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  11. 古今和歌集
新編 日本古典文学全集・改訂新版・世界大百科事典・日本国語大辞典・日本大百科全書

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新編 日本古典文学全集
古今和歌集
こきんわかしゅう
〔一〕 
やまとうたと申しますものは、人の心を種にたとえますと、それから生じて口に出て無数の葉となったものであります。この世に暮している人々は、さまざまの事にたえず応接しておりますので、その心に思うことを見たこと聞いたことに託して言い表したものが歌であります。花間にさえずる鶯、清流にすむ河鹿の声を聞いてください。自然の間に生を営むものにして、どれが歌を詠まないと申せましょうか。力ひとつ入れないで天地の神々の心を動かし、目に見えないあの世の人の霊魂を感激させ、男女の間に親密の度を加え、いかつい武人の心さえもなごやかにするのが歌であります。
〔二〕
この歌は、天地創成の昔から世に現れておりました。
天の浮橋の下で、イザナギノミコトとイザナミノミコトとが結婚なされたことをうたった歌である。
しかしながら、後世に伝わるについては、天上界ではシタテルヒメのお歌に始り、
シタテルヒメはアメワカヒコの妻である。ヒメの歌とは、その兄君のアジスキタカヒコノカミの美しい姿が、丘や谷に照り輝くのを賛美してうたった夷曲の歌をさすのであろう。これらの歌は音数も不定で、歌の体をすらなしていないものである。

古今和歌集
目次
古典への招待
凡例

古今和歌集(扉)
(仮名序)
〔一〕和歌の本質と効用
〔二〕和歌の起源
〔三〕和歌の姿
〔四〕和歌の歴史
〔五〕古今集の編集過程
巻第一 春歌 上
巻第二 春歌 下
巻第三 夏歌
巻第四 秋歌 上
巻第五 秋歌 下
巻第六 冬歌
巻第七 賀歌
巻第八 離別歌
巻第九 羇旅歌
巻第十 物名
巻第十一 恋歌 一
巻第十二 恋歌 二
巻第十三 恋歌 三
巻第十四 恋歌 四
巻第十五 恋歌 五
巻第十六 哀傷歌
巻第十七 雑歌 上
巻第十八 雑歌 下
巻第十九 雑躰歌
短歌
旋頭歌
誹諧歌
巻第二十 大歌所御歌・神遊びの歌・東歌
大歌所御歌
神遊びの歌
東歌
墨滅歌
巻第十 物名部
巻第十一
巻第十三
巻第十四
古今和歌集序 (真名序)
〔一〕和歌の本質・効用・六義
〔二〕和歌の起源
〔三〕和歌の歴史
〔四〕古今集の編集経過

校訂付記
異本所載歌 平安初期歌合(扉)
凡例
異本所載歌
寛平御時后宮歌合
亭子院女郎花合
延喜十三年亭子院歌合
歌合 校訂付記
解説
はじめに
一 古今的世界の形成
二 『古今集』の成立
三 『古今集』の歌人たち
四 『古今集』の心とことば
五 研究史の大要
古筆切一覧
参考文献
付録(扉)
作者略伝
系図(皇室・皇胤)
系図(皇胤)
系図(紀氏)
系図(藤原氏)
『古今和歌集』地名地図(1)
『古今和歌集』地名地図(2)
年表
初句索引
奥付



改訂新版・世界大百科事典
古今和歌集
こきんわかしゅう

醍醐天皇の詔により撰ばれた最初の勅撰和歌集。略称は《古今集》。20巻。古今とは〈いにしえ〉〈いま〉の歌の集の意と,後世の人々が,和歌が勅撰された延喜の時代をいにしえの和歌の聖代と仰ぎ見るであろう,の意を兼ねる。流布本では巻首に仮名序,巻尾に真名(まな)序を付し,歌数は1111首(重出歌1首を含む)。長歌5首,旋頭(せどう)歌4首を含むが,他はすべて短歌。分類は春,夏,秋,冬,賀,離別,羈旅(きりよ),物名,恋,哀傷,雑,雑体(長歌,旋頭歌,誹諧),大歌所御歌とする。この形式は以後の勅撰集に基本的に継承された。

