日韓関係を語る際によく耳にする「ムービングゴールポスト」。交渉などにおいて、終わりが近付いていると思いきや、相手が着地点を遠のかせる。まるでサッカーのゴールポストを一方的に動かすようなものではないか。こうした、らちが明かない難儀さをたとえた言葉だ。互いに歩み寄っていると考えていた側は、脱力感にさいなまれることになる。

 イギリスで生まれた「Moving the goalposts」という表現から来ているようだ。日本ではもはや外交用語だが、もともとはビジネスなど幅広い分野で使われる。たとえば、本当は発注側の企業の手際が悪いのに、下請けに対して次々と新たな難題を強要、あげくの果てに納期までに上がらない責任を負わせる、といった状況は、まさにムービングゴールポストの典型例である。

 「無理が通れば道理が引っ込む」とはよくいったもので、客観的なジャッジがいない分野では、ゴネるほうが一時的な得になることはままある。とはいえ、小狡いことをいつまでも続けていては、誰ともパートナーシップを築くことは難しい。いささか優等生的な主張だが、仕事はなるべく真摯にいきたいものだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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