1月16日、貧困撲滅に取り組んでいる国際NGO「オックスファム(Oxfam)」が、ダボス会議(世界経済フォーラム)にぶつけて、格差問題に関する報告書「99%のための経済(An Economy for the 99%)」を発表した。

 この報告書で、富裕層と貧困層の間に横たわる経済格差が、これまでよりも広がっていることをが明らかになった。そして、格差を示す象徴的な言葉として用いられたのが「8人と36億人」という比較だ。

 世界でもっとも裕福な富豪8人の資産総額は約4260億ドル(約48兆6000億円)で、世界人口のうち所得の低い半分にあたる36億7500万人の資産総額とほぼ同じだという。

 「富豪8人」として紹介されたのは、アメリカの「マイクロソフト」創業者のビル・ゲイツ氏、低価格を売りにするスペインのファッションブランド「ザラ」のアマンシオ・オルテガ氏、世界の投資家として名を馳せるウォーレン・バフェット氏、メキシコの実業家のカルロス・スリム・ヘル氏、アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏、オラクル創業者のラリー・エリソン氏、アメリカの通信社、ブルームバーグの創立者で前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏だ。ほとんどがグローバルに展開する企業の関係者で、世界から富を得ている人々だ。

 報告書では、10人にひとりが1日2ドル以下で暮らすことを余儀なくされているなかで、一握りの人が莫大な富を得ていることを批判。格差拡大が社会に亀裂をつくり、民主主義を脅かしていると警鐘を鳴らしている。

 オックスファムは、格差拡大の背景にあるものを、納めるべき租税を回避したり、経済力によって政治を動かし都合のよいルール作りをしたりしている企業や富裕層に原因があると分析。そして、各国政府が租税回避を阻止して「裕福な個人と企業」に対する課税額を引き上げ、国家間の法人税引き下げ競争を終わらせるように、各国が協議することを要求している。

 これを受けて、ダボス会議は今年「包摂的な成長(インクルーシブ・グロース)」という一応の格差対策が盛り込まれた報告書を発表した。だが、具体的なルールの見直しなどは示されず、反対にグローバリズムの効用ばかりが示された。

 日本でも、2016年度、2018年度に、法人税率が2段階で引き下げられることになっている。オックスファムが批判する世界の動きに追随しており、今後ますます格差の拡大が懸念される。

 だれもが医療や教育を受けられ、自分らしく生きていくための社会を実現するために、持続可能な富の再分配とはどのような形なのか。「8人と36億人」の比較から考えてみたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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