 平安時代の初期は唐風文化の極盛期で,勅撰漢詩集も3回編纂され,漢詩文が隆盛となって,和歌は衰微した。しかし,894年(寛平6)遣唐使が停止されたころから国風文化が徐々に育ってくる。平仮名で書かれた《古今集》が勅撰されたのはその最初の大事業であった。それまで恋愛の場など日常生活に埋没していた和歌は晴れの場所を与えられることになった。

撰者と作者

仮名序によれば,詔は延喜5年(905)4月18日に発布された。完成奏覧は913年(延喜13)から914年の間である。撰者は紀友則,紀貫之,凡河内躬恒(おおしこうちのみつね),壬生忠岑(みぶのただみね)の4人で,友則は途中で没し編纂の主導権は貫之がとった。撰者の主張は序文に示され,〈やまと歌は人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける〉と仮名序の冒頭にいうように,創作主体としての人間の心を基本に据えるものである。両序は主として《毛詩大序》を基盤として書かれており,全体に中国文学論の影響は大きい。しかし,〈この歌天地ひらけ初まりける時より出できにけり〉(仮名序)というように,《日本書紀》によりつつ,和歌は天地創造とともにあり,わが国に固有の起源を有するとする主張も結合されている。詩は中国では士大夫の必須の教養であったが,撰者は和歌にそれと同様の位置を与えようとしたのである。集中の作者はすべて127人,代表的歌人は4人の撰者のほか,六歌仙(僧正遍昭,在原業平,文屋康秀,喜撰法師,小野小町,大友黒主),伊勢,素性法師らがあげられる。〈読人しらず〉の作は全体で6割にも達し,おおむね伝承歌的な色彩があり,かなり古い時代の作を含んでいると考えられている。

歌風

《古今集》の歌風を総合的に見れば平明で,感動の直叙を好まず(《万葉集》の対極),また,言外の余情を好まず(《新古今集》の対極),内容にも形式にも平衡感覚が優先し,輪郭がはっきりした表現を旨とする。歌材も激発する感情や豪宕(ごうとう)な自然は好まれず,平穏な日常的自然や生活が中心である。言語は古典的規範文法が厳格に適用されて歌意の誤解を許さない。語彙もよく選択され俗語を排除し,一方,縁語や懸詞が発達して現実の外に小宇宙を構成する。そのことを藤原定家は,〈むかし貫之,歌の心たくみに,たけおよびがたく,言葉つよく,姿おもしろき様を好みて,余情妖艶の体をよまず〉(《近代秀歌》)と評した。〈むすぶ手の雫に濁る山の井の飽かでも人に別れぬるかな〉(巻八,離別歌,貫之)は平明な内容と明晰な語法で《古今集》を代表するものである。藤原俊成は〈おほかた全て言葉事の続き,姿,心,限りもなき歌なるべし。歌の本体はただこの歌なるべし〉(《古来風体抄》)と激賞したが,古今風の特色をよくとらえた批評というべきである。〈立ち別れ因幡の山の峯に生ふる松とし聞かば今帰り来む〉(巻八,離別歌,在原行平)は,因幡と〈去(い)なば〉を懸け,松は〈待つ〉と懸けた懸詞である。懸詞は,縁語とともに《万葉集》ではほとんど使用されず,《古今集》において発達した技巧である。

 早く藤原俊成が〈万葉集は時代久しく隔たり移りて,歌の姿,言葉うちまかせてまなび難かるべし。古今の歌こそは歌の本体と仰ぎ信ずべきもの〉(《古来風体抄》)と述べたごとく,後世から第一の古典と仰がれ,和歌の世界ばかりでなく,散文の文飾にも《古今集》を引くことが多かった。また,造形美術も表現の類型を《古今集》に求めるなど,わが国古典文化の中枢として扱われ,ひろく日本的感性を培ってきた。しかし,近代になると短歌の革新を唱える正岡子規により〈古今集はくだらぬ集〉(《歌よみに与ふる書》)と批判されるに至った。

