国内総生産および国民総生産の概念は,国民経済計算の体系における連結生産勘定の借方項目として記録され,この勘定を作成する国と海外との要素所得の受取りおよび支払と密接な関連をもっている。
勘定を作成する国の〈居住者〉である生産者によって生産された〈粗産出〉額から輸入関税を含む〈中間投入〉を差し引いた大きさを購入者価格で評価した金額を〈国内総生産〉(GDPと略記)という。連結生産勘定の作り方からも明らかなように,GDPは,〈居住者である生産者〉の〈付加価値〉の合計額に等しい。ここで,〈居住者である生産者〉とは,(1)生産費用をカバーすることを意図した価格で,市場に財・サービスを提供する公的および私的な事業所の集まりから成る〈産業〉,(2)公共サービスを通常無償で供給し,かつ国家を管理し,経済政策と社会政策の実行に当たる組織の集まりである〈政府サービスの生産者〉,(3)教育,医療,福祉,宗教,文化,レクリエーションなどの社会および地域社会サービスを,利益の追求を目的とするのではなく家計に提供する団体の集まりである,〈対家計民間非営利サービスの生産者〉とから構成される。つまり,〈居住者〉である生産者は,自然人のみならず,法人,政府機関および任意団体を含んでいる。
GDPに海外からの被(雇)用者報酬,財産所得および企業所得の受取りと海外への支払の差額(純所得額)を加えた金額を〈国民総生産〉(GNPと略記)と呼ぶ。すなわち,〈国民〉生産物は,居住者が国内だけではなく海外において行った生産活動をも含めて,その要素サービスの提供による要素所得の受取り分を記録するのに対して,〈国内〉生産物は居住者である生産者の生産活動の成果に注目しているのである。当然,居住者の範囲と居住者である生産者の範囲は,重なり合いながらも一致していない。その相違の詳しい説明は省略するが,〈居住者である生産者〉の定義は,国内領域の定義に従属していることを注意しておこう。
GDPが連結生産勘定の借方項目の合計として記録されるのに対し,その貸方項目の合計,すなわち最終的使用に向けられる財・サービスの合計から,海外との取引を考慮して財・サービスの輸入を差し引いた金額を,〈国内総支出gross domestic expenditure〉(GDEと略記)と呼ぶ。したがって,GDEは最終消費支出と国内粗資本形成および財・サービスの輸出から財・サービスの輸入を差し引いた大きさとしても定義できる。
経済成長率の計算のように,国内総生産GDPの時間比較を行うためには,たとえば,1985年価格で評価したGDP金額をある特定の年次,たとえば1980年の価格に固定した金額に変換して,その間の物価変動の影響を取り除いておくことが必要である。特定の年次の価格に固定されたGDPの大きさを,〈(その年次)不変価格表示のGDP〉という。また,当年価格表示GDPを不変価格表示に変換するための変換定数のことをGDPデフレーターという。GDPデフレーターは,不変価格表示の基準年を100とする一種の物価指数であって,GDEの構成要素の金額構成比をウェイトとする各構成要素に関する物価指数の加重調和平均として定義される。GDPデフレーターを用いたGDPの不変価格表示は,GDEの各構成要素を対応する物価指数を用いて不変価格表示に変換した各構成要素の和に等しくなることも知られている。
同様の趣旨によって,GDPの国際比較を行うためには,各国通貨単位のGDPをなんらかの共通通貨単位に変換するための特別の変換定数が考案せられねばならない。この変換定数のことを〈GDPの購買力平価purchasing power parity〉(PPPと略記)という。〈GDPのPPP〉の計測もGDEの各構成要素の詳細品目に関する価格(もしくは支出金額)と数量データの国際比較から導かれる。比較の方法には,比較当事国2国間の価格,数量データのみから計測する〈2国間比較〉の方法と,比較対象のすべての国の価格と数量のデータを利用して計測する〈多国間比較〉の方法がある。しかし,〈2国間〉の比較の場合,比較の基準国を変えると〈GDPのPPP〉に不整合な結果が出ることもあって,一般に〈多国間比較〉の方法が優れていると考えられている。この〈多国間比較〉の方法を用いたGDPの国際比較とPPPの計測は,国連の統計局が世界銀行とペンシルベニア大学の協力を得て,1970年以降数年ごとに行っている。また,最近ではOECDとECが中心となって調査と計測の態勢を継続し,整備しようとする動きもみられる。GDPを為替レートにより換算して比較する方法もあるが,為替レートによるものはPPPによるGDPから著しい乖離(かいり)を示しており,GDPの国際比較にはまったく不適切である。
→国民経済計算
国内で一定期間(四半期、1年など)に生産された付加価値の総額であり、一国の経済規模を示す代表的な指標である。GDPと略称される。付加価値は国内における生産額(国内産出額)から、原材料などの中間財の使用額(中間投入)を差し引いた額として定義される。生み出された付加価値はだれかの所得になるため、GDPは労働者の賃金総額(雇用者報酬)、企業の利益(営業余剰・混合所得)、設備などの減価償却費(固定資本減耗)などの合計としても定義される。
さらに、GDPは最終需要の合計としても定義され、国内総支出(GDE:gross domestic expenditure)ととらえることもできる。具体的には、民間最終消費支出、政府最終消費支出、国内総資本形成(民間設備投資、民間住宅投資、公的固定資本形成、在庫変動)、財・サービスの輸出の合計から財・サービスの輸入を差し引いたものとして定義される。このようにGDPを生産、所得(分配)、支出の三面から観察すると理論的に同じ値になることを「三面等価の原理」とよぶ。
GDPには名目値(名目GDP)と実質値(実質GDP)がある。名目値は各年の財やサービスの価格水準で評価されたGDPであるのに対し、実質値はそうした価格変動の影響を取り除いたものである。GDPの変動率を経済成長率とよぶことが多いが、注目されるのは実質GDPの変動率である。
なお、ここでいう「国内」とは、ある国の国境で囲まれた政治的な領土(海外領土および属領は含まない)のことであるが、その中にある外国政府の大使館、領事館および外国軍隊施設などの所在する治外法権の及ぶ飛び領土は除外され、逆に、他国の領土内にある当該国の同様の飛び領土は含まれる。また、当該国の企業などが運営する船舶や航空機、あるいは漁船団、さらには当該国が独占使用権をもつ地域における原油や天然ガスの発掘装置やプラットフォームなども、この「国内」概念に含まれる。
GDPは、国民経済計算(SNA)における重要な項目の一つであり、データを利用する際は、どのような国際基準で計測されているのかに注意すべきである。2020年(令和2)時点の日本のGDPは2008SNAとよばれる国際基準で、かつ、2011年(平成23)の産業連関表の情報などを反映している(これを「2008SNA2011年基準」とよぶ)。この基準は、2016年12月に公表された年次推計(2015年度国民経済計算)から採用されているが、改定前(1993SNA2005年基準)に比べて、各年のGDPは5兆~30兆円程度大きくなった。2008SNAにおいて、従来は中間投入として扱われた企業の研究・開発(R&D:Research and Development)が民間設備投資としてカウントされるようになったためである。
2019年12月に公表された年次推計(2018年度国民経済計算)によると、2018年の名目GDPは547.1兆円であった。
2020年9月17日
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