解説・用例
(「寄(よ)す」と同根で、物事に関係づけていくことの意)
(1)物事の起こった理由。由来。わけ。いわれ。
*日本書紀〔720〕推古一一年二月(岩崎本平安中期訓)「故、猪手連の孫を娑婆連と曰ふ。其れ是の縁(ヨシ)なり」
*万葉集〔8C後〕一四・三四三〇「志太の浦を朝漕ぐ船は与志(ヨシ)無しに漕ぐらめかもよよしこさるらめ〈東歌・駿河〉」
*百法顕幽抄平安中期点〔900頃〕「即ち大夫が五の事是れ部を分るるの因(ヨシ)なり」
(2)物事の内容。事の趣旨。また、形式名詞のようにも用いる。こと。わけ。むね。儀。いきさつ。次第。
*日本書紀〔720〕舒明即位前(北野本訓)「願(こ)ふ、摩理勢を得(たまは)りて、其の所由(ヨシ)を推(かむか)へむと欲(おも)ふ」
*竹取物語〔9C末~10C初〕「御文、不死の薬の壺ならべて、火をつけて燃やすべきよし仰せ給ふ、その由承て、つはものどもあまた具して山へ登りけるより」
*土左日記〔935頃〕発端「それの年のしはすのはつかあまりひとひのいぬのときに門出す、そのよし、いささかものに書きつく」
*九暦‐九条殿記・大臣家大饗・承平六年〔936〕正月四日「悩給由承驚罔極、但未承此由之前、奉入左馬頭惟扶朝臣畢」
*平治物語〔1220頃か〕中・義朝野間下向の事「鎌田の兵衛は、忠宗に向ひて酒をのみけるが、此のよしをききて」
*仮名草子・伊曾保物語〔1639頃〕上・一〇「い曾保このよしを聞きて、たとへをもっていひけるは」
*浄瑠璃・宇治の姫切〔1658〕三「やかたになれば、よしをかくと申上る、らいしんきいて、今は思ひままなりと」
(3)由緒ありげな家柄。また、その人たちの持つ美的感覚。情趣、風流、おくゆかしさ。→
*更級日記〔1059頃〕「円融院の御世より参りたりける人の、いといみじく神さび、古めいたるけはひの、いとよし深く」
(4)関係があること。よすが。たよりどころ。つて。ゆかり。縁。
*万葉集〔8C後〕四・七六一「早河の瀬にゐる鳥の縁(よし)を無み思ひてありし吾が児はもあれ〈大伴坂上郎女〉」
*伊勢物語〔10C前〕一「むかし、をとこ、うひかうぶりして、平城の京、春日の里にしるよしして、狩に往にけり」
*名語記〔1275〕四「縁をよしとつかへるも、義たがはさる歟」
(5)かかわりを持つための方法。手段。てだて。すべ。→
*万葉集〔8C後〕二・二一〇「恋ふれども 逢ふ因(よし)を無み 大鳥の 羽易(はがひ)の山に 吾が恋ふる 妹はいますと 人の云へば〈柿本人麻呂〉」
*万葉集〔8C後〕一五・三七三四「遠き山関も越え来ぬ今更に会ふべき与之(ヨシ)の無きがさぶしさ〈中臣宅守〉」
*仮名草子・竹斎〔1621~23〕上「まだうちつけの事なれば、文参らせんもよしも無し」
(6)それを口実にすること。それをきっかけとして、物事を行なうこと。口実。きっかけ。機縁。機会。
*万葉集〔8C後〕一一・二六八五「妹が門行き過ぎかねつひさかたの雨も降らぬか其を因(よし)にせむ〈作者未詳〉」
*米沢本沙石集〔1283〕一〇末・一〇「徳をかくすよしにて、放逸なるもあり」
*虎明本狂言・鱸庖丁〔室町末~近世初〕「所で某よしにあまり、はしかたなおっとって、かみをば三つにきり」
*不如帰〔1898~99〕〈徳富蘆花〉中・四・二「其の再会の縁由(ヨシ)となれるが為めに病其ものの悲む可きをも喜ばんずるまで」
(7)それらしく見せること。そのようなそぶりを見せること。実質を伴わない、形ばかりのこと。しるし。かた。ふり。
*平家物語〔13C前〕一・殿上闇討「当座の恥辱をのがれむが為に、刀を帯する由あらはすといへども、後日の訴訟を存知して、木刀を帯しける用意のほどこそ神妙なれ」
*平家物語〔13C前〕八・猫間「中納言めさでもさすがあしかるべければ、箸とってめすよししけり」
*徒然草〔1331頃〕一九四「さまざまに推し心得たるよしして、賢げにうちうなづき、ほほ笑みてゐたれど、つやつや知らぬ人あり」
*日中行事〔1334~38頃〕「うるはしくめすべきを、近代はよしばかり也」
(8)伝え聞いた事柄であることを示すことば。…とのこと。
*俳諧・曠野〔1689〕員外「むかしあまた有ける人の中に、虎の物語せしに、とらに追はれたる人ありて、独色を変じたるよし」
*正岡子規宛夏目漱石書簡‐明治二二年〔1889〕九月一五日「貴兄漸々御快方の由何よりの事と存候」
*奉教人の死〔1918〕〈芥川龍之介〉一「傘張の娘と兎角の噂ある由を聞いたが」
語誌
→「
語源説
(1)イトスチ(最筋)の反〔名語記〕。
(2)その事にヨリ(寄)シの義〔和訓栞〕。
(3)ヨル(因)のヨに語尾のシがついた語〔国語の語根とその分類=大島正健〕。
発音
[ヨ]平安~江戸(0)
上代特殊仮名遣い
ヨシ
辞書
色葉・名義・和玉・文明・天正・日葡・書言・ヘボン・言海
→正式名称と詳細
表記
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