11月1日、大手広告代理店の電通が、子育てサポート企業だと国が認めた「くるみんマーク」を返上した。

 「くるみんマーク」は、次世代育成支援対策推進法に基づき、2007年に始まった「子育てサポート企業」に認定された企業に付与される証だ。「くるみん」という愛称は、赤ちゃんを大事にくるむ(包む)イメージから発想された。

 認定を受けるためには、育児休業取得率の向上や残業時間の削減、フレックスタイム制や変形労働時間制の導入など、すべての従業員が子育てと仕事を両立できる雇用環境や労働条件を整える必要がある。その上で、企業が守るべき行動計画を公表。従業員にも周知し、都道府県の労働局に届け出ることが義務づけられている(従業員100人以下の企業は努力義務)。

 そして、行動計画で定めた目標を達成するなど、一定の要件を満たした企業が、都道府県の労働局に申請すると、厚生労働大臣から「子育てサポート企業」として認定される。

 認定を受けると、一定の税制優遇が受けられ、子育てに理解のある企業の証である「くるみんマーク」を表示できるため、2016年9月末時点で2657社が「くるみんマーク」の認定を受けている。

 電通は、2007年、2013年、2015年に「くるみんマーク」の認定を受けた。だが、先ごろの女性従業員の過労自殺は、明らかに労働基準法に抵触している。子育てサポート企業の認定基準には、「次世代法や労働基準法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などの関連法令に違反する重大な事実がないことが必要」と明記されており、電通が子育てサポート企業としての実態が伴っていないことが露呈。認定マークの返上に追い込まれた。

 だが、「くるみんマーク」の実態が伴っていないのは、電通だけなのか。2015年度の男性労働者の育児休業取得率は、わずか2.65%。労働時間の長さから復職をためらったり、待機児童問題から働きたくても働けない女性たちも数多くいる。今回の電通の過労自殺は、氷山の一角という見方もある。

 くるみんマークを取得した企業は、税制優遇を受けている。その社会的責任を果たすためにも、行動計画が計画倒れに終わらないように、本当の意味で子育てをサポートする企業であってほしい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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