12か月の折々の花と季節の風物が描かれ、48枚一組になっている花札。ポルトガルのトランプをもとに、日本のかるたの一つとしてつくられた。江戸末期には広く庶民に親しまれるようになり、かつては日本中に、地域独特の遊び方がたくさんあったそうである。

 さて、8月を表す札といえば「芒」である。「芒に月」と「芒に雁(かり)」、「芒」だけの素札(カス札)の2枚を合わせた計4枚。中でも、山上に芒が輝き、紅い空と白い月を描いた「芒に月」は、構図が印象深く、大吉札ということもあって親しまれてきた。名月十五夜のお供えものとして、芒を団子と萩と一緒に飾る風習が残されている理由は、この花札の図案によるところが大きいという。

 赤い夜空に白い満月が煌々と浮かぶ構図は、京都市北区の鷹峯(たかがみね)で描かれたといわれている。鷹峯は、江戸初期に形成された本阿弥光悦の芸術村、光悦村の存在が際だつ地域で、光悦の位牌堂を寺とした光悦寺(こうえつじ)が有名である。この寺には「鷹峯三山」という、たおやかな山並みを展望する場所があり、実はこの辺りから見る構図が「芒に月」の場所ではないか、といわれている。

 「鷹峯三山」とは、光悦寺の西側に連なる山並みで、北から天ヶ峰、鷲ヶ峰、鷹ヶ峰と称する。どうやら一番南に位置する最も低い山が鷹峯(鷹ヶ峰)らしいが、地図上で見ると、正式な山名は「兀(はげ)山」となっている。「芒」の札の別名は「坊主」というから、そんな花札がらみの詮索もしてみたくなる。


光悦寺からの眺め。写真左奥が京都市街で、正面に見える鷹ヶ峰から尾根を伝うように、鷲ヶ峰、天ヶ峰へと続いている。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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