早春の2月頃に小輪で一重の花を咲かせる。椿の近種とされているが、植物分類学上の位置づけは定かでない。その理由は自ら種子をつくらないことに由縁し、良木の接ぎ木によって増やされてきたためである。白と紅の交じった花を咲かせるものが「侘助」、紅一色は「紅侘助」、白一色を「白侘助」と呼び、この三品種がよく見られる。このほか薄紅色のものを中心に、「有楽(うらく)」、「数寄屋」、「昭和侘助」などの種類がある。

 お茶会で使われる花を「茶花(ちゃばな)」というが、寒い季節に華やかな椿はたいへん重宝され、「茶花の女王」という異名をもっている。その中でも「侘助」は「千利休好み」といわれる特別な存在で、その控えめな美しさから「わび」「さび」の世界を置き換えて表現することのできる花だとされている。

 大徳寺塔頭(たっちゅう)である総見院(北区)には、日本最古の「胡蝶侘助(侘助の品種)」で千利休遺愛とされる、樹齢400年の「侘助」が生き続けている。京都で見かける侘助の多くが、この老木より接がれ、数百年、数十年と育まれてきた分身である。

 「侘助」という名称は、いかにもこの老木の来歴と深く関わりがありそうだが、詳しくはわかっていない。総見院の寺伝によれば、豊臣秀吉が千利休に与えた(もしくは秀吉が利休から譲り受けたという説も)と記されているそうだが、一説に千利休の下僕で茶人の「侘助」という人物からもらったとも、加藤清正が朝鮮から持ち帰ったともいわれている。「侘び数寄」ということばが転訛したという説もある。どの発祥説も面白く、謎めいている。これほど風変わりな美しい花がほかにあるだろうか。


織田信長の弟で茶人の織田有楽斉にゆかりの品種「有楽」。東日本では「太郎冠者」と呼ばれることが多いそうだ。



白侘助。


京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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