解説・用例
【一】
(1)(多く連体修飾語を受けて)ある動作の終わったその時。途端。
*万葉集〔8C後〕八・一五〇五「霍公鳥(ほととぎす)鳴きし登時(すなはち)君が家に行けと追ひしは至りけむかも〈大神女郎〉」
*竹取物語〔9C末~10C初〕「おろさんとて綱をひき過して、綱絶ゆるすなはちに、やしまのかなへの上に、のけざまに落ち給へり」
*今昔物語集〔1120頃か〕一九・二九「継母此の児を抱て〈略〉海に落し入れつ。其を即(すなはち)は不云ずして、帆を上て走る船の程に暫許り有て〈略〉云て」
*花鏡〔1424〕時節当感事「すは声を出すよと、諸人一同に待ち受くるすなはちに、声を出すべし」
(2)過去のある時をさす。その時。当時。
*落窪物語〔10C後〕三「爰にはすなはちより、御夜中暁の事も知らでやと歎き侍りしかど、道頼が思ふ心侍りて、しばしと制し侍りしなり」
*栄花物語〔1028~92頃〕楚王の夢「内の大臣はこの東の対の宮をなんさやうにとこそは、すなはちより世には申すめれ」
*方丈記〔1212〕「かく、おびたたしく震(ふ)る事は、しばしにて止みにしかども、その余波(なごり)、しばしは絶えず。〈略〉すなはちは、人みなあぢきなき事をのべて、いささか心の濁りもうすらぐと見えしかど」
*観智院本類聚名義抄〔1241〕「曾 カツテ ムカシ スナハチ ソノカミ」
【二】
(1)前の事柄を受け、その結果として後の事柄が起こることを示す。文中にあっては、「…ば、すなわち」と条件句を受ける形で用いられることもある。そこで。そうなると。それゆえ。
*日本書紀〔720〕欽明一六年二月(北野本南北朝期訓)「天皇聞しめして傷恨みたまふ。迺(スナハチ)使者を遣して津に迎へて慰め問はしむ」
*西大寺本金光明最勝王経平安初期点〔830頃〕六「是の経を聴受せば、則(スナはち)〈略〉我釈迦牟尼応正等覚を供養するに為(な)りなむ」
*方丈記〔1212〕「若(もし)、なすべき事あれば、すなはちおのが身をつかふ」
*徒然草〔1331頃〕八五「狂人の真似とて大路を走らば、則狂人なり」
*咄本・昨日は今日の物語〔1614~24頃〕下「肥前の国神崎の郷に、南無の二字を額にうちたる比丘尼寺あり。すなはち二字寺といふ」
*詩家用字格〔1720〕二「則 すなはちと訓す。〈略〉大概になればの義ぞ」
*浮雲〔1887~89〕〈二葉亭四迷〉一・八「尋ねて見ると幸ひ在宿、乃(スナハ)ち面会して委細を咄して」
(2)前の事柄を受け、後の事柄を言い出す時に軽く添える。さて。ここに。そして。
*去来(推定)宛芭蕉書簡‐元祿七年〔1694〕九月一〇日「則板之事申遣し候間、慥(たしか)成便に此書状江戸へ急便に頼存候」
(3)前の事柄に対し、後の事柄で説明や言い換えをすることを示す。つまり。いいかえると。ということは。
*古今和歌集〔905~914〕仮名序「近き世に、その名聞えたる人は、すなはち僧正遍昭は、歌のさまはえたれども、まことすくなし」
*近代秀歌〔1209〕「近くは亡父卿すなはちこのみちをならひ侍りける基俊と申しける人」
*名語記〔1275〕六「一生はつくといへども、希望はつくる事なしといへる、すなはち、欲なり」
*徒然草〔1331頃〕一八八「一時の懈怠(けだい)、すなはち一生の懈怠となる。これを恐るべし」
*浄瑠璃・大経師昔暦〔1715〕「われらはだいきゃうじいしゅんがげじょ、玉と申者のうけ人すなわち伯父、あかまつばいりうと申者」
*詩家用字格〔1720〕二「即 すなはち又つくと訓す。〈略〉即の字はその事の上に佗(わき)へのかすに云ふ語ぞ。和語のやはりなり」
*読本・雨月物語〔1776〕菊花の約「只栄利にのみ走りて士家の風なきは、即(スナハチ)尼子の家風なるべし」
