筆者は、じつのところ上京するまで“そば湯”の存在を知らなかったのもまた事実で、西日本では関東ほど“そば湯文化”がそこまで浸透していない可能性を考慮し、さらには仮にこのブログの筆者が西日本出身の女性だとすれば、この乱暴な問題提起も納得できなくはない……と思われる。

 ちなみに、関西の「たぬきそば」は、関東の「揚げ玉入りそば」とは違って「甘い油揚げ入りそば」のことを指す。つまり、「うどんとそば」「きつねとたぬき」を反意語と見なした、上方ならではの洒落っ気が語源となっているわけだ(=「きつねそば」「たぬきうどん」は理屈上、関西には存在しない)。

 対して、関東の「たぬき」は一説に「(てんぷらの)たね(=具)をぬく(=抜く)」が語源で、これはどちらかと言えば“粋”といった風情の語源である。

 もちろん、優劣を付けるような問題ではないのだけれど、そば&うどんを肴とする東西あるあるネタは、まことにもって奥が深い……。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


山田ゴメス(やまだ・ごめす)
日曜日「ゴメスの日曜俗語館」を担当。大阪府生まれ。エロからファッション、学年誌、音楽&美術評論、漫画原作まで、記名・無記名を問わず幅広く精通するマルチライター。『現代用語の基礎知識』2005年版では「おとなの現代用語」項目、2007年版では「生活スタイル事典」項目一部を担当。現在「日刊SPA!」「All About」の連載やバラエティ番組『解決!ナイナイアンサー」(日本テレビ)の相談員で活躍。著書に『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)など。趣味は草野球と阪神タイガース。
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