諸本と注釈

《古今集》は多数の古写本が残り,平安時代にさかのぼるものも少なくない。全巻揃った本で最も古い本は元永3年(1120)書写の元永本古今集である。書写の古いものは伝紀貫之筆と称する高野切(こうやぎれ)古今集で,これは部分的に存する断簡である。その他,伝小野道風筆継色紙,伝藤原行成筆升色紙など,断片であるが種類は多い。いずれも名筆で仮名書道の淵叢であり,古典である。流布本の《古今集》は藤原定家の校訂書写の本の流れである。定家本はいくつかあるが,貞応2年(1223)の奥書のある本が最も流布した。

 平安時代の末の歌学の隆盛期,《綺語抄》《無名抄》《奥儀抄》《袖中抄》などの歌学書はその大きな部分を《古今集》の考察にあてている。これらは実作者の参考に供する目的での解説である。注釈書は藤原教長の《古今集註》が最も古く,治承(1177-81)ころの作である。ついで顕昭の《古今集註》がある。これは1191年(建久2)に完成し12巻と大きく,現在散逸した資料も多く用いた詳細なもので研究上重要である。その後研究と注釈はいわゆる〈古今伝授〉と呼ばれる伝授的な方向に吸収される。先輩の説を伝えることを目的とし,藤原基俊,藤原定家の秘説を伝授すると称し,外形を真言秘密の伝授や神道伝授から借り,複雑な儀式をともないながら受けつがれ,近世に至る。内容は必ずしも高くないが,朗詠の譜や歌会の故実などまで広く含み,戦後乱世を通じて学芸の保持,伝達に果たした役割は大きい。中世の研究は北村季吟《八代集抄》(1679-81成立)に総括され,近世の研究に基礎を提供した。契沖の《古今余材抄》(1692成立)は近世的な科学的研究を開始した重要な研究であり,本居宣長《古今和歌集遠鏡(とおかがみ)》(1794成立)は最初の口語訳である。香川景樹《古今和歌集正義》(1835刊)は近世の最もすぐれた《古今集》研究である。明治以後の業績は古写資料の公刊と整理が大きい。第2次大戦後の西下経一《古今集の伝本の研究》(1954)は古写本の系統論的研究の模範的な作で,以後の研究の基礎を置いた。久曾神昇《古今和歌集成立論》4冊(1960-61)は多くの資料を収集,整理して詳細な解説を付し,独自の見解を加えたもので,《古今集》の研究はここに資料的基礎が置かれた。
[奥村 恒哉]

[索引語]
古今集 紀友則 紀貫之 凡河内躬恒 壬生忠岑 六歌仙 藤原教長 古今集註 顕昭 古今伝受(授) 北村季吟 八代集抄 契沖 古今余材抄 本居宣長 古今和歌集遠鏡(とおかがみ) 香川景樹 古今和歌集正義 西下経一 古今集の伝本の研究 久曾神昇 古今和歌集成立論


日本国語大辞典
こきんわかしゅう[コキンワカシフ] 【古今和歌集】

解説・用例

平安初期の最初の勅撰和歌集。二〇巻。延喜五年(九〇五)醍醐天皇の勅命により、紀貫之、紀友則、凡河内躬恒、壬生忠岑の撰。延喜一四年頃の成立とされる。読人知らずの歌と六歌仙、撰者らおよそ一二七人の歌一一一一首を、四季、恋以下一三部に分類して収めたもの。貫之執筆の仮名序と紀淑望執筆の真名序が前後に添えられている。短歌が多く、七五調、三句切れを主とし、縁語、掛詞など修辞的技巧が目だつ。優美繊細で理知的な歌風は、組織的な構成とともに後世へ大きな影響を与えた。古今集。古今。

*古今和歌集〔905〜914〕仮名序「すべて千うた、はたまき、なづけてこきんわかしふといふ」

発音

コキンワカシュー

〓[カ]〓[カ]




日本大百科全書(ニッポニカ)
古今和歌集
こきんわかしゅう

平安時代初期に成った、最初の勅撰(ちょくせん)和歌集。略して『古今集』ともいう。
[鈴木日出男]

編者・成立

醍醐(だいご)天皇の勅命によって、紀貫之(きのつらゆき)、紀友則(とものり)、凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)、壬生忠岑(みぶのただみね)が撰者として編集にあたった。成立は延喜(えんぎ)5年(905)か。ただし、これを天皇の編集の命令の下った年とみる説もあり、一定しない。
[鈴木日出男]

