帆足図南次 著
近代日本の黎明期にあたり、合理主義思想の花を開かせ、政治思想を初め、独創的な儒学・国学の鑑識、漢蘭折衷の医学など、多方面に先駆的な業績をあげた万里。本書は秘蔵の文書を駆使して大樹のごとき彼の全貌を描くとともに、三浦梅園―帆足万里―福沢諭吉とつながる合理主義思想の史的発展を見事にとらえた意義深い好著。
[江戸][学者]
堀勇雄 著
林羅山は本名信勝、薙髪して道春と称した。江戸幕府文教の中枢ともいうべき林家の始祖として著名であり、日本史上稀有の博学者ながら、典型的な御用学者ともいわれる。「立身出世のために学者的良心を捨てて曲学阿世の道を選んだ」とされるその哀歓の生涯を、著者は豊富な史料によって詳説した。儒学の本質にも迫る好著。
[江戸][学者]
横川末吉 著
土佐藩政確立期における名宰相野中兼山は、単にすぐれた政治家というだけでなく、儒学者であり、経世家でもあった。徹底した藩体制確立のために、反兼山派の抬頭をみ失脚の悲運に遭遇するが、近世末の土佐藩の活躍は彼に発端するといっても過言ではない。本書は経済史的な観点を踏まえ、未公開の史料を駆使して、土佐藩政史の中に兼山を浮彫りにした好著。
[江戸][政治家|学者]
川端太平 著
幕末維新の動乱期に、親藩の福井藩主ながら開国論を推進しつつ朝幕関係を調停、紛糾を防止した松平春嶽(慶永)の裏面工作は絶大であった。その日記・著作・往復書翰・詩歌など未刊史料をも精査して、維新史上重要な位置をなす春嶽の波瀾多き生涯を、回天動地のめまぐるしい政情とともに見事に描く。
[江戸|明治][大名]
宮崎道生 著
新井白石は詩人として名声は琉球・朝鮮・清朝にまで及び、学は和漢洋を兼ね、人文・社会・自然の諸科学にわたる碩学であった。「正徳の治」を企画して幕政のレヴェルを上げ、オランダには「将軍の師」と伝えられた。明治以後は第一級の日本人と評価され、学界では「近代科学の父」とされてもいる。白石研究の第一人者が心魂をこめて綴った伝記。
[江戸][学者|政治家|文化人]
山口修 著
前島は「郵便の父」として、ひろく知られているように、郵政事業の基礎を確立し、その発展に尽瘁した。しかし前島の業績は郵政にとどまらない。海運・鉄道・新聞などの近代事業、また教育や国字改良などに果した役割は、きわめて大きい。いかにして、このような人物が生まれたのか。本書は雪深い越後から江戸に出て、刻苦勉励、新政府に出仕して活躍した、その生涯をたどる。
[江戸|明治|大正][官吏・官僚|政治家]
犬塚孝明 著
新国家建設と近代外交の確立に全生涯を賭けた外務卿寺島宗則の本格的評伝。蘭学者から一転して、新政府の外交指導者となった寺島の思想と行動を新史料を駆使して丹念に跡付ける。欧米に対する自主外交、東アジアに対する条理外交という新たな視点から寺島外交を再評価。さらに伊藤博文との政治的競合・対立にも新解釈を加え、新しい寺島像を描く。
[江戸|明治][政治家|外交官]
芳即正 著
幕末の薩摩藩主島津斉彬は、曽祖父重豪の薫陶により吸収した洋学知識と、琉球を通して知り得た外国情報により、世界に目を向けた開明的な視野で施政を行った。国政においては一橋派を支持して幕政改革を企図し、藩政においては殖産興業・富国強兵の道を進んだ。人格・識見に優れた斉彬の影響のもと、薩摩から明治維新に活躍した輝かしい人材を輩出する。
[江戸][大名]
梅谷文夫 著
書誌学・金石学の基礎を築き、考証学を大成し、儒学・国学が科学としての古典研究に脱皮する素地を醸成した江戸時代後期の町人学者。本屋の子に生まれ、豪商として聞こえた米問屋津軽屋の婿養子に迎えられ、弘前藩の御蔵元を勤める一方、和漢の古典籍の蒐集とその研究に努めて、「和名類聚抄箋注」など、数々の傑出した業績をのこす。
[江戸][学者]
原田朗 著
幕臣として軍艦頭取を勤め、幕府瓦解後榎本武揚とともに軍艦を率いて函館に奔り、五稜郭に奮戦したが、陥落投降、赦されて開拓使に出仕し、北海道の測量、農学校の設立、女子教育の促進に尽力した。また内務省地理局に転じ、メートル法の導入、経度の決定、日食観測を行い、初代中央気象台長となるなど、近代日本の自然科学の基礎を築いた科学者の業績と生涯を描く。
[江戸|明治][官吏・官僚|学者]
柴辻俊六 著
