ときは今あめが下しる五月かな 光秀
水上まさる庭のなつ山 西坊
花おつる流れの末をせきとめて 紹巴
明智本姓土岐氏なれば、時と土岐と韻を通はして、天下を取るの意を含めり。秀吉既に光秀を討ちて後、連歌を聞き大に怒りて紹巴を呼び、天が下知るといふ時は天下を奪ふの心現はれたり。汝知らざるや、と責めらるゝ。紹巴、其発句は天が下なるにて候、と申す。然らば懐紙を見せよ、とて、愛宕山より取り来て見るに、天が下しると出たり。紹巴涙を流して、是を見給へ。懐紙を削りて天が下しると書換へたる迹分明なり、と申す。殊勝にも書き換ぬ、とて秀吉罪を許されけり。江村鶴松筆把りにて天が下しると書きたれども、光秀討たれて後紹巴密に西坊に心を合せ、削りて又始の如く天が下しると書きたりけり。
春永 いかにも盃くれふ。その方へくれる盃は、アヽ何をがな○。
ヲヽ幸ひ、蘭丸、あれなる
蘭丸 ハツ。
ト合方かわつて蘭丸、馬だらひに錦木の活たるを春永の前へ持行。春永、錦木をぬき捨、
春永 蘭丸、このうつわを光秀へ。
蘭丸 ハツ。
ト合点のゆかぬおも入れにて、光秀が前へ持行、直す。
春永 イザ光秀、盃くれるぞ。
ト光秀、思入有つて、
光秀 アノ、このうつわを拙者めへ、お盃とな。
トあつらへの合方。
春永 いかにも、その方にくれるには、相応のその馬だらひ。イザ、つげ。
光秀 ヤ。
春永 その方がのぞみの通り、馬にあたへる
その盃、鼻づらさし込舌打して、その盃をづつとほせ。
ト光秀、無念のおも入。