構成

歌数は1100首。ただし、巻末に11首の墨滅歌(すみけちうた)(もとの状態がわかるように墨で消して削除した歌)を付す。全20巻に、次のような部立(ぶだて)(歌の内容上の部類)を配す。春上下(2巻)、夏、秋上下(2巻)、冬、賀(老齢をたたえ祝う歌など)、離別(官人の地方赴任に際しての送別の歌が中心)、羇旅(きりょ)(官人の旅中の歌が中心)、物名(もののな)(物の名称を隠し題として詠み込んだ歌)、恋1~5(5巻)、哀傷(人の死を悲しむ歌)、雑(ぞう)上下(老齢や無常を嘆く歌が中心)、雑躰(ざったい)(長歌、旋頭歌(せどうか)、誹諧歌(はいかいか)〈滑稽諧謔(こっけいかいぎゃく)味のある歌〉などを集める)、大歌所御歌(おおうたどころのみうた)その他の儀式歌。その分量からいっても、四季の自然の歌と、恋の歌が中心を占めている。それぞれの部立内に、歌々が、時間的な進行と多様な照応関係に秩序だてられながら、整然と配されている。その歌集としての構成法も、後世の歌集の規範とされた。
[鈴木日出男]

仮名序・真名序

この集には、紀貫之によって仮名散文で書かれた仮名序(かなじょ)と、紀淑望(よしもち)によって漢文で書かれた真名序(まなじょ)が付されている。通説では、まず仮名序が書かれ、のちにそれが漢文に翻案されたとする見方が有力である。両序の内容は、叙述の順序や細部において差違はあるものの、ほぼ一致しており、和歌の本質、起源、六義(りくぎ)(詠法の分類)、六歌仙評、撰集経緯などに触れている。これは、歌論としても後世に大きな影響を与えた。
[鈴木日出男]

歌人たち

所収の歌々を時代別にみると、(1)読人(よみびと)しらずの時代、(2)六歌仙時代、(3)撰者時代の3期に分けられる。
(1)奈良末期から次の六歌仙時代に至るまでの時期で、歌中で読人しらずとされる歌のほとんどがこれにあたる。ただし、読人しらずの歌のなかには、あえて名を隠すための処置とみられる場合も含まれるので、すべてがこの時期とは限らない。おおむねこの時期の歌には、『万葉集』の遺風が感じられる。恋歌が多く、前代以来の枕詞(まくらことば)、序詞(じょことば)を用いた歌が少なくない。
(2)清和(せいわ)朝から光孝(こうこう)朝(858~886)ごろの時代。六歌仙とよばれる僧正遍照(遍昭)(へんじょう)、在原業平(ありわらのなりひら)、小野小町(おののこまち)、大友黒主(おおとものくろぬし)、僧喜撰(きせん)、文屋康秀(ふんやのやすひで)の活躍した時期であるが、実際に多くの優れた歌を残したのは、遍照、業平、小町の3人だけである。ほかに、小野篁(たかむら)、在原行平(ゆきひら)(業平の異母兄)、源融(とおる)、やや遅れて大江千里(おおえのちさと)、藤原敏行(としゆき)、菅原道真(すがわらのみちざね)らがいた。これは古今集時代の本格的に開始する時期にあたり、歌合(うたあわせ)がおこるのもこのころであった。表現にも縁語、掛詞(かけことば)や見立ての技法が駆使され、斬新な歌風が示された。
(3)宇多(うだ)・醍醐朝(887~930)で、前掲の4人の撰者たちのほかにも、伊勢(いせ)(女流歌人)、素性(そせい)法師、清原深養父(ふかやぶ)、坂上是則(さかのうえのこれのり)、藤原兼輔(かねすけ)らが活躍した。このころは、歌合のみならず屏風歌(びょうぶうた)も盛んとなり、宮廷社会における和歌の重要性も一段と高まった。古今集歌風の完成の時期にあたる。
 なお、歌人別に『古今集』所収の歌数を数えると、貫之102、躬恒60、友則46、素性36、業平30、忠岑36、伊勢22、の順になる。
[鈴木日出男]