安土桃山時代の深謀に富んだ智将。初め信玄に仕えたが、武田氏滅亡後は徳川家康に属し、信濃国小県郡・上野国沼田領を勢力下に収めて大名となった。家康と対立後は次男幸村と共に豊臣秀吉に仕え、「表裏比興の者」と評されながら、織豊期を必死に生き抜く。その処世術と事跡を検証し、領主権力の拡大と闘争過程を解明して実像に迫る、初の伝記。
[戦国|安土桃山|江戸][武将・将軍]
田中善信 著
与謝蕪村は、江戸時代を代表する文人画家である。その作風は俳画渾然の新境地を開き、俳諧では松尾芭蕉と、絵画では池大雅と並び称され多くの傑作を残した。名利に恬淡として人生を精一杯に楽しんで生きた68年の生涯を、修業時代などの4時期に分け、彼の人間性をうかがわせるエピソードを交えて生き生きと描く、初の本格的な伝記。
[江戸][文化人]
武部善人 著
博学・明晰をもって聞えた江戸時代を代表する儒学者。激動する社会経済の実態を見すえ、経済学を「経世済民」の学問と位置づけたその経済理論は、世界にも通用する先進性をもち、師の荻生徂徠を超えるものがあった。誰憚ることのない直言と、多くの門人を育てた謹厳実直な生涯を、「春台学」の系譜と学問的評価、逸話を交えて描く本格的伝記。
[江戸][学者]
藤井譲治 著
家康を祖父、秀忠を父にもつ「生れながらの将軍」家光。鬱的症状に悩まされながらも、父秀忠、弟忠長、年寄衆との軋轢の中で、幕府の組織・機構を確立する。武家諸法度・参勤交代制によって大名を統制。大きく変動する東アジア世界のなかで鎖国を選択した。その精神を支えたのは家康への敬神である。新たな知見を加えつつ、48年の生涯を描く。
[江戸][武将・将軍]
川田貞夫 著
対外関係の緊迫した幕末、ロシアの国境画定要求を巧みに処理し、寸土を譲ることなく日露和親条約の締結を成し遂げた幕府吏僚の俊秀。軽輩の家から立身して勘定奉行に栄進し、海防事務に参与したが、安政の大獄に坐して隠居、江戸開城の決定を知りピストルで自尽するに至る。その才腕を示す業績の全般と幕臣としての信念に生きた生涯を克明に描く。
[江戸][武人・軍人|政治家]
鈴木暎一 著
水戸藩主徳川斉昭の腹心にして代表的水戸学者。藩政改革と国家の独立維持に尽瘁する東湖の言動は、生前から全国の有識者視聴の的であり、『弘道館記述義』『回天詩史』「正気歌」などの著作は、幕末期のみならず、近代の人心にまで多大な影響を及ぼす。幽囚8年、しかも安政の大地震で劇的な死をとげる熱血漢波瀾の生涯を生き生きと描く本格的伝記。
[江戸][学者|武人・軍人]
塚本学 著
犬公方・綱吉は名君か暗君か、それとも単なる偏執狂だったのか。在世中以来、綱吉は政策と個人の嗜好とが同一視されてきた。取締と処罰の厳しさで怖れられた生類憐みの令、側用人柳沢吉保の寵用、儒学尊重などは、徳川政権のどんな矛盾を打開しようとした結果だったのか。毀誉褒貶の雑説にまみれた、日本史上、最も評価の分れる将軍の生涯を描く。
[江戸][武将・将軍]
福田千鶴 著
徳川4代将軍家綱期の老中・大老。「下馬将軍」と称され、権勢をふるった専制政治家と評されるが、意外にもその素顔は、小柄で端正な顔立ちのよく笑う人物で、芸能を好み、また大変な早口で有名であったという。譜代の名門、酒井雅楽頭家に生まれ、政治的資質にも恵まれながら、なぜ後世に悪者として描かれたのか。その生涯と時代に迫る初の伝記。
[江戸][大名]
中野等 著
九州柳川藩の祖。大友宗麟配下の一武将から豊臣秀吉によって大名に取り立てられる。関ヶ原の敗戦で浪人となるが、徳川秀忠の下、再び大名として返り咲き、晩年家光に重用された。従来、軍記による武勇伝が流布してきたが、一次史料を駆使し生涯を描いた初の伝記。戦国大名島津氏らとの抗争、加藤清正や細川氏との交流なども浮き彫りにする。
[安土桃山|江戸][武将・将軍|大名]
曾根勇二 著
若くして豊臣秀吉に仕え、賤ヶ岳の七本槍の一人として知られる。後年、秀吉の子秀頼の家老と徳川方の「国奉行」を兼ね、大坂の陣を前に二大勢力の板挟みとなった。苦悩する悲劇の老臣という印象があるが、歴史上の真相は果してどうか。従来の忠・不忠論にとらわれず史実を検討し、武将としてよりむしろ事務官僚的にさえ見える実像を浮彫りにする。
[安土桃山|江戸][武将・将軍]