(にほんりょういき)
景戒
神仏・人間・動物たちが繰り広げる奇異譚を描く日本最古の説話集
平安初期に編まれた日本最古の仏教説話集で、因果応報の説話を集める。上巻35、中巻42、下巻39の計116縁(話)からなり、ほぼ年代順に漢文体で記述する。仏の力の不思議さを示すエピソードは、後の文学に多くの影響を与えたといわれる。作者は奈良薬師寺の僧、景戒(きょうかい)。正式名称は「日本国現報(げんぽう)善悪霊異記」。「にほんれいいき」とも読む。
[平安時代(822年ごろ成立)][説話(仏教説話)]
《校注・訳者/注解》 中田祝夫
(こきんわかしゅう)
紀貫之、紀友則、壬生忠岑ほか編
王朝の美意識を優雅に表現した日本最初の勅撰和歌集
優美・繊細な王朝文化を代表する和歌集。醍醐(だいご)天皇の勅命によって、紀貫之(きのつらゆき)、紀友則(とものり)、凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)、壬生忠岑(みぶのただみね)が撰者として編集にあたった。約1100首を収める。〈やまとうたは、人の心を種として、万の言の葉とぞなれりける〉という紀貫之の「仮名序」が有名。
[平安時代(913年ごろ成立)][歌集(和歌)]
《校注・訳者/注解》 小沢正夫 松田成穂
(たけとりものがたり)
作者未詳
物語文学の始祖、誰もが知っている「かぐや姫」の物語
『源氏物語』の中で、〈物語の出で来はじめの親〉と紹介される、仮名文による日本最初の物語文学。竹から生まれたかぐや姫は、美しい女性に成長し、五人から求婚される。しかし各人に、仏の御石の鉢、蓬莱(ほうらい)の玉の枝、火鼠の裘(かわぎぬ)、竜の首の珠、燕(つばくらめ)の子安貝を持ってくるよう難題を突きつけ、未婚のまま月に昇天してしまう。
[平安時代(9世紀末ごろ成立)][物語]
《校注・訳者/注解》 片桐洋一
(いせものがたり)
作者未詳
在原業平がモデルとされる男の一代を描く歌物語
〈昔、男ありけり〉の書き出しで知られ、歌を中心とした小さな物語――在原業平(ありわらのなりひら)だと言われる、ある男の初冠(ういこうぶり)から辞世の歌に至る約125の章段よりなる。「在五が物語」、「在五中将日記」とも呼ばれる。藤原定家など歌人たちに多く読まれ、歌人・連歌師必読の古典とされた。江戸時代になると『源氏物語』とともに尊重され、注釈書も数多く出版された。
[平安時代(10世紀中ごろ成立)][物語(歌物語)]
《校注・訳者/注解》 福井貞助
(やまとものがたり)
作者未詳
貴族社会で語られた恋愛話や伝説を紹介する平安の歌物語
宇多天皇や桂の皇女(宇多天皇の皇女)、小野好古(おののよしふる)など宮廷を中心にしたさまざまな人たちの物語の集合体で、全173段からなる。当時の宮廷社会のゴシップや、姨捨山(おばすてやま、うばすてやま)など、古くから伝わる伝承も載せる。作者は、花山天皇、在原滋春(ありわらのしげはる)、敦慶親王(あつよししんのう)の侍女・大和など諸説あるものの未詳。
[平安時代(951年ごろ成立)][物語(歌物語)]
《校注・訳者/注解》 高橋正治
(へいちゅうものがたり)
作者未詳
平安の色好み・平中が繰り広げる歌と恋の駆け引き
主人公は、『古今集』、『後撰集』などに入集する実在の歌人・平貞文(たいらのさだふん)とされる。貞文は在原業平(ありわらのなりひら)と双璧の好き者(色好み)として名高く、「在中・平中」と称される。『伊勢物語』にならったといわれる歌物語で、貞文の恋のやり取りが描かれる。39段からなり、「貞文(さだふん)日記」、「平中日記」ともいい、「平仲物語」と書くことも。
[平安時代(10世紀中ごろ成立)][物語(歌物語)]
《校注・訳者/注解》 清水好子
(とさにっき)
紀貫之
紀貫之が女性に仮託して描いた土佐から京までの仮名文の旅日記
〈男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり〉という書き出しで有名な、日記文学の先駆け。『古今集』の撰者でもある歌人・紀貫之(きのつらゆき)が、みずから心情を女性に仮託して、任国土佐から京に戻るまでの55日間の船旅を、歌(全57首)を交えて仮名文でつづる。「土左日記」とも書き、また「とさのにき」とも読む。
[平安時代(935年ごろ成立)][日記(紀行日記)]
《校注・訳者/注解》 菊地靖彦
(かげろうにっき)
藤原道綱母
摂関家の御曹司に嫁いだ不幸な家庭生活を和歌を交えてつづる
作者は歌人としても有名な藤原道綱母(みちつなのはは)。20歳のころに、のちの関白・藤原兼家(道長の父)に嫁ぐも、不安定な家庭や周囲の嫉妬に、不幸な日々を送る。結婚してから兼家が通って来なくなるまでの20年間の心情をつづった日記。自身のかげろうのようなはかない身の上を嘆いた一節、〈あるかなきかのここちするかげろふの日記(にき)といふべし〉に書名は由来する。
[平安時代(974年ごろ成立)][日記]
《校注・訳者/注解》 木村正中 伊牟田経久
(うつほものがたり)
作者未詳
秘琴伝授を描く、『源氏物語』に先行する現存最古の長編
清原俊蔭(としかげ)は遣唐使に選ばれるが、途中で船が難破。波斯国(ペルシア)で天人から琴の奏法を伝授される。この俊蔭の一族の命運(主人公は、俊蔭の孫の仲忠)を軸に物語は進む。清少納言の『枕草子』でも主人公・仲忠を話題にするなど、平安時代の当時よりよく読まれていたことがわかる。作者は古くから源順(みなもとのしたごう)とする説がある。「宇津保(うつぼ)物語」とも表記される。
[平安時代(969~1011年ごろ成立)][物語]
《校注・訳者/注解》 中野幸一
(おちくぼものがたり)
作者未詳
恋あり復讐あり……最も古い継子いじめのシンデレラ物語
中納言源忠頼の娘(主人公)は、実母と死に別れ、継母(ままはは)によって育てられる。しかし継母は、継子(ままこ)の姫を疎んじ、床の一段低い部屋(落窪)に住まわせ、いじめ抜く。やがて周囲の人々の助けによって、主人公が幸せをつかみ取るという、清少納言も愛読した平安時代のシンデレラストーリー。作者は『うつほ物語』と同様、源順(みなもとのしたごう)との説がある。
[平安時代(10世紀末ごろ成立)][物語]
《校注・訳者/注解》 三谷栄一 三谷邦明