(つつみちゅうなごんものがたり)
作者未詳
さまざまな恋や変わった人たちを描いた日本初の短編小説集
姫君を盗み出そうとするが人違いしてしまう「花桜折る少将」、母なき姫を陰から応援する「貝合(あはせ)」、書簡風の短編「よしなしごと」など、10編の物語と数行の断片からなる短編小説集。「逢坂越えぬ権中納言」(小式部・作、1055年成立)以外は、作者も成立年も未詳。虫の好きな一風変わった姫を描く「虫めづる姫君」は、宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』のモデルにもなった。
[平安時代後期~鎌倉時代中期][物語]
《校注・訳者/注解》 稲賀敬二
(まくらのそうし)
清少納言
季節感や後宮の華やかさを、きらめく感性で執筆した代表的随筆
〈春はあけぼの……〉で始まる、日本を代表するエッセイ。作者は、一条天皇の中宮定子(ていし)に仕える女房・清少納言。「をかし」の美を基調にして、人事や季節感を独創的かつ鮮やかにとらえる。「すさまじきもの」「うつくしきもの」などのものづくし(類聚章段)、後宮の日常の記録(日記的章段)、随想章段など、約300章段からなる。『源氏物語』と並ぶ王朝女流文学の傑作。
[平安時代(1001年ごろ成立)][随筆]
《校注・訳者/注解》 松尾 聰 永井和子
(わかんろうえいしゅう)
藤原公任編
日本&中国の漢詩文・和歌をえりすぐったアンソロジー
歌人・歌学者の藤原公任(きんとう)が、朗詠に適した名詩(588首の漢詩句)、名歌(216首の和歌)を編んだ歌謡集。漢詩では、白居易、菅原文時、菅原道真、大江朝綱、源順(みなもとのしたごう)の作品が、和歌では紀貫之や凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)のものが多い。「倭漢抄」「和漢朗詠抄」「四条大納言朗詠集」などともいう。長らく、貴族・武家の学問教養の基本図書だった。
[平安時代(1017~21年ごろ成立)][歌集(詩歌集)]
《校注・訳者/注解》 菅野禮行
(げんじものがたり)
紫式部
日本古典の最高傑作――光源氏の波瀾万丈の生涯を描いた大長編
主人公・光源氏の恋と栄華と苦悩の生涯と、その一族たちのさまざまの人生を、70年余にわたって構成。王朝文化と宮廷貴族の内実を優美に描き尽くした、まさに文学史上の奇跡といえる。藤原為時の女(むすめ)で歌人の紫式部が描いた長編で、「桐壺(きりつぼ)」から「夢浮橋(ゆめのうきはし)」までの54巻からなる。
[平安時代(1001~10年ごろ成立)][物語]
《校注・訳者/注解》 阿部秋生 秋山 虔 今井源衛 鈴木日出男
(いずみしきぶにっき)
和泉式部
恋多き女・和泉式部が10か月の恋愛を自ら振り返る
そのころ、和泉式部は恋人の為尊(ためたか)親王(冷泉天皇の皇子)の若すぎる死に嘆き悲しんでいた。その和泉式部に求愛の歌を贈ったのが、為尊親王の弟、敦道(あつみち)親王。1003年4月から始まった敦道親王との恋の行方を、翌年1月まで、歌を交えながら、三人称形式で物語風に記す。だが求愛の歌を贈られてから約4年ののち、敦道親王の突然の死でまたしても恋が終わる。
[平安時代(1009年ごろ成立)][日記]
《校注・訳者/注解》 藤岡忠美
(むらさきしきぶにっき)
紫式部
『源氏物語』の作者が批評的に宮廷生活を切り取る記録文学
一条天皇の中宮彰子(しょうし)(藤原道長娘)に仕えていた女房・紫式部が、その時の日々(1008年秋~1010年正月)を回想的に振り返ったもの。書簡なども挿入され、日記というより記録に近い。藤原道長政権最盛期の宮廷生活や、他の女房への批評、自己分析などが、冷静な視点で記録される。観察眼は鋭く、辛辣な人物評も多く見られる。『紫日記』『紫の日記』と題する写本もある。
[平安時代(1010年ごろ成立)][日記]
《校注・訳者/注解》 中野幸一
(さらしなにっき)
菅原孝標女
平安時代の中流貴族の女の半生をつづる仮名日記文学
『源氏物語』に憧れていた少女――菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)は、13歳の時に、父の任国・上総国(千葉県)より京に上る。その出来事より筆を起こし、夫・橘俊通(たちばなとしみち)と死別した翌年、52歳のころまでの約40年間の半生を振り返った自伝的回想記。平安の女性の宮仕え、結婚、出産などの様子が垣間見られる。平安女流日記文学の代表作のひとつ。
[平安時代(1060年ごろ成立)][日記]
《校注・訳者/注解》 犬養 廉
(さぬきのすけのにっき)
藤原顕綱の娘長子
夭折した天皇を看取った、宮廷女房の愛情あふれる日記
作者は、堀河天皇に典侍(ないしのすけ)として仕えた、藤原顕綱(あきつな)の女(むすめ)、長子。女房名を「讃岐典侍(さぬきのすけ)」と言う。上下二巻の日記で、上巻では堀河天皇の発病から崩御に至るまでが記され、下巻では幼い鳥羽天皇へ再出仕した様子が描かれる。文中には、堀河天皇と男女の関係にあったとされる長子の堀河天皇への愛情が溢れている。
[平安時代(1109年ごろ成立)][日記]
《校注・訳者/注解》 石井文夫
(はままつちゅうなごんものがたり)
作者未詳
輪廻転生と夢のお告げがキーとなる数奇な物語
亡き父への思い断ちがたく、母の再婚相手を疎んじ……、という青年(中納言)が主人公。再婚相手の娘に恋し、亡き父が唐土(もろこし)の皇子に転生していると聞けば大陸に渡ってその皇子の母に恋をし……、という大がかりな舞台設定のファンタジー。『更級日記』の菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)の作とも言われる。三島由紀夫の最後の長編小説『豊饒の海』のモチーフになった作品。
[平安時代(1062年ごろ成立)][物語]
《校注・訳者/注解》 池田利夫
(よるのねざめ)
作者未詳
寝覚めては許されぬ愛に思い悩むヒロインを描いた女流文学の傑作
主人公は美少女・中の君(寝覚の上)。姉の許嫁と許されぬ一夜を契り、懐妊してしまう。義兄妹の許されぬ愛に、〈例の寝覚めの夜な夜な起き出でて……〉と、ヒロインは事あるごとに寝覚めては悩み苦しむ。文中、何度も登場する〈寝覚め〉の描写を通して、揺れる女心を描写する。『浜松中納言物語』と同じく、菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)の作とも言われる。中巻・末尾に欠巻あり。
[平安時代(1045~68年ごろ成立)][物語]
《校注・訳者/注解》 鈴木一雄