大手銀行の中でも一強といわれている三菱東京UFJ銀行の頭取がわずか1年で退任したことが話題を呼んでいる。

 小山田隆、61歳。5月23日の深夜、日経新聞電子版が「三菱東京UFJ銀行頭取退任」との一報を打った。

 メガバンクの頭取は通常4年は務めるから、異例といえる退任で、いろいろな憶測が飛んでいる。

 『週刊現代』(6/10号、以下『現代』)は、退任の内幕をこう報じている。

 5月18日に小山田が全国銀行協会会長として臨んだ記者会見で、小山田の「変調」は誰の目にも明らかだったという。

 「目が虚ろになっていて、見るからに辛そうでした。当時の睡眠時間はおそらく3~4時間。疲れ果てた顔をしていて、周囲は心配していました。ただ、実際の会見が始まると、最後の力を振り絞るかのように笑顔を見せて自分の言葉で話していた」(三菱東京UFJ銀行関係者)

 小山田は仕事に対して非常にストイックで、会見ではすべての質問に百点満点の回答をしないと気が済まないタイプだそうで、そのために事前に想定問答集を作り、それを暗記していたという。

 「でも、もう限界でした。実際には4月下旬に病院で診察してもらい、『長期休養が必要』との所見が出ていたようです。決算発表と全銀協会長としての会見をやり終えたところで辞めさせてもらいたいと言った。本当に真面目な人ですから、自分で自分を追い詰めてしまったのでしょう。現在は入院しているそうですが、病状が本当に心配です」(同)

 三菱銀行グループは純利益1兆円超えを果たし、ライバルである三井住友銀行を突き放した。

 そうした好成績の中で新頭取に就いた小山田が、なぜ追い詰められてしまったのか。

 その心配は、頭取就任時に囁かれていたと『ビジネスジャーナル』(2016年2月24日)がこう報じていた。

 「東京大学経済学部を卒業後、三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。銀行の中枢である企画畑を歩き、旧UFJグループとの経営統合に手腕を振るった。
 国内では親密行の十六銀行と岐阜銀行の合併を実現させ、海外事業では平野(信行前頭取=筆者注)氏が主導した米モルガン・スタンレーとの資本提携を下支えした。2015年6月に持株会社の三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が委員会設置会社に移行後は、新設されたCOO(最高執行責任者)に就任。禅譲への布石は打たれていた。(中略)

 小山田氏は米ニューヨーク支店への在籍はあるが、国際部門の重責を担った経験は皆無。会見では、国内業務が少子高齢化や企業のグローバル化で縮小均衡が必至ななか、海外事業を牽引するには経験が不足しているのではとの質問が少なくなかった。本人も自覚しているのか、『消え入るような声で回答する姿は見るに堪えなかった』(全国紙経済部記者)という。
 実際、就任発表会見前には週刊誌に『英会話を猛勉強している』と書かれる始末。競合の三井住友銀行の国部毅(くにべ・たけし)頭取、みずほ銀行の林信秀頭取が国際畑出身で英語が堪能なのとは対照的な一面を晒された格好になった。(中略)

 国内業務経験しかない『内弁慶』との次期頭取への揶揄は、競合他行からのやっかみといった部分もある。同行の行く末は、1行だけにとどまらないインパクトを持つだけに、小山田新頭取へのまなざしも熱く、厳しい」

 大手銀行は入行当初からエリートと非エリートに峻別されるという。小山田は若いころから「プリンス」といわれ、企画部門や大企業担当の営業部門などを歴任し、旧東京銀行や旧UFJ銀行との合併の際には、事務方の責任者として統合をまとめ上げた実績もある。

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の平野信行社長の信頼も厚く、来春には平野の後継としてMUFGの社長に昇任すると目されていたそうだ。

 前途洋々の小山田に何があったのだろう。『現代』でMUFGの有力OBはこう話している。

 「組織が人を潰すんですよ。MUFGにはいまだに『三菱銀行の亡霊』が跋扈(ばっこ)している。現役が何をするにしても、元頭取や元役員が集まる『相談役会』に諮(はか)らなければいけない。そこで否定されたら、現場が決めた方針でも変更を余儀なくされる」

 このOBがあげた例は、来年春に三菱東京UFJ銀行から「東京銀行」の名前を消す案件だった。

 ちなみに三菱東京UFJ銀行は英語表記では「The Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ, Ltd.」となる。東京銀行は外国為替専門銀行であったため、海外では比較的名前が知られていたので、この表記になったという。

 名前を変えるプロジェクトは2、3年前から始まっていた。経営トップ数名で銀行名を「MUFG銀行」にすることに決めた。東京銀行出身者からは文句が出たが、三菱でもUFJでもないならと納得させた。

