『週刊新潮』(6/29号、以下『新潮』)が大ヒットを飛ばした。「『豊田真由子』その女代議士、凶暴につき──被害者が捨て身で現場『音声データ』録音!」がそれだ。

 豊田とは自民党の豊田真由子衆院議員(42)のことである。彼女が車の中で55歳の政策秘書へ浴びせた罵詈雑言を、念のためにと、秘書が録音していたのだ。

 「この、ハゲーーーーっ!」「おー! お前はどれだけあたしの心を叩いてる!」「お前が受けてる痛みがなんだ! あたしが受けてる痛みがどれぐらいあるか、お前分かるかこの野郎!!」「このキチガイが!!!」

 さらにはミュージカル調(『新潮』)で、「お前の娘がさ、通り魔に強姦されてさ、死んだと。いや犯すつもりはなかったんです、合意の上です、殺すつもりはなかったんですと。腹立たない?」

 ついには「(政策秘書の)娘が、顔がグシャグシャになって頭がグシャグシャ、脳味噌飛び出て、車に轢き殺されても……
 ♪そんなつもりがなかったんですーーー
 で、済むと思ってんなら同じこと言い続けろ~~~~~」

 こう絶叫したりメロディを付けながら、豊田センセイは秘書の頭をボコボコにしたのである。しかも激した理由は、支持者に送ったバースデーカード何十枚かの宛先が間違っていたことだというのだから、ここまで怒ることではないと思うが、豊田センセイにはお気に召さなかったようだ。(編集部注:秘書が高速道路で出口を間違えて逆走したのが、同乗の豊田議員の暴言・暴行問題の原因だと、同議員が所属する細田派の細田自民党総務会長が6月27日、記者会見で釈明した。(同日付、毎日新聞))

 当の秘書がこう語る。

 「この音声は5月20日に録音したものです。後部座席にいた豊田代議士の拳骨が私の頭、左のこめかみあたりに、計6、7回にわたって振り下ろされました。彼女に殴られた箇所は後に腫れ上がり、今でも顔面に違和感が残っています」

 暴行後も豊田センセイの姿勢に変化は見られなかった。そのため秘書は通常国会の会期末、6月18日付で秘書を辞した

 「暴行の事実を伏せたままでは、今も彼女の周りに残っている秘書たちが、今後、新たな被害者になる可能性もあると思い、今回、世間の人に真実を知ってもらうべきだとの考えに至りました」

 命がけの告発である。

 この代議士センセイ、名門桜蔭高校から東大法学部を卒業して厚生労働省にキャリア官僚として入省している。ハーバード大の大学院留学経験もあり、夫も国交省の官僚である。

 15年から16年まで文科省大臣政務官を務め、出世の階段を順調に上ってきたという。

 12年に安倍総裁が率いて大勝した「政権再交代選挙」の自民党公募に応じ、落下傘候補として埼玉4区から出馬し当選している。

 いわゆる「安倍チルドレン」である。当選後は総裁派閥である細田派に所属している。現在当選2期目、ピッカピカの経歴の持ち主だ。

 だが以前から、彼女の事務所には秘書がいつかず、当選して以来100人の秘書が逃げ出していると評判だった。

 彼女の武勇伝はこれだけではない。14年4月の園遊会に、本来入れないはずなのに母親を同伴し、制止する者を怒鳴り散らして強引に入場したことが問題になったこともある。

 『新潮』は、「第二の田中真紀子」などといわれているという。生前、父親の田中角栄は「真紀子はゴリラだ」と言っていたそうだが、とすれば真由子は程度の悪いゴジラかアンギラスのようなものか。

 このセンセイ、出来の悪さでは群を抜いているといわれる安倍チルドレン「魔の2回生」の問題議員の一員である。

 ゲス不倫の宮崎謙介、重婚の中川俊直、路チューの中川郁子(ゆうこ)、その相手の門博文(かど・ひろふみ)など錚々たる輩がいるが、この“事件”で、豊田が断トツトップに立ったことは間違いない

 この罵詈雑言爆弾の破壊力はすさまじいものである。活字だけならこれほど注目を集めなかったであろう。

 だが、元秘書が録っていた音声が『新潮』のデジタル版(「週刊新潮Twitter」「デイリー新潮」)で流され、それを使ったテレビやYouTubeを通して日本中に流れたのである。ワイドショーはもちろんのこと、NHKのニュースまで流したから、あっという間に豊田真由子という名前は全国区になった。

 ちなみにYouTubeのデイリー新潮へのアクセスは6月29日時点で207万回であるが、それ以外にも無数の関連動画があるから、すごい数になるに違いない。

 早速、お笑い芸人たちはこれをネタに笑いを取り、ニコニコ動画などにはダブステップ(ダンスミュージック)風にアレンジした曲や、めいっぱいシャウトしたノリのいい曲にアレンジしたものなどが続々載っている。

