米朝の緊張により、日本の安全保障は大きな分岐点に差し掛かっている。自衛隊が発足して初めての集団的自衛権の行使の可能性が浮上したのだ。

 小野寺防衛大臣は2017年8月10日の衆院安全保障委員会で、集団的自衛権の行使が可能になる「存立危機事態」を宣言する可能性に言及した。北朝鮮が、米領・グアム島周辺に中長距離弾道ミサイル「火星12」を4発同時発射すると威嚇したためだ。その後、同年8月29日早朝にもピョンヤン近郊から日本上空を通過する弾道ミサイルを発射、威嚇の度合いを強めている。

 「存立危機事態」は、安全保障関連法(2016年3月施行)で規定された。安倍政権は憲法9条の新たな解釈を行ない、これを受け安全保障関連法は、「集団的自衛権」の限定的な行使が認められる事態の一つとして掲げた。「存立危機事態」とは、米国などへの武力攻撃により「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福の追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合を指す。

 北朝鮮が発射すると威嚇した米領・グアムには米空軍のアンダーセン基地がある。同基地は北朝鮮に対する抑止力の中核的存在で、2時間で北朝鮮上空に出動可能な戦略爆撃機B1機が配属されている。B1機は、爆弾や射程1000キロ以上の長距離空対地ミサイルなどを装備。北朝鮮国内のミサイル基地や核実験場、核関連施設などを標的に攻撃できる。北朝鮮にとって、B1機は最も脅威の爆撃機だ。

 政府が「存立危機事態」と認定すれば、「防衛出動」が発令され、自衛隊は武力を用いて反撃することが可能となる。もし北朝鮮がグアムに向けて発射したなら、海上自衛隊のイージス艦がこれを迎撃することもできるのだ。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   


板津久作(いたづ・きゅうさく)
月曜日「マンデー政経塾」担当。政治ジャーナリスト。永田町取材歴は20年。ただいま、糖質制限ダイエットに挑戦中。
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