古今集時代と和歌の性格

『万葉集』ののちも、和歌を詠むという営み自体絶えたのではなく、晴れがましい場での詠歌こそ衰えたものの、私的な関係では、やはり詠み交わされていた。しかし9世紀なかばに至ると、貴族社会では、それまでとくに男子官僚たちの間で盛んであった漢詩文が衰え、和歌の再興する機運をみせ始めた。前述の六歌仙時代の到来である。これは、漢詩文隆盛の背景にあった律令(りつりょう)再編成の気運が薄れ、藤原氏による摂関制が開始する時期とほぼ対応している。初期摂関制の担い手となった藤原良房(よしふさ)や基経(もとつね)らは、明子(あきらけいこ)(良房の娘、文徳(もんとく)天皇の女御(にょうご)となって後の清和(せいわ)天皇を産んだ)、高子(たかいこ)(基経の妹、清和天皇の女御となって後の陽成(ようぜい)天皇を産んだ)ら自家の子女を次々と天皇の后(きさき)として送り込み、皇室との血縁関係をなかだちとして政治の実権を掌握するようになる。そのために、后たちの集団である後宮(こうきゅう)が政治的にも文化的にもにわかに重要な場となった。皇族や貴族たちも交流しあうその場では、和歌が社交的な性格を帯びながら活発に詠まれるようになる。もとより漢詩が男子官僚に限られるのに対して、和歌は男女の区別なくつくれる詩形である。この和歌の社交的な性格から、人々の交際においても和歌が挨拶(あいさつ)、文通の役割を果たし、左右に分かれて歌の優劣を競う歌合や、宮廷や貴族の室内を飾る屏風歌も行われるようになった。
 しかし他面では、この時代の和歌もまた、叙情詩本来の性格として自分自身の感情を表そうとするのは当然である。とくに、摂関家繁栄のための打算から、とかく閉塞(へいそく)的になりがちな社会にあって、和歌は、その孤立しがちな個人の心情を一面として取り込めようとする。したがってこの時代の和歌は、一面では貴族的に洗練された美の世界にふけることを通して他者と交流しながら、一面では他者と相いれない自己の孤心を見つめるという、二重性をもっていた。たとえば、「花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに」(小野小町)の、桜花の散るのを惜しむ耽美(たんび)の心に自己の生涯の憂愁を言い込めた表現。「ひさかたの光のどけき春の日に静心(しづごころ)なく花の散るらむ」(紀友則)の、春爛漫(らんまん)のなかにえたいの知れぬかげりを感取した表現。このように、協調と孤心の二重性を統一づけようとする緊張的な詩性こそ、『古今集』最大の特徴であるともいえる。
[鈴木日出男]

『古今集』の歌風と表現

前記のような和歌の性格からも、その表現の特徴は、物事を事実どおりに詠むのではなく、この時代共通の典型的美意識の枠組みのなかに再構成する点にある。実際の物事を再構成するのであるから、その作用は理知的であり、できあがった世界は観念的である。こうした表現を確保するために、前代以来の枕詞、序詞のほかに、新たに掛詞、縁語、見立て、擬人法、歌枕などの表現技法も生み出された。これらによって、複雑な文脈を構成しながら、しかも鮮明なイメージを形象させている。この理知的な作用による観念的な再構成は、前代の『万葉集』の表現とはまるで相違した歌風の歌々を出来(しゅったい)させた。「仮名序」の和歌本質論によれば「和歌(やまとうた)は、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける」とある。和歌表現を〈心〉と〈詞(ことば)〉の2要素に分析して、二つは別次元のものとした。「心詞二元論」とよばれる考え方で、〈心〉がそのまま〈詞〉にはならず、〈詞〉がそのまま〈心〉を伝えるとは限らないとする。〈心〉は表現上のくふうを凝らして、初めて〈詞〉に封じ込められるという点から、前記の表現技法も案出されたとみられる。たとえば、「冬枯れの野辺とわが身を思せば燃えても春を待たましものを」(伊勢)は、「思」と「火」の掛詞、それと「燃え」が縁語の関係。自分のうらぶれた身を冬枯れの野辺と見立ててみるが、ほんとうにそうなら野火の燃え過ぎたあとに希望の春もめぐろうが、自分にはまったく期待できないとする、荒寥(こうりょう)たる心象風景となっている。「桜花散りぬる風のなごりには水なき空に波ぞ立ちける」(紀貫之)は、風の吹き散らしたあとも花びらがちらちら空中を舞うさまを、「水なき空に波」が立つと見立てた。それによって、華麗な時の過ぎ去ったあとの空虚さがよく表されている。また『古今集』では、時間の推移を取り込む表現も多い。『万葉集』の歌がおおむね人間の感情を瞬間的にとらえているのに対して、ここには人生史への回顧という方法がみられる。それはしばしば物語的な関心をさえ呼び覚ますことになる。たとえば、「有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし」(壬生忠岑)など、恋の別れの過去が現在をも規制しているような表現になっている。
[鈴木日出男]

