まず、葱は葉葱(青葱)と根深葱(白葱)に大別される。九条葱は、葉葱の代表的な品種であり、京野菜の一つである。食べるのは、尖った葉先側の青いほうで、この部分の肉が厚く、甘みに富み、ほどよい苦みも含まれている。最大の特徴は値段の高さだ。九条葱は一般的な葱の数倍の値段だ。その理由は、生産地が限られた在来品種の上、栽培の手間がかかることにある。九条葱の栽培は、種まき後に2度の植え替えを行ない、その時に葱苗(ねぎなえ)と呼ばれる天日干しや根切りを行なう必要がある。種まきから収穫までに1年以上の期間が必要である。青い葱でも、小葱(万能葱など)が中心の東日本と比べ、京都や大阪で葉葱が根付いている理由は、葉葱が暑さに強いからである。冬の気候が比較的温暖な関西は、霜を浴びながら緑葉が育つことで、柔らかさと甘みが一緒に増していくそうだ。

 このような九条葱を野菜の主役として楽しむのが、京都人の食べ方の特徴といえよう。すき焼きや水炊きのとき、野菜の大半を占めるのは九条葱であり、「鍋料理では山盛りの九条葱をポン酢で」という食べ方が一種の常識になっている。また、お好み焼きのキャベツの代わりに葱を入れる「葱焼き」をはじめ、「葱うどん」に「葱ラーメン」、サツマイモと炊き合わせた「葱とおいも」のおばんざいなど、葱主体で食べられる名物料理が数多い。

 京都に葉葱が伝えられたのは古く、711(和銅4)年に伏見稲荷大社(伏見区)が建立された頃といわれている。その後、京都市南部の肥沃な土地で長く品種改良が続けられ、現在の「九条葱」が生み出された。1686(貞享3)年に刊行された京都府中南部の地誌『雍州府志(ようしゅうふし)』には、九条通近くの東寺周辺で、おいしい葱が収穫されているという記録がある。この史実が「九条葱」という現在の名称の由来だと考えられている。


祇をん・萬屋のネギうどん。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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