岡田章雄 著
クルスの旗印を高く掲げて原の故城に立籠る一揆勢四万の指導者、天の使と仰がれキリシタンの妖童として怖れられた少年四郎時貞。国際色豊かな島原の乱の全貌を、豊富な史料と明快な行文に描きつつ、その人物像を鮮かに浮彫した異色の伝記であり、島原一揆の顚末を知る上にも好個のもの。正に一幅の好絵巻というべきである。
[江戸][文化人]
井上義巳 著
江戸後期、折衷学派の儒者。病身の生涯ながら、豊後国(大分県)日田に私塾咸宜園を開設、50余年にわたり、門弟2,900余名を育成するとともに、大村益次郎・高野長英ら、幕末の逸材を輩出した大教育者であり、詩人としても名高い。本書は、その教育の実態と特色とを中心に、新史料を駆使して生涯を詳述した、著者多年にわたる研究成果の結晶である。
[江戸][学者|文化人]
山中裕 著
和泉式部の生涯については文献が少ない。『和泉式部集』『和泉式部日記』が唯一の伝記を探る史料である。本書は『歌集』『日記』を主としながらも、残された文献を可能なかぎり集め、伝記と伝説を峻厳と区別する。摂関政治全盛期に生きた苦難のその姿を、娘小式部をはじめ、紫式部、赤染衛門などとの関係を絡ませ詳述、王朝時代女流作家の生活の意義を説く。
[平安][文化人|女性]
三枝康高 著
契沖以来の国学の大成をめざし、『万葉集』の研究に心血をそそいだ賀茂真淵は、世に“国学四大人”の一人にかぞえられる。真淵は国学に指導的役割を果し、古典研究の立場と方法を発見して、古道と詠歌とを緊密に結びつけた功績は大きい。とかく無味乾燥になり易い国学者の伝記を、本書は真に血の通った人間として再現した。
[江戸][学者|文化人]
芳賀幸四郎 著
戦国動乱の渦中にありながら刻明につづられたその日記『実隆公記』をはじめ、数々の史料を駆使していわゆる雲上人の生活を丹念に描く。近世の曙を告げる戦乱の世に、室町の幕府も、公家の社会も、斜陽の命運に追われ、その窮迫した生活は想像も及ばないものがあった。夫人の機嫌を伺いつつしかも世間体を繕ろう赤裸の人間像。
[室町|戦国][官人|学者|文化人]
小長久子 著
わが国近代音楽史上、最初の作曲家。伝統音楽に西洋音楽をとり入れ、「荒城の月」「箱根八里」「花」など、数多い歌曲・童謡の名曲に不朽の名残す。人生は短く芸術は長いすぐれた天分をもちながらも、ドイツ留学中、病に倒れ、帰国療養ののち二十四歳で早世した、短命なその生涯。いくたの新資料にもとづいて、天才芸術家を鮮やかに描く。
[明治][文化人]
麻生磯次 著
化政文化を代表する戯作者。原稿料で生計を立てた日本最初の作家ともいえよう。山東京伝に入門し、八十二歳で没するまでの血の滲むような著述生活は、家庭の労多く悪戦苦闘の連続であった。本書は、そのおびただしい著作や、失明をおして完成した晩年の大作『南総里見八犬伝』に至る悲壮な生涯を、近世国文研究の権威が詳述した、正確な実伝である。
[江戸][文化人]
冨倉徳次郎 著
虚構の衣をはがした古典作家の伝記は、多くは枯槁な姿をさらすが、“双岡の粋法師”兼好の場合もその例に洩れなかった。しかしながら、国文研究の権威者による本書は、近時新発見の史料によって、その生涯を新しく肉付け、兼好の中世隠者としての意味の究明と、「徒然草」の文芸性の探求という意図に立ち、ありしがままの人間像を見事に描出・活写した。
[鎌倉|南北朝][宗教者|文化人]
大村弘毅 著
明治・大正期の文壇に君臨した大文豪・教育家の生涯を、逍遙自編の年譜をはじめ最も正確な資料をもとにして、編年的にまとめた精密な決定版。演劇の改良、小説の革新、シェークスピアの全訳、文芸協会の設立など、光彩を放つ文芸活動に合わせて、その家庭生活をも丹念に描く。逍遙研究のみならず、近代文学者の伝記の規範として絶讃の書。
[明治|大正|昭和][文化人|教育家]
森蘊 著
「遠州流」とか「遠州好み」とかいう言葉は茶道や花道においていまも著名であり、より以上に庭園史上不朽の名を残した小堀遠州であるが、その実伝となると意外に知られていない。著者は庭園研究の傍ら深く遠州に傾倒し、多くの史料を博捜すると共に、実地の探査を重ねて、公私両面にわたる遠州の生涯を描き出した。詳細なる正伝完成。
[江戸][文化人|武将・将軍]