影響

『古今集』は、後の王朝和歌に対して規範的な役割を果たしたのみならず、物語文学にも引き歌や歌ことばなどを通して多大の影響を与えた。藤原俊成(しゅんぜい)・定家(ていか)など中世歌人にも尊重され、彼らの幽玄の歌風もこれを基盤として達成されたとみられる。近世では香川景樹(かがわかげき)の桂園(けいえん)派によって『古今集』が称揚された。近代に入ると、明治期の正岡子規(まさおかしき)が詩歌の近代化のために『古今集』の観念的歌風を激しく罵倒(ばとう)したが、現在ではその価値が再評価されている。
[鈴木日出男]

諸本

現在広く流布しているのは、藤原定家筆写の系統で、(1)貞応(じょうおう)二年本(二条家相伝)、(2)嘉禄(かろく)二年本(冷泉(れいぜい)家相伝)、(3)伊達(だて)家本。ほかに完本として現存最古の元永(げんえい)本、俊成本がある。さらに、古筆切(こひつぎれ)として40種ほどの断簡も伝わっている。
[鈴木日出男]

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22. 高野切本古今和歌集[イミダス編 文化・スポーツ]
イミダス 2016
日本初の勅撰和歌集「古今和歌集」の現存する最古の写本。全20巻に仮名序を合わせた21巻から成るが、現存する完本は巻第五、八、二十の3巻のみ(いずれも国宝)で、 ...
23. 『続古今和歌集』
日本史年表
1265年〈文永2 乙丑④〉 12・26 藤原為家ら,後嵯峨上皇に 『続古今和歌集』 を奏覧(拾芥抄)。  ...
24. しょくこきんわかしゅう【続古今和歌集】
デジタル大辞泉
鎌倉時代の勅撰和歌集。20巻。正元元年(1259)後嵯峨院の院宣により藤原為家・基家・家良・行家・光俊が撰し、文永2年(1265)成立。仮名序・真名序があり、歌 ...
25. しょくこきんわかしゅう[ショクコキンワカシフ]【続古今和歌集】
日本国語大辞典
鎌倉時代にできた、一一番目の勅撰集。二〇巻。歌数は一九一五首。正元元年(一二五九)後嵯峨院の院宣により藤原基家・為家・行家・光俊が撰し、文永二年(一二六五)成立 ...
26. しょくこきんわかしゅう【続古今和歌集】
国史大辞典
た。『続古今和歌集竟宴和歌』はその際の詠。二種類の目録が存する。本集の本文は尊経閣文庫蔵伝藤原為氏筆本がすぐれている。『新編国歌大観』一所収。 [参考文献]樋口 ...
27. 『続古今和歌集竟宴和歌』
日本史年表
1266年〈文永3 丙寅〉 3・12 『続古今和歌集竟宴和歌』 詠まれる。  ...
28. しんこきんわかしふ【新古今和歌集】
全文全訳古語辞典
象徴的・絵画的・幻想的・感覚的な歌も多く、芸術至上主義の極致ともいうべき歌集となっている。『古今和歌集』に範を取った、各部立てごとの複雑・微妙な和歌の配列も一層 ...
29. 『新古今和歌集』
日本史年表
1205年〈元久2 乙丑⑦〉 3・26 藤原定家ら, 『新古今和歌集』 を撰進(明月記)。  ...
30. 新古今和歌集
日本大百科全書
第8番目の勅撰(ちょくせん)和歌集。20巻。鎌倉初期の成立。後鳥羽院(ごとばいん)の下命によって撰進された。撰者は源通具(みちとも)、藤原有家(ありいえ)、藤原 ...
