「卒婚」とは、2004年に出版された『卒婚のススメ』((静山社文庫)で、フリーライターの杉山由美子氏が使ったもの。「結婚生活を卒業する」という意味の造語で、芸能界でもタレントの清水アキラや俳優の加山雄三らがが発表&実践していることで話題に。一般にも広まってきているそうだ。

 夫婦が別々の道を歩むために婚姻関係を解消する「離婚」に対して、「卒婚」は一定期間、連れ添った夫婦が婚姻関係を維持しながら、互いに干渉しないで、それぞれの人生を自由に歩む新しい結婚の形。

 卒婚後の住居形態はさまざまで、必ずしも別居するわけではない。同居しながら互いの行動を干渉しないで、食事や生活もそれぞれのペースで行なう夫婦もある。卒婚のタイミングは、子どもが学校を卒業して自立したり、夫が定年退職したりした中年期以降が多い。「夫は仕事、妻は家事」という旧来の役割にとらわれず、互いが自立することで自由な時間を持ち、困ったときは助け合う前向きな関係を目指すものだという。

 たとえば、「田舎暮らしを希望する夫と卒婚、妻は都市部で暮らす」「一緒に暮らしていても、夫婦それぞれが自分で食事を作り洗濯をして、自由に時間を過ごす」といったイメージだ。

 ポジティブなイメージがあるが、夫婦ともに自立していなければ卒婚は難しい。別居するなら、住居費や生活費はそれまでよりも増える。専業主婦で、収入のすべてを夫に頼っていた女性は、自分も働いて収入を得なければ生活もままならなくなる。また、家事の一切を妻が行なっていた家庭で、卒婚後は互いの暮らしを干渉しないなら、夫は食事作りや洗濯などに頭を悩ませることになる可能性もある。

 「子育てが一段落したら卒婚したい」と思っているなら、夫婦ともに経済的にも、生活的にも、自立しておくことが条件になるだろう。

 卒婚はあくまでも婚姻関係は続けるもので、離婚を前提にはしていないが、法律上は別の解釈がある。民法第752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定めており、長期間の別居は離婚原因としても認められている。卒婚期間中にどちらかが離婚を言い出せば、不本意にも離婚を認めざるを得なくなる可能性もある。

 また民法第770条では、婚姻期間中の不貞行為は離婚原因として認められており、慰謝料請求の対象にもなる。

 夫婦が互いに干渉しない人生を歩むのが目的とはいえ、長年連れ添った夫婦が別々の道を歩むためには、法律面や経済面では、想像を超える問題が出る可能性もある。トラブルなく卒婚をするためには、「万一、どちらかが病気になったら」「途中で気持ちが変わったら」など不測の事態を想定しながら、夫婦でよく話し合っておくことが重要だろう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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