 だが、平野社長が元役員に報告に行ったら、「三菱の名前をなくすなんてとんでもない」と激怒したそうである。

 そこで、行内で一番力の弱い東京銀行を外して「三菱UFJ銀行」になったという。

 小山田はそうした三菱銀行のOBたちが現役の仕事を邪魔するため、その犠牲になったと金融庁関係者も言っている。

 「例年6月の株主総会に先立って、MUFGでは『旧三菱役員招待会』なるものが丸の内本店の食堂を占拠して開催されます。
 MUFGの常務経験者以上で、旧三菱銀行出身者が集まる。最年長の出席者は90代だそうです。この場で現役の社長や頭取が『先輩の皆様、三菱はこうやって頑張っています』と報告するわけです。MUFG全体の話なのに、三菱銀行出身者に話を聞き、時に経営に介入される。こんなバカな話はありませんよ」

 OBたちは現役トップたちを「くん」付けで呼ぶそうだし、三菱UFJ銀行の頭取やMUFGの経営陣たちは、OBたちに根回ししないと何も決められないという。

 小山田はOBたちの重圧を一身に受け、身動きできなくなっていた。また金融庁からは、OBたちが経営に介入する旧態依然としたガバナンスの改革を命じられていて、板挟みになっていたようだ。

 社外取締役の中には平野に相談役会の廃止を提案した者もいるというが、平野でも小山田でも、抵抗されるのは目に見えているだけに、このことには触れなかった。

 さらに、平野MUFG社長の任期があと1年になって、自分のレガシー「遺産」として残そうと、三菱UFJ信託銀行の法人融資事業を三菱東京UFJ銀行に統合する再編案を進めていたが、これも小山田を苦しめたのではないかといわれる。

 これは拙速にできる事業ではなく、いまだ何も決まっていないという。

 「しかも三菱UFJ信託銀行の側にも有力OBがたくさんいて、彼らから『三菱東京UFJ銀行に俺たちの事業をそこまで渡すわけにはいかない』という圧力が現役にかかっているはずです。その調整は本当に大変だったはずです」(三菱東京UFJ銀行幹部)

 それに銀行の頭取は激務で、毎日お客と飲まなくてはいけないし、週末はゴルフで本を読む時間もないそうだ。さらにOBへの根回しや再就職先の世話までやらなくてはいけない。面白い仕事ではないと前出の有力OBは語っている。

 後任頭取には三毛兼承(みけ・かねつぐ)副頭取(60)の昇格が5月24日に決まった。だが社内では、三毛は三菱UFJモルガン・スタンレー証券の副社長になることが内定していたそうだ。

 「つまり、三毛さんはそのレベルの人材であって、銀行頭取の器ではありません。本人も銀行の経営者としての訓練をしていませんから。キャリアを見ればわかりますが、国際畑が長く、国内の企画部長や人事部長をやっていないため、経営の勉強が十分ではありません」(三菱東京UFJ銀行中堅幹部)

 「小山田さんの退任で、結果的に『天皇』になってしまった平野社長が倒れでもしたら、代わりはおらず経営が行き詰まってしまう。MUFGにはトップになるべき人材が明らかに少ないんです。それはつまり、経営陣を決めるはずの指名・ガバナンス委員会がまったく仕事をしていないということでもあります」(MUFG関係者)

 今やトヨタに次ぐ純利益1兆円を超え、行員数は3万5000人を抱えるメガバンクに起きた頭取早期退任騒動は、『現代』が書いているように「三菱UFJフィナンシャル・グループが抱える構造的な問題」を浮き彫りにしたようである。

 三菱は土佐藩の事業として立ち上がった。三菱のシンボルマークであるスリーダイヤを三菱グループの人間はとても大切にする。

 実は、私の女房の親戚は三菱グループで固められている。さほど偉くなった人間はいないが、女房の父親は三菱電機の子会社の社長だった。女房の叔父は後に三菱グループに入るパイオニアの社長。女房は大学を出て東京海上(当時)に入り、妹は三菱商事。そこで結婚した男は商事の常務まで行った。

 私は講談社という三菱とは全く関係ない外様だし、愛社精神などまったくないから、女房の親や親類が集まると三菱の噂でもちきりなのをよそ事として聞いていたが、そうした繋がりは結束力を強めるのだろうが、今回の小山田ケースに見られるように、上司や先輩OBなどからの重圧もすごいものがあるのだろう。

 小説『半沢直樹』シリーズを書いた池井戸潤(いけいど・じゅん)は三菱銀行の出身である。彼の描く銀行ものには、池井戸が見たり聞いたりした「経験」が生かされているのだろう。今度は銀行の権力争いをテーマに小説を書いてくれないだろうか。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 中谷元前防衛大臣がうまいことを言った。もりとかけ問題は政府が答えを出すべきだと。もりとは森友学園、かけは加計学園。一杯のかけそばが安倍官邸を揺るがしている。ミャンマーへ行くときも、加計学園の理事長を政府専用機に同乗させたというのだから、あきれ果てる。運賃をもらったからいいという話ではない。私がカネを払うから乗せてくれといったら、安倍首相は乗せてくれるのか。安倍政権の断末魔が間違いなく近づいてきた。

第1位 「気をつけろ!ジョージ・ソロスの『アメリカ売り』が始まった」(『週刊現代』6/17号)
第2位 「いま社内で何が起きているのか 東芝の最高幹部がすべて話す」(『週刊現代』6/17号)
第3位 「検察審査会が動き出す『安倍総理』ベッタリ記者の『準強姦』」(『週刊新潮』6/8号)/「安倍首相ベッタリのジャーナリスト『素性』と『私生活』」(『週刊現代』6/17号)