 この中から去年のピコ太郎のように、ヒット曲が生まれるかもしれない。

 こんなことは日本の政治史の中でもまれである。

 これまでも、国会での吉田茂元首相の「バカヤロー解散」、小泉純一郎元首相の「公約なんか破ってもたいしたことはない」「人生いろいろ」、安倍首相の「俺の考えを知りたければ、読売新聞を読め」など迷言、珍言はいろいろあったが、これほどインパクトのあるものはなかった。

 否、あったのだろうが、このような形では公開されなかったのだろう。

 稲田防衛相が6月27日、東京・板橋区で都議選候補を応援した際、「防衛省、自衛隊としてもお願いしたい」と述べたのもひどい放言であった。

 稲田は、この発言が自衛隊の政治利用と受け取られかねず、法に抵触するおそれがあるということを知らなかったのであろう。あきれ果てる。

 稲田は27日夜、発言を撤回する考えを示したが、綸言(りんげん)汗のごとしである。豊田や稲田のような輩が安倍の周りに蝟集(いしゅう)するのは、類は友を呼ぶからである。

 以前、兵庫県議会の野々村竜太郎議員の「号泣記者会見」が日本中の爆笑を買ったが、それを超える、ものすごい真由子の“ショータイム”である。

 秘書は警察に被害届を出すことを含めて警察と相談しているようだが、受理されれば傷害罪が成立するかもしれない。まあ、豊田側から示談を申し入れて金銭で解決ということになるのであろう。

 豊田は早速離党届を出し、安倍首相は「やむを得ない」と言ったそうだが、腹の中は煮えくり返っていることだろう。

 私には既視感がある。事務所費問題を追及され、絆創膏を貼ってテレビカメラの前に立った赤城徳彦農水相の姿である。この直後の参議院選で安倍は惨敗し、政権をおっぽり出すことになっていった。

 今回は国政選挙ではないが、豊田の絶叫で都議選での自民党の敗けは決まったも同然だろう。歴史は繰り返すものである。

 ところで、『新潮』はデジタル版で豊田センセイの声を流したが、このやり方に私は得心がいかない。なぜCDにして付録としてつけなかったのだろう。今は安くCDに焼くことができる。残念だが、この面白さは活字を読んでも伝わらない。

 CDを付け、発売数日後にテレビが流すことを許可してやれば、部数が数万部は跳ね上がったと思う。私だったらそうしたが、惜しいことをした。

 これを機に、『フライデー』をはじめ、各週刊誌は「記事の見える化、聞ける化」を考えたほうがいい。自社サイトの会員になってもらうために使うよりも、ネット弱者でもすぐに聞けるCDやDVDはまだまだ拡材として使えると思うからだ。

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 先週(6月23日)の金曜日は爆笑と号泣が日本列島を包み込んだ日として、数年先には思い出されることになるだろう。豊田真由子議員の「このハゲ!」で笑い転げ、午後は一転して、市川海老蔵の会見で、彼とともにテレビを見ていた人間は、私を含めてもらい泣きした。34歳の若さで、幼い子ども2人を残して逝かなければならなかった麻央の無念を、悲しみを思うと、何も言えなくなる。無駄に年を取ってきた自分がなぜ生きていて、彼女が死ななければならなかったのか。不条理という言葉が浮かんだ。

第1位 「小倉智昭“古希の恋”──人妻美人記者と『週1密会』」(『週刊文春』6/29号)
第2位 「読売『内部文書』スッパ抜き!」(『週刊文春』6/29号)
第3位 「愛し愛されて旅立った」(『AERA』7/3号)

 第3位。6月23日、金曜日に市川海老蔵が緊急会見を開いた。その直前、海老蔵はブログに「一番泣いた日」と書いた。
 愛妻で乳がんを患ってい小林麻央が22日夜、旅立ったことを、溢れる涙を拭きながら報告した。
 まだ34歳の若さだった。会見を開いた海老蔵は、麻央が死ぬ間際に「愛している」と海老蔵に言ったと話している。
 会見を見ていた者はみな泣いた。幼子2人を残して逝く彼女の心残りは、生きている者には想像さえつかない。
 「妻には笑顔と勇気と愛情をもらった」。あの半ぐれのような若い頃の海老蔵を、ここまでに成長させた妻・麻央は素晴らしい人だったと思う。
 『AERA』によると、麻央のブログには現在250万人の読者がいるという。
 同誌では10年に麻央が13回の対談をしていた。作家・渡辺淳一に、なぜ2、3回会っただけで海老蔵と結婚しようと思ったのかと聞かれて、こう答えている。