*和蘭天説〔1795〕「地とは迺(スナハチ)水土の象を云。其躰全く水のことにして、水の濁るもの土とす。土は水上の塵埃のごとし」
*尋常小学読本〔1887〕〈文部省〉二「此まぜたるしるを、紙すきすだれにてすき、いたにはりて、かわかしたるものは、すなはち紙なり」
【三】
(1)即座に。すぐに。
*日本書紀〔720〕神武(寛文板訓)「時に武甕雷神登(スナハチ)高倉に謂て曰く」
*竹取物語〔9C末~10C初〕「立てこめたる所の戸すなはちただあきにあきぬ」
*観智院本三宝絵〔984〕下「くはむとするにいまだ口にいらぬに、飯すなはち火となり、すみとなりぬれば、くふ事あたはず」
*御堂関白記‐長和元年〔1012〕二月二日「巳時許為義朝臣申、中宮火付と申。即走出見有煙」
*梵舜本沙石集〔1283〕一・一〇「坏(さかづき)を持ながら、しばられたるが如くにして、手を後へまはして、すくみ、即ち死にけり」
*仮名草子・伊曾保物語〔1639頃〕中・一四「ある時、獅子王・羊・牛・野牛の四つ〈略〉いのししに行きあひ、則是を殺す」
(2)その所、または、その時にちょうどあたって。まさに。
*平家物語〔13C前〕八・緒環「狩衣のくびかみにさすとおもひつる針は、すなはち大蛇ののうぶへにこそさいたりけれ」
*虎明本狂言・夷大黒〔室町末~近世初〕「是も吉日を以て勧請せよとの御つげにて候。かやうにありがたき事はあるまじく候。則今日吉日にて候。是へくゎんじゃう申」
補注
本来、ある時を示す名詞であったが、「即」「乃」「便」「則」「輒」などの訓読語として用いられたことで、それらの語の元来の意味、用法をも併せ持つようになったと思われる。
語源説
(1)ソノホド(其程)の転か〔大言海〕。また、ソノ‐ハチ(間道)の義か〔国語の語根とその分類=大島正健〕。
(2)スミナハヂ(墨縄路)の略か〔大言海〕。
(3)ソノハテ(其果)の転〔類聚名物考〕。ソノハシ(其間)、またはソノハテ(其終)の転呼か〔日本古語大辞典=松岡静雄〕。
(4)スナホミチから〔日本釈名〕。スナホヂ(直路)の義〔名言通・和訓栞〕。
(5)スグナホサヌウチ(直直不内)の義〔日本語原学=林甕臣〕。
(6)スル、ニハ、ハヤ(早)、ツギ(継)の反〔名語記〕。
(7)スナホチ(直処)の義〔国語溯原=大矢透〕。
(8)スナマチ(直間所)の義〔言元梯〕。
(9)スナハツチ(沙土)の義か〔和句解〕。
発音
[ナ]平安・鎌倉室町・江戸か(ナ)
辞書
色葉・名義・下学・和玉・文明・明応・天正・饅頭・黒本・易林・日葡・書言・ヘボン・言海
→正式名称と詳細
表記
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同訓異字
すなわち【即・則・乃・仍・而・便・迺・焉・曾・載・輒】【即】(ソク)とりもなおさず。ただちに。…するとすぐに。《古すなはち》【則】(ソク)ただちに。…するとすぐに。…するとその時は、その場合には。《古すなはち》【乃】(ナイ・ダイ)そこで。このようにして。また、なんと。まさに。《古すなはち・いまし》【仍】(ジョウ)したがって。よって。《古すなはち・よって》【而】(ジ)そして。それから。また、しかも。にもかかわらず。《古すなはち》【便】(ビン・ベン)すぐさま。たやすく。また、つまり。そして。《古すなはち》【迺】(ダイ)それで。そこで。《古すなはち》【焉】(エン)そこで。そのため。《古ここに》【曾】(ソウ)そして。そしてそれは。また、けれども。ところが。《古すなはち》【載】(サイ)そしてそのまま。たやすく。《古すなはち》【輒】(チョウ)そのたびごとに。いつもいつも。また、すぐに。とりもなおさず。そのまま。《古すなはち》