 第3位。山口敬之(のりゆき)という男を覚えているだろうか。元TBSワシントン支局長だったが、この男が、知り合いの女性ジャーナリストを誘い出し、酒(彼女は薬を盛られたと言っている)を飲んだ。だが、彼女は急に意識を失って、気がついたときはホテルのベッドで全裸にされ、レイプされたと告訴した。「準強姦容疑」で山口に逮捕状が出て、逮捕寸前までいった。  だが、官邸に近い警視庁刑事部長がそれを握りつぶしたと『新潮』が3週間前の5/18号で報じた。  この山口も安倍ベッタリ記者の典型で、テレビに出て安倍擁護発言を繰り返していた。
 この不起訴処分を諒とせず、5月29日、彼女は名前と顔を出して、検察審査会に審査を申し立てたことを公表する会見を開いたのである。
 詩織さん、28歳。『新潮』のグラビアに「決意の告発」と題して彼女の写真が載っている。ハーフっぽい美人である。こんな美人が、顔をさらしてレイプされたと訴えるのだから、よほどの覚悟だろうと思わせる。
 検察審査会は選挙権のある市民11人が選ばれ、捜査記録を調べたり検察官から意見を聴き取ったり、申立人や証人の尋問などをする。
 8人以上が「起訴相当」と賛成すれば起訴される。そうなれば検察官は再捜査し、判断が覆らなければ審査会で再検討し、再び8人以上が「起訴すべし」となれば、容疑者は強制起訴される。
 焦点は、菅官房長官と親しい中村格(いたる)警視庁刑事部長(当時)が、捜査の中止を命じたことが、「捜査の指揮として当然」(中村)だったのかどうかにある。
 『現代』は山口がザ・キャピトルホテル東急の上にある14戸しかない超高級賃貸マンションを事務所として借りていたと報じている。
 2LDKで月額約200万円だという。元TBSの記者が借りられる金額ではないだろう。実家が裕福でないとしたら、その金はどこから出ているのか。このへんからも安倍官邸の影が見え隠れしているのである。

 第2位。東芝が上場廃止寸前で喘いでいる。それを見ている盟友であったはずの米半導体大手ウエスタンデジタル(WD)のCEOスティーブ・ミリガンが、東芝が売り出している半導体事業を手中に収めようと画策していると、『現代』が報じている。
 このミリガン、相当なやり手らしい。東芝の最高幹部の一人が、ミリガン側の要求を受け入れられない内情をこう話している。

 「(提示額が)安すぎる。それにWDが主張するようにマジョリティを握った(注・東芝メモリのマネジメントを握ること)場合、独占禁止法に抵触する恐れがあり、その判断のために事態が長期化しかねない」

 東芝はこのままいけば半導体事業売却で手に入ると目論んでいた2兆円が入らず、上場廃止になる。
 だが、メインバンクにしても経済産業省にしても、そうなれば株主の意向に左右されずに東芝の構造改革が進められると考えているようだ。もっとも痛みを強いられるのが一般株主だが、致し方あるまい。

 第1位は、あのジョージ・ソロス(86)がアメリカという超大巨艦が傾くと考えて、アメリカ売りを始めたという話である。
 ソロスはイギリス政府を相手に投資戦を挑み打ち負かした。97年にはタイ・バーツに売りを仕掛け、これが引き金になりアジア通貨危機が起こった。
 そのソロスが率いるソロス・ファンド・マネジメントが5月に米証券取引委員会に提出した報告書に、「同ファンドがアメリカの代表的な株価指数であるS&P500に連動して価格が動くETF(上場投資信託)の『売りポジション』を増やしていることがわかりました」(在米ファンドマネージャー)
 アメリカ株が暴落すればするほど儲かる「売る権利」を大量に買い増しし、投資額は約3億ドル(330億円)だという。
 また、小型株でも「売る権利」を約4億6000万ドル(約500億円)買い増ししたというのだ。
 アメリカは一見景気がよさそうに見え、失業率も低く、株も値上がりを続けている。しかし、「アメリカの家計の『借金漬け』が危機的な水準に達しています。家計の借金残高推移を見ると、今年3月末時点にはリーマン・ショック前の水準を超えているのです」(RPテック・倉都康行代表)
 またFXプライムby GMOでチーフストラテジストをつとめる高野やすのり氏は、失業率が4%台ということは、完全雇用状態だが、それは労働者が移動しなくなっている証拠で、経済の先行きに希望が持てず、今の仕事から離れられなくなっている証左だと言う。
 さらに6月にFRB(米連邦準備制度理事会)が利上げに踏み切ると見られている。借金して暮らしている人にとっては金利返済額が膨れ上がり、生活苦はさらにひどくなる。
 その上、日本総研副理事長の湯元健治氏の分析によると、トランプのスキャンダルが明らかになれば、株価は暴落し、その余波は日本にも飛び火し、円高・株安になることは必定。
 その危機は6月にもやってくるといわれている。トランプの断末魔が株の暴落を招く。ありそうな話である。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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