数々のポテトチップスがスーパーの棚から消えて早1か月が経過した。

 3月上旬、大手菓子メーカーのカルビーが、4月から自社のポテトチップス製品の一部を休売することを発表。同様に、湖池屋(こいけや)も一部商品の終売・休売に追い込まれた。これを受けて巷では、買い占めやネットオークションでの高値販売まで起こる始末。ポテトチップス狂騒曲は、この春の大きな話題となった。

 原因は、北海道産ジャガイモの不作だ。

 地域によって異なるが、ジャガイモは春に植えつけたあと5月末から8月にかけて収穫する。北海道の収穫時期は8~9月だ。ところが、2016年8月は北海道に観測史上はじめて1週間で3つの台風が上陸し、大雨によって農作物は大打撃を受けた。この台風の被害によって、道内産のジャガイモの出荷量は前年よりも1割少ない152万6000トンにとどまった。

 カルビーも、湖池屋も自社製品の原料であるジャガイモの7~8割を北海道産に頼っている。昨夏、北海道を襲った台風が、この春のポテトチップス生産に大きな影響を与えたというわけだ。

 では、輸入に頼ればいいかというと、問題はそう簡単ではない。

 外国からの病害虫の侵入を防ぐために、日本では植物防疫法によって輸入植物の検疫が行なわれている。ジャガイモには「ジャガイモシストセンチュウ」などの病害虫がおり、これらが発生している欧州、アメリカ、カナダ、メキシコ、ペルー、アルゼンチン、インドなどからの輸入は原則的に禁止されている。

 現状、生のジャガイモを輸入することはできないため、日本では国内産のジャガイモを使ったポテトチップスしか作ることはできないのが実情だ。

 ジャガイモの収穫は年に1回。そのため、ポテトチップスメーカーでは、貯蔵技術を駆使し、収穫したジャガイモの発芽を抑え、糖度が上がらないようにして保存している。糖度が上がると、ポテトチップスの色が黒くなり焦げやすくなるからである。そうした技術のおかげで、これまで日本では1年中、ポテトチップスの生産を可能にしてきた。ところが、昨夏の不作で収量自体が不足し、終売・休売に追い込まれる製品が出てしまったのだ。

 TPPが成立すれば、外国からのジャガイモはどんどん入ってきて、いつでもポテトチップスが食べられるようになるかもしれない。だが、外国産のジャガイモは、日本では禁止されている発芽を抑える薬品などが使われていることもあり、食の安全面では不安もある。また、メーカーが国内産ジャガイモにこだわるのは、その品質の違いもある。

 自然を相手にする農作物は本来、出来不出来が一定ではないのが当然のことだ。都市生活にどっぷり浸かっていると、当たり前の農の営みも忘れがちだ。今回のポテトチップス狂騒曲は、食の調達や供給のもろさを感じさせることになったが、当たり前にある日常が当たり前ではないことを日本人に知らせてくれたのかもしれない。

 人間の力ではどうにもならない自然と対峙した結果、ようやく得られるのがジャガイモをはじめとした農作物だ。だからこそ収穫の喜びはひとしおなのだ。

 今年は自然災害に見舞われずに、豊作の年になることを願いたい。そして、秋にはポテトチップスを食べながら収穫の喜びを分かち合いたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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