9月1日。多くの学校で二学期が始まるこの日は、子どもの自殺が最も多い日でもある。

 内閣府の平成27(2015)年度版「自殺対策白書」によると、1972~2013年の間の18歳以下の自殺者数は合計1万8048人で、日別でみると9月1日がもっとも多い。次に多いのが4月上旬で、学校の長期休業が明けた直後に子どもたちの自殺が増加しているのだ。

 子どもの自殺の原因は、「いじめ」がクローズアップされがちだが、統計をみると、それ以上に多いのが「家族からのしつけ・叱責」「学校生活に伴うもの」など身近な人間関係に起因するものだ。また、中学生になると、学業や進路への悩みも増えている。

 子どもは自殺を考えているほど悩んでいても周囲に兆候を示さず、遺書なども書き残さない傾向が強いという。白書では、子どもが悩みを打ち明けやすい環境を、ふだんから周りの大人たちがつくっていくことが重要だとしている。

 大人から見れば些細なことも、まだ人生の経験が少ない子どもにとっては大きな出来事だということもある。狭い子どもの世界のなかでは親や教師など身近な大人がすべてであり、目に映っていることだけが社会のすべてだ。

 だが、本当の社会は、世界は、もっともっと広い。いろんな人がいるし、いろんな考え方がある。いろんな価値観がある。今見えているものだけが、すべてではないということを、子どもたちには知ってもらいたい。

 世界には飢餓や貧困、戦争など、理不尽で辛いことも多いし、自然災害によって深く傷つくこともある。けれども、反対に人は愛や友情によって救われ、美しく穏やかな自然に癒されることもある。生きていると辛いことも経験するが、生きていることでしか幸福も得られない。

 人生はどこで変わるかわからない。今は灰色にしか見えない毎日が、何かのきっかけで輝く日々に変わるとも限らない。でも、途中で命を絶ってしまったら、輝く日々を経験することは不可能になってしまう。

 だからこそ、今、どんなに辛いことがあっても、まずは生きていてほしいと思う。

 《もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね。》

 2年前の8月26日、鎌倉市の図書館司書がつぶやいたこのツイートは多くの人の共感を呼び、10万件以上のリツイート、8万件以上の「いいね」がついている(2017年8月28日現在)。

 死ぬほどつらいなら、学校に行かなくたっていいし、親から逃げ出したっていい。新学期が始まったこの時期、自分に子どもがいてもいなくても、身近にいる子どもたちの様子に気を配りたい。

 子どもに限らず、この国では自ら死を選ぶ人があとを絶たない。2012年に自殺者3万人を切ったものの、2016年は2万1897人が自殺しており、24分にひとりが自殺でこの世を去っている。

 愛する人を自殺で失うことは辛いことだ。

 9月10日は、「世界自殺予防デー」だ。これに合わせて、日本でも毎年9月10日~16日までを「自殺予防週間」として、行政や学校、地域などが連携した活動を行なっている。自殺で命を落とす人がひとりでも少なくなることを祈りたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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