河竹繁俊 著
「作者の氏神」とたたえられる大近松も、その人物像や生活については意外に知られるところが多くない。本書は歌舞伎研究に畢生の努力を傾けた著者が、多年にわたって渉猟した資料によってまとめた詳伝であり、その生涯を作品とともに始めて明らかにした各界絶賛の書。歌舞伎や浄瑠璃の理解は、本書を通して一段と深められよう。
[江戸][文化人]
川添昭二 著
今川了俊は本名貞世、室町幕府の重臣として九州探題となり、南北朝期に活躍した武将である。しかし了俊は同時に歌人であり、当時の文化を究明する上に、彼の存在は極めて大きい。著者は全国的に了俊関係の資料を博捜し、これを縦横に駆使して、初めて了俊の全体像を浮彫にした。動乱期の政治と文学を鋭く追求した力篇である。
[南北朝][武将・将軍|文化人]
兼清正徳 著
公家歌学の伝統と国学者による尚古主義的歌論に反対して和歌革新ののろしをあげた香川景樹は、和歌の純粋性を強調し、調べを主としてまことの感情を詠むべきことを唱えた。その桂園の歌風一世を風靡し、門人多く輩出して明治の御歌所和歌の源流を開いた。本書は忠実なる伝記的記述のうちにその歌学史ないし思想史上の意義を究明した力篇である。
[江戸][文化人]
鈴木暎一 著
独学古典を研鑽し、『難古事記伝』以下多数の著作をもって宣長学を大胆に批判し、創見に富む学説により国学史上に異彩放つ守部。桐生・足利の機業家・豪農等に多くの門人をもった彼の事蹟は、天保期における庶民文化の発展と、国学の普及発達を見る上からも注目される。本書は幾多の新史料を駆使して、その生涯と学績とを解明した力篇である。
[江戸][学者|文化人]
外山幹夫 著
北九州地方の雄族、大友氏は宗麟の時代には領国が六ヵ国に及ぶ有力な戦国大名であり、有馬・大村氏とともに、わが国最初の遣欧使節をローマ法王に派遣したキリシタン大名としても著名である。本書は、その領国支配体制、キリスト教保護、対外貿易などを解明するとともに、島津氏に攻略されて衰微した、宗麟波瀾の生涯を豊富な史料を駆使して描く。
[戦国|安土桃山][武将・将軍|文化人]
柳田泉 著
明治第一の才子、桜痴=福地源一郎。立身出世の梯子に乗れば、何にでもなれたであろうが、自ら才を恃んで新聞記者となり、立憲帝政党を結成、好んで政府の味方となって憎まれる。政府に見放されて文学の世界に入り、さらに新しい歌舞伎の旗風を一時に風靡した。しかもその晩途は極めて粛条、その才の豊かさに三宅雪嶺をして三嘆せしめた。世に容れられぬ才人の再評価。
[明治][文化人]
川口久雄 著
王朝国家有数の碩学匡房は、最も漢詩に長じ和歌・朝儀にも通じた学者兼政治家ながら、その多面的な活動にもかかわらず評伝が多くない。本書は続々新出した彼の漢詩・願文・説話集などの古写本を巧みにとり入れるとともに、鴻需ながら仏・道の呪術に通じ、説話に深い関心を示した人間像に光をあて、歴史の中にいきいきと叙述した好伝記である。
[平安][学者|文化人|官人]
多賀宗隼 著
平氏から源氏へ、そして北条氏へとめまぐるしい転変を続ける平安末~鎌倉初頭の動乱期に、四たび天台座主となって仏教界・思想界に君臨し、新古今歌壇の雄として六千首の歌什を残す。摂籙九条家の出で深く政治をも解し、名著『愚管抄』により史家としてまた不朽の名を伝える。本書は慈円研究の権威によるそのすぐれた伝記。
[平安|鎌倉][宗教者|文化人]
坂本多加雄 著
明治大正期の卓越した史論家であり、独自の政治思想家であった愛山の初の本格的伝記。旧幕出身者としての「敗者の運命」を克服すべく奮闘した青少年期から、『独立評論』で活躍する壮年期、さらには、精力的に歴史叙述に取組んだ晩年に至るまで、近代日本をひたむきに生きたその思索の跡を活写。北村透谷との論争の意義にも新たな光を投じる。
[明治][文化人]
春名好重 著
佐理は道風・行成とともに三蹟の一に数えられ、平安時代屈指の能書家であった。貴顕の家に生まれて幸福な前半生を送りながら、特異な性格のため、後半生は不遇の連続であった。本書は当時の文献を基礎に、彼の書風を、道風や行成のそれと比較しつつ、その個性の浮彫に巧みな筆致を揮っている。はじめてのまとまった佐理伝。
[平安][官人|文化人]