 「もし運命とかそういう言葉があるなら、本当にあるんだなあという気持ちです」

 最後のブログ(6月20日)にはこう書いていた。

 「皆様にも、今日、笑顔になれることがありますように」

 麻央の笑顔は永久に見ることができなくなってしまった。ご冥福をお祈りする。

 第2位。『新潮』は前の週で、結婚記念日の深夜に起きた安倍首相の「緊急事態」を報じた。その『新潮』が今週も、15日に行なわれた都内のホテルでの朝食会で、安倍に長く仕えてきた秘書が、当夜、「もともと痛めていた五十肩がひどくなって、診に来てもらった」と、急の来訪者の存在を認めたと報じている。
 政権末期にはさまざまな情報が飛び交うものだが、安倍もそういう時期になったのであろう。
 内閣支持率の急落、加計(かけ)学園問題の波及、都議選への不安、7月初めからのG20と続くのは、第一次政権を投げ出した当時と酷似している。
 『文春』は、前川前次官の「出会い系の店通い」を報じた読売新聞が、読者からの厳しい批判にさらされ、記事当日から1週間分の意見がまとめられた内部資料「東京・読者センター週報」を手に入れたという。
 それは東京・大阪・西部3本社に寄せられた読者の意見を紹介したもので、加計学園と前川前次官関連は594件。北朝鮮問題が61件だから、その多さがわかるはずだ。
 そのうち9割近くが批判的な意見だという。しかもこの記事は、現役の読売の記者に言わせると、白石興二郎会長が社長の時、第三者機関で事前に記事を審査するシステム「適正報道委員会」を作ったが、そこを通していないというのである。
 官邸のリークの疑いがあり、買春の裏も取れていない、前川本人の話も聞けていないのでは、通さなかったのではなく、通せないからスルーしてしまったということであろう。
 だが、この記事を読んで、匿名で内部を批判する記者はいるが、堂々と名前を出して批判する、こんな社は辞めてやるという記者がなぜ出てこないのだろうかと、不思議でならない。

 第1位。6月22日の朝、フジテレビの『とくダネ!』をつけたら、冒頭いきなり小倉智昭が「私も文春砲にやられました」と話し出した。
 何でも、20歳以上下の人妻記者と2人きりで食事したり、事務所に入ったまま2時間も電気を消して出てこなかったりしている。「密会」しているに違いないと書かれたという。
 それに対して小倉は、2人きりではなくてマネージャーがいつもいる。事務所にはミニシアターがあり、映画を見ているから暗いのは当たり前だなどと弁解した。
 それに僕は膀胱がんだから、そっちのほうはダメだと、言わなくてもいいことまで付け加えたが、目は笑っていなかった。この「古希の恋」は本物なのだろうか。
 だいぶ昔になる。小倉は大橋巨泉事務所にいた。たしか『フライデー』だったと思うが、小倉が浮気をしているところを撮られたが、何とかしてくれないかという電話が巨泉事務所からあったと記憶している。
 話を聞くと、浮気は事実だが、小倉に謝らせるからボツにしてくれないかというのだった。そこで『フライデー』に連絡して、話だけでも聞いてやってくれといった覚えがある。掲載されたかどうかは記憶にないが、そんなことを思い出した。
 『文春』によれば、女性は大手新聞社のA子さんで40代の人妻、身長170cmほどのスレンダー美人だという。
 小倉は中野坂上で焼き肉屋を経営し、その上が事務所になっている(私の家と近い)。5月31日の午後7時前、黒のキャップに青い柄のシャツを着た小倉が事務所の前でキョロキョロしながらあたりを警戒していた。
 その少し前にA子さんが中野坂上駅から歩いて来たが、わざわざ反対側の歩道へ渡ったりと、おかしな動き方をしながら小倉の事務所へ入って行った。
 『文春』によると、A子さんが訪れるときは決まって、マネージャーをはじめスタッフを全員退社させるそうだ。
 その後、2人は別々に近くのイタリアンレストランへ行き、食事をするが、戻るときにも右、左に別れて事務所へ。約1時間後、小倉がタクシーを拾い、A子さんの自宅前で彼女を降ろし、自分は練馬の自宅へ帰っていったという。
 フジテレビの関係者によれば、彼女とは食事だけでなく、ゴルフやジャズのコンサートにも連れ出す、小倉の「いつでもそばにいる」存在だそうだ。
 『文春』が見ている限りでも、1月には4回、そのうち2回は事務所で「密会」しているという。
 小倉は『文春』の直撃に、耳まで紅潮させて「やましい関係なんてない」「一緒にいて楽しい人、親友」と男女の仲を否定している。ここでも「がんだから、そんなことができる状況ではない」と、言っている。
 親しい新聞記者なら、女性であってもこそこそする必要はないはずである。豪華なシアタールームで映画か音楽を聴いていたというのも、そういうときに備えて「言い訳できる」部屋を作っていたのではないかと邪推できる。部屋の写真を見ると、ゆったりしたソファーが2組あるだけだから、どんなことにも使えそうではある。
 第一、人妻相手に忍んで会ったりして「W不倫」を疑われるような行動は公人として慎むべきであるはずだ。
 慎まない、俺は彼女が好きだというなら堂々としていたらいい。70ジジイがいまさらこそこそ「逢引する」なぞ、カッコいいものではない。
 次々に不祥事が明るみに出るフジテレビだが、今やフジの顔ともいうべき小倉のスキャンダルがフジをどん底まで落とすことになるかもしれない。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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