今年4月にスタートした「都市ガスの小売り全面自由化」を受け、7月から東京電力ホールディングスが都市ガス事業に新規参入した。

 調理をしたり、お湯を沸かしたりするガスは、今や暮らしに欠かせないインフラのひとつ。家庭で使われているガスには、おもに都市ガスとプロパンガス(LPガス)があるが、今回、全面自由化されたのは前者の都市ガスだ(プロパンガスは自由化済み)。

 都市ガスの原料である液化天然ガス(LNG)は、海外から船で運ばれた後タンクで貯蔵され、地下に埋められた導管を通じて工場や一般家庭に供給される。導管設備がなければ利用できないこともあり、一部のガス会社が地域のガス供給を独占する状態が続いていた。

 だが、ガス事業法が見直され、1995年に巨大工場へのガスの供給が自由化されたのを皮切りに、徐々に供給先が広げられてきた。そして、2017年4月からは一般家庭への小売りも解禁され、全面的に都市ガス販売が自由化される運びとなった。

 電気の自由化のときは電気使用量などを遠隔で確認できるスマートメーターへの付け替え工事が必要だったが、都市ガスの自由化にはメーター等の交換は必要ない。導管の管理、メーターの検針などはこれまで通りに都市ガス会社が行ない、その導管を通じてその他の事業者も一般家庭にガスを販売することができる。

 新しいガス会社への切り替えは、とくに工事などは必要なく事務手続きだけで済む。ガス代の支払い先が変わるだけで、ガスの使用方法などはとくに変わらない。

 だが、顧客獲得を目指して新規参入企業は価格競争をして割安な価格設定をしているため、一般消費者は契約するガス会社を切り替えると、これまでよりもガス料金が安くなる可能性があるのだ。

 ただし、都市ガスの原料であるLNGを海外から調達できる事業者は限られており、今回、都市ガスの小売り事業に新規参入したのは、東京電力のほか、関西電力、九州電力などの電力会社が中心。電気とのセット販売によって価格を引き下げて顧客獲得を狙っているようだ。

 参入企業が限られているため、都市ガスの自由化は、電力自由化に比べていまいち盛り上がりに欠けている。資源エネルギー庁によれば、切り替えの申し込みは6月30日現在で29万106件。都市ガスの利用世帯に占める比率は、わずか1%だ。

 ガス料金が安くなるのに切り替えが広がらないのは、都市ガス自由化の認知度が低いこともあるが、新規参入した事業者が電力会社が中心ということも無関係ではないだろう。

 東日本大震災によって東京電力の福島第一原子力発電所は、未曽有の原子力災害を引き起こした。その事故処理も終わっていないのに、次々と原子力発電所を再稼働していく電力会社と国に対して不信感を抱いている国民も少なくない。自分のお金をどのように使うかは、自分が望む社会をつくることにもつながる。

 今回、都市ガスの切り替えの反応が鈍いのは、価格が安いことだけが事業者選びのポイントではないことを国や事業者に知らしめる無言のアピールなのかもしれない。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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