坂田精一 著
安政条約の調印と、唐人お吉にまつわる伝説で有名なハリスは、日本総領事として、当時最大の国際的難事業といわれた日本の通商開国を成し遂げたが、その間、孤独と病苦に闘いながら、攘夷の白刃にも屈せず、よくその初志を貫徹した。本書は透徹した俗説批判と厳正な彼我史料の校合により、彼の全生涯を初めて明らかにした。
[江戸][外交官]
三枝康高 著
契沖以来の国学の大成をめざし、『万葉集』の研究に心血をそそいだ賀茂真淵は、世に“国学四大人”の一人にかぞえられる。真淵は国学に指導的役割を果し、古典研究の立場と方法を発見して、古道と詠歌とを緊密に結びつけた功績は大きい。とかく無味乾燥になり易い国学者の伝記を、本書は真に血の通った人間として再現した。
[江戸][学者|文化人]
原敬吾 著
宗派神道のさきがけをなす黒住教の教祖。平凡に生まれながら、天照大神の天命を受けて自らの病をいやし、やがて周囲の人々に及ぼしてその教えをひろめる。著者はキリスト教における奇蹟と対比しつつ、黒住教における数々の霊能を述べるとともに宗忠その人の人格完成のあとを追求した。特異な宗派神道―黒住教教祖の実伝。
[江戸][宗教者]
大平喜間多 著
識見高邁なる幕末の開国論者。始め儒学を、ついで西洋砲術を修めて名声高く、海舟や松陰など維新の英才を、その門下に輩出。米艦再度の渡来によって国論沸騰のさい率先開国を唱え、松陰の密航事件に連座して下獄。のち幕府の招命を受けて騒然たる京都に上り、時勢に奔走中、刺客の兇刃に斃れた、偉丈夫の生涯を克明に描く。
[江戸][思想家|武人・軍人|学者]
麻生磯次 著
化政文化を代表する戯作者。原稿料で生計を立てた日本最初の作家ともいえよう。山東京伝に入門し、八十二歳で没するまでの血の滲むような著述生活は、家庭の労多く悪戦苦闘の連続であった。本書は、そのおびただしい著作や、失明をおして完成した晩年の大作『南総里見八犬伝』に至る悲壮な生涯を、近世国文研究の権威が詳述した、正確な実伝である。
[江戸][文化人]
横山昭男 著
財政改革・産業開発・倹約奨励・文教刷新等、藩政改革にすぐれた業績あげた米沢藩主上杉鷹山は、江戸時代における名君の一人としてその名を謳われる模範的封建領主である。本書は、戦後目ざましい発展をとげた藩政史研究の成果をふまえ、多年にわたる基礎史料の精査をもとに、この典型的名君の人と生涯に新たな照明をあてた斬新な伝記。
[江戸][大名]
北島正元 著
十九歳の青年藩主として唐津藩の藩政改革に取り組み、のち幕府の要職につき累進して老中首座となる。“天保改革”を断行して幕府の危機打開に挺身し一世を震撼させたが、時勢の波に抗しえず、遂に士民怨嗟のうちに失脚して幕閣を追われた。本書はこの“悲劇の改革者”の波瀾に富んだ苦闘の生涯と、その人間像を浮彫りにして余すところがない。
[江戸][大名]
古田良一 著
車力から身を起して一代の近世的実業家となった瑞賢は、紀伊国屋文左衛門とも比肩され、その伝記はしばしば混淆される。瑞賢はすぐれた創意工夫により、わが国海運の革新的偉業を成し遂げたばかりでなく、淀川の治水工事や越後上田銀山の経営等に特異な手腕を発揮した。極めて少ない史料を厳選しつつ鮮かに構成した瑞賢伝。
[江戸][商人]
森蘊 著
「遠州流」とか「遠州好み」とかいう言葉は茶道や花道においていまも著名であり、より以上に庭園史上不朽の名を残した小堀遠州であるが、その実伝となると意外に知られていない。著者は庭園研究の傍ら深く遠州に傾倒し、多くの史料を博捜すると共に、実地の探査を重ねて、公私両面にわたる遠州の生涯を描き出した。詳細なる正伝完成。
[江戸][文化人|武将・将軍]
高橋昌郎 著
敬宇中村正直は明治啓蒙思想界において逸することのできない偉才であった。儒学についで蘭学を修め、英国に留学。維新のさい帰国、教鞭を執るかたわら、明六社創立に参画し、また『西国立志編』『自由之理』を訳述して新思想の普及に努め、さらに女子教育・幼児教育・盲啞教育に尽した功業は大きい。再評価すべき人物の正確な実伝。
[江戸|明治][教育家|思想家]
城福勇 著
