警察によるGPS(全地球測位システム)捜査は、重大なプライバシーの侵害にあたるのか。
3月15日、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は、「裁判所の捜査令状を取らずにGPSを使った警察の捜査は違法である」とする判決を下した。
最高裁判決が下されたのは窃盗事件の上告審だが、争点は警察の捜査手法で、GPS捜査が重大なプライバシーの侵害にあたるかどうかが問われる裁判となった。
警察は令状を取らずに、関西を中心に窃盗を繰り返していた男と共犯者の車やバイクにGPS端末を取り付けて位置情報を継続的に確認。捜査員はGPSのバッテリー交換のために、無断で私有地に立ち入るなどの行為を行なっていたのだ。窃盗は犯罪ではある。だが、捜査だからといって警察なら何をしてもいいわけではない。法治国家であるならば、人権を無視した捜査は許されないはずだ。
そのため、一審の大阪地裁は、この捜査手法が「プライバシーを大きく侵害する強制捜査にあたる」と判断し、GPSによる証拠を排除して残りの証拠で被告を実刑とした。だが、二審の大阪高裁判決では有罪を維持しながら、「GPS捜査に重大な違法性はない」として一審判決を覆す内容となり、被告が上告していた。
2月22日、原告・被告双方の主張を聞く弁論で、GPS捜査について検察側は「令状のいらない任意捜査の範囲内」「令状不要の張り込みや尾行を超えるプライバシーの侵害はない」と主張。一方、弁護側は「令状がなければできない強制捜査。GPSによる行動監視は重大なプライバシーの侵害にあたる」として、権力による行動の監視を牽制していた。
だが、犯罪容疑に関する権利は、憲法第三十五条で次のように決められている。
憲法第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
今回の最高裁判決では、憲法で定めた犯罪容疑に関する権利に「私的領域に侵入されない権利も含まれる」として、GPS捜査も権利保護の対象になるという見解を示した。
人工衛星からの電波で現在位置を測るGPSを用いると、「いつどこにいたか」という行動のすべてを把握できるので、犯罪容疑とは直接関係のない情報まで警察が収集し蓄積することも可能になる。人には知られたくない情報を警察が握ることで、個人が不利な立場に追い込まれることも予想される。
最高裁大法廷は裁判官15人の全員一致で「GPS捜査は、プライバシーを侵害し、令状が必要な強制捜査にあたる」と認定。現在の刑事訴訟法の枠組みでGPS捜査を行なうのは、手続きの公平さが担保する仕組みがないとして、新たな立法措置が必要という見解を示したのだ。
今回の最高裁判決を受けて、警察庁はGPS捜査を控えるように全国の警察に通達。今後、法務省で特別法の制定などが検討される予定で、立法化されるまでは「ごく限られたきわめて重大な犯罪」に限って、現行の令状で捜査が認められることになりそうだ。
これまでGPS捜査は、令状のいらない任意捜査と位置づけられ、当たり前に使われてきた。だが、今回のGPS捜査に関する最高裁判決によって、警察には法律の根拠なく行なってきた情報収集活動を見直すことが求められる。
4月6日に、衆議院本会議で審議入りした組織的犯罪処罰法の改正案には、犯罪を計画段階で処罰できる「共謀罪」が盛り込まれているが、警察の情報収集活動に対して懸念を示す声が大きい。
今回の最高裁判決が、共謀罪をめぐる警察の情報収集活動にも歯止めとなるのか。審議の行方を注視したい。
3月15日、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は、「裁判所の捜査令状を取らずにGPSを使った警察の捜査は違法である」とする判決を下した。
最高裁判決が下されたのは窃盗事件の上告審だが、争点は警察の捜査手法で、GPS捜査が重大なプライバシーの侵害にあたるかどうかが問われる裁判となった。
警察は令状を取らずに、関西を中心に窃盗を繰り返していた男と共犯者の車やバイクにGPS端末を取り付けて位置情報を継続的に確認。捜査員はGPSのバッテリー交換のために、無断で私有地に立ち入るなどの行為を行なっていたのだ。窃盗は犯罪ではある。だが、捜査だからといって警察なら何をしてもいいわけではない。法治国家であるならば、人権を無視した捜査は許されないはずだ。
そのため、一審の大阪地裁は、この捜査手法が「プライバシーを大きく侵害する強制捜査にあたる」と判断し、GPSによる証拠を排除して残りの証拠で被告を実刑とした。だが、二審の大阪高裁判決では有罪を維持しながら、「GPS捜査に重大な違法性はない」として一審判決を覆す内容となり、被告が上告していた。
2月22日、原告・被告双方の主張を聞く弁論で、GPS捜査について検察側は「令状のいらない任意捜査の範囲内」「令状不要の張り込みや尾行を超えるプライバシーの侵害はない」と主張。一方、弁護側は「令状がなければできない強制捜査。GPSによる行動監視は重大なプライバシーの侵害にあたる」として、権力による行動の監視を牽制していた。
だが、犯罪容疑に関する権利は、憲法第三十五条で次のように決められている。
憲法第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
今回の最高裁判決では、憲法で定めた犯罪容疑に関する権利に「私的領域に侵入されない権利も含まれる」として、GPS捜査も権利保護の対象になるという見解を示した。
人工衛星からの電波で現在位置を測るGPSを用いると、「いつどこにいたか」という行動のすべてを把握できるので、犯罪容疑とは直接関係のない情報まで警察が収集し蓄積することも可能になる。人には知られたくない情報を警察が握ることで、個人が不利な立場に追い込まれることも予想される。
最高裁大法廷は裁判官15人の全員一致で「GPS捜査は、プライバシーを侵害し、令状が必要な強制捜査にあたる」と認定。現在の刑事訴訟法の枠組みでGPS捜査を行なうのは、手続きの公平さが担保する仕組みがないとして、新たな立法措置が必要という見解を示したのだ。
今回の最高裁判決を受けて、警察庁はGPS捜査を控えるように全国の警察に通達。今後、法務省で特別法の制定などが検討される予定で、立法化されるまでは「ごく限られたきわめて重大な犯罪」に限って、現行の令状で捜査が認められることになりそうだ。
これまでGPS捜査は、令状のいらない任意捜査と位置づけられ、当たり前に使われてきた。だが、今回のGPS捜査に関する最高裁判決によって、警察には法律の根拠なく行なってきた情報収集活動を見直すことが求められる。
4月6日に、衆議院本会議で審議入りした組織的犯罪処罰法の改正案には、犯罪を計画段階で処罰できる「共謀罪」が盛り込まれているが、警察の情報収集活動に対して懸念を示す声が大きい。
今回の最高裁判決が、共謀罪をめぐる警察の情報収集活動にも歯止めとなるのか。審議の行方を注視したい。