書状
しょじょう
書状とは手紙のことであって、用件・意志・感情などを書き記して相手方に伝える私的な文書のことである。書簡・書翰・書札・尺牘(せきとく)・消息(しょうそく・しょうそこ)・消息文などと呼ばれる。これらのうち漢文体のものを尺牘といい、仮名書きのものを消息ということが多い。奈良時代の書状は啓(けい)あるいは状といわれ、その差出書・充書・日付・本文の書出し・書止めの書き方によって相田二郎は十四の書式に分類する(『日本の古文書』上)。古代のわが国の公文書は、公式令(くしきりょう)にのっとった公式様(くしきよう)文書であるが、この啓・状は公式令にもとづいたものではなく、中国の六朝以来、個人間の往復文書として通用していた啓・状に起源を有するものである。平安時代の初期ころまでは、これら啓・状のほか『風信帖』『久隔帖』といった尺牘もみられ、まだ書札の書式は固定せず多様なものがあった。しかし平安時代の中期以降になると、これらの書札もわが国独自の発展をとげ、初行から本文を書き始め、本文が終るとその次行に日付を書き、日付の下に差出書、さらに日付の左上部に充所を書き、最後に封を加えるという書式が一般化する。それとともに書体・文体も整備され、文体は純漢文体から「侍」「給」などの言葉を交えた和風漢文体となり、さらに平安時代の末期ころまでには、「候」を用いた文体が成立、また書止め文言も「恐々謹言」などに規格化され、日本的な書札が完成する。それとともにこれら直状の書札に対して、侍臣・右筆などが高位の人の意を奉って出す奉書もみられるようになり、直状・奉書を合わせて書札様(しょさつよう)文書という。これらははじめは私的な用件にのみ用いられていたが、やがて奉書は院宣・綸旨・令旨・御教書(みぎょうしょ)として公文書の補助的な役割もするようになる。さらに鎌倉時代中期以降は、それが公証公験(くげん)として最高の権威を有する公文書となる。これが第一段階の書札様文書の公文書化(奉書の公文書化)であるが、直状は奉書に比べると、より私的な性格が強く書状に近いが、これとても公的な重要な内容のものもすくなくない。かかる書札様文書の展開に伴って、平安時代の末期から、その書式・書礼・故実などを規定した書札礼が作られ、その集大成として弘安八年(一二八五)には、亀山上皇の命により『弘安礼節』が撰定される。これらの公文書は証拠書類として長く保存されるべきものであるが、一方、私的な文書としての書状は、用件が終れば多くは破棄され、比較的残りにくいものである。したがって私的な内容を有する書状の多くは、完全な一通の文書の形ではなく、日記・記録あるいは聖教の紙背文書として今日に伝えられており、文書として完全な形で残っているのは、書状とはいえまったく私的な通交に関するものはすくなく、なんらかの形で公的な意味をもつか、あるいはまた保存すべき意義を有するものである。以上は漢字で書かれた男性の書状であるが、これに対して女性は仮名書きの消息を用いた。平安時代の中ごろまでに仮名が発明され、それを女性が用いるようになると、仮名書きの話し言葉(和文体)による消息の成立をみる。これは仮名消息・女消息といわれ、広く書状のことも消息というのに対して、狭義の消息である。そして平安時代の末ころからは、漢字の書状と仮名の消息が相互に入り交じって、多彩な書状を形作るのである。一方、武家社会では、鎌倉時代には下文・下知状の下文様文書が主要な公的文書として用いられたが、室町時代には御判(ごはん)御教書以下の書札様文書が中心となる。御判御教書は室町幕府におけるもっとも権威ある文書であるが、本来は自筆で書くべき直状を右筆に書かせ、将軍が花押のみを加えたものであって、第二段階の書札様文書の公文書化(直状の公文書化)ということができる。それとともに、より書状に近い将軍御内書(守護の場合は内書)も用いられ、さらに戦国時代になると、各地の戦国大名はほとんど書状形式の文書で領国支配を行うようになる。そしてこれらは多くの場合に書状と呼ばれているが、実際には戦国大名の発給文書では公私の区別をつけがたいものが多く、このような文書にいかなる文書名を付すかは今後の課題といわなければならない。戦国大名の文書だけではなく、広く書状形式の文書の公私の性格を区別するには、年紀(付年号・干支を含む)がはじめから付されているか否か、実名(自署)だけか、それに花押・印章を加えているかどうかということが一つの基準になるが、これも必ずしも絶対的なものではない。→消息(しょうそく)
[参考文献]
魚澄惣五郎『手紙の歴史』、小松茂美『手紙』、同『手紙の歴史』(『岩波新書』青九七七)、中村直勝『日本古文書学』中、日本歴史学会編『概説古文書学』古代・中世編、伊木寿一「書状の変遷」(『(岩波講座)日本文学』所収)、永島福太郎「書状・消息」(『日本古文書学講座』四所収)
魚澄惣五郎『手紙の歴史』、小松茂美『手紙』、同『手紙の歴史』(『岩波新書』青九七七)、中村直勝『日本古文書学』中、日本歴史学会編『概説古文書学』古代・中世編、伊木寿一「書状の変遷」(『(岩波講座)日本文学』所収)、永島福太郎「書状・消息」(『日本古文書学講座』四所収)
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