国学の大成者で歌人。『古事記伝』四十四巻を三十余年かけて書いた、日本文化史上に屹立する巨人。厳密な文献学的操作と文芸的方法によって、文芸本質論としての物のあわれ、儒教・仏教などの外国の道に対抗すべきわが国の道としての神道を唱えた天才の生身の姿を、その学問・思想の展開過程とあわせ精緻に描く。宣長研究の水準を見事に示す決定版。
[江戸][学者]
板沢武雄 著
鎖国下において西欧科学を伝え、幾多の俊英を輩出すると共に、広く日本を世界に紹介したシーボルトは、またスパイ嫌疑で国外追放になるなど、多難の生涯であったが、わが国近代文化の開明に果した役割は大きい。本書は蘭学史研究の権威が、世界史的視野に立って蘊蓄を傾け、新史料をおりまぜながら、その功業に史的意義を与えた正確な伝記である。
[江戸][医師|学者]
太田善麿 著
『群書類従』をはじめ、数々の古典の編集・校刊にまれにみる偉業を成し遂げた塙保己一は、幼時失明した盲人学者であった。常人ですら容易に成し得られない驚嘆すべき大業績がいかにして盲人の身で達成されたのか。その国史・国文研究における恩恵は大きい。本書は俗説を正し基本的な史実に立脚して真正な保己一に迫る最も信頼し得る正伝。
[江戸][学者]
高橋昌郎 著
明治初期、明六社員として啓蒙活動を行うとともに、文部省編書課長として新しい教科書の編集を担当。そのさい、伝統を生かしながら欧米文化を吸収することを主張した。明治二十年ころからは、社会人を目標に、道徳教育を中心とする生涯教育を志して日本弘道会を結成し全国運動を展開。英学者であり儒学者で、現実を重視した思想家。
[江戸|明治][思想家|教育家]
河竹繁俊 著
「作者の氏神」とたたえられる大近松も、その人物像や生活については意外に知られるところが多くない。本書は歌舞伎研究に畢生の努力を傾けた著者が、多年にわたって渉猟した資料によってまとめた詳伝であり、その生涯を作品とともに始めて明らかにした各界絶賛の書。歌舞伎や浄瑠璃の理解は、本書を通して一段と深められよう。
[江戸][文化人]
友松圓諦 著
西郷隆盛と薩摩の海に入水した悲劇によって有名な、幕末の憂国僧月照の史伝は伝説悲歌の小説的人物に祭り上げられることが少なくない。月照の住職した清水寺成就院に所蔵する数百冊の寺録や、自筆の遺稿などを巨細に点検・整理し、その史実と思想学説を明らかにした、著者二十余年の研鑽によるはじめての本格的な月照伝。
[江戸][宗教者]
中田易直 著
元禄期に京・大坂・江戸の三都を股に活躍し、大名貸・郷貸以下の金融業、薄利多売・現金掛値なしの呉服店経営、そのほか両替業等に非凡な才幹をもって、近世日本最大の財閥、大三井の基礎を築いた初代高利の伝記。商業史上特筆される優れた大商人の生涯と事業を、新史料を駆使して描いた本書は、蓄財の規範としても興味深い。
[江戸][商人]
兼清正徳 著
公家歌学の伝統と国学者による尚古主義的歌論に反対して和歌革新ののろしをあげた香川景樹は、和歌の純粋性を強調し、調べを主としてまことの感情を詠むべきことを唱えた。その桂園の歌風一世を風靡し、門人多く輩出して明治の御歌所和歌の源流を開いた。本書は忠実なる伝記的記述のうちにその歌学史ないし思想史上の意義を究明した力篇である。
[江戸][文化人]
鈴木暎一 著
独学古典を研鑽し、『難古事記伝』以下多数の著作をもって宣長学を大胆に批判し、創見に富む学説により国学史上に異彩放つ守部。桐生・足利の機業家・豪農等に多くの門人をもった彼の事蹟は、天保期における庶民文化の発展と、国学の普及発達を見る上からも注目される。本書は幾多の新史料を駆使して、その生涯と学績とを解明した力篇である。
[江戸][学者|文化人]
柴田実 著
近世の後半、町人の哲学として生まれた“心学”は、儒教・仏教・神道・道教の説を取り入れ、庶民の日常生活の中に道徳の実践を説いて発展したが、それは日本が近代化に成功した要因の中でも重要なものの一つであろう。本書は、その開祖石田梅岩の生涯と根本思想について、最も信憑性の高い史料を駆使しながら、平易・簡潔に述べた詳伝である。
[江戸][思想家]