31. 『新古今和歌集』[百科マルチメディア]
日本大百科全書
巻1 春歌上 源通具(みちとも)・藤原有家(ありいえ)・藤原定家(ていか)・藤原家隆(いえたか)・藤原雅経(まさつね)・寂蓮(じゃくれん)撰 1654年(承応3 ...
32. 新古今和歌集
世界大百科事典
旋頭歌などの雑体は含まない。流布本で1979首を収める。八代集の最後に位置し,《万葉集》《古今和歌集》と並ぶ古典和歌様式の一典型を表現した歌集と評価されている。 ...
33. しんこきんわかしゅう【新古今和歌集】
デジタル大辞泉
鎌倉初期の勅撰和歌集。八代集の第八。20巻。後鳥羽院の院宣により、源通具(みなもとのみちとも)・藤原有家・藤原定家・藤原家隆・藤原雅経が撰し、元久2年(1205 ...
34. しんこきんわかしゅう[シンコキンワカシフ]【新古今和歌集】
日本国語大辞典
古今集」と並び称される。八代集の一つ。新古今集。*新古今和歌集〔1205〕仮名序「すべてあつめたる歌ふたちぢはたまき、なづけて新古今和歌集といふ」シンコキンワカ ...
35. しんこきんわかしゅう【新古今和歌集】
国史大辞典
繋るものであり、以後中世歌学思想上大きな意味を持ち、中世勅撰和歌史上、『古今和歌集』が憧憬される場合必ず『新古今和歌集』を媒介としてなされているのも、これによる ...
36. 新古今和歌集(しんこきんわかしゅう)
古事類苑
文學部 洋巻 第2巻 298ページ ...
37. 新古今和歌集
日本古典文学全集
後鳥羽院の命によって編まれた、第八番目の勅撰和歌集。撰者は源通具(みちとも)、藤原有家(ありいえ)、藤原定家、藤原家隆(いえたか)、藤原雅経(まさつね)、寂蓮( ...
38. しんこきんわかしゅうしょうかい【新古今和歌集詳解】
デジタル大辞泉
古今和歌集の注釈書。塩井雨江著。明治41年(1908)刊行。7部からなる。  ...
39. 『新続古今和歌集』
日本史年表
8・23 飛鳥井雅世,最後の勅撰集 『新続古今和歌集』 四季部を奏覧(看聞)。 1439年〈永享11 己未①〉 6・27 飛鳥井雅世, 『新続古今和歌集』 を奏 ...
40. しんしょくこきんわかしゅう【新続古今和歌集】
デジタル大辞泉
室町時代の最後の勅撰和歌集。20巻。永享5年(1433)後花園天皇の勅により、飛鳥井雅世が撰し、同11年成立。一条兼良(いちじょうかねら)の真名序・仮名序がある ...
41. しんしょくこきんわかしゅう[シンショクコキンワカシフ]【新続古今和歌集】
日本国語大辞典
室町時代にできた、二一番目の勅撰集。二〇巻。歌数は二一四四首。永享五年(一四三三)後花園天皇の命により飛鳥井雅世が撰し、同一一年完成。真名序・仮名序共に一条兼良 ...
42. しんしょくこきんわかしゅう【新続古今和歌集】
国史大辞典
室町時代に成立した勅撰和歌集。二十一代集の最後。永享五年(一四三三)八月将軍足利義教の発意により撰集の議が表面化し、二十五日後花園天皇の綸旨が撰者飛鳥井雅世に ...
43. 新續古今和歌集(しんぞくこきんわかしゅう)
古事類苑
文學部 洋巻 第2巻 321ページ ...
44. 續古今和歌集(ぞくこきんわかしゅう)
古事類苑
文學部 洋巻 第2巻 308ページ ...
45. 新古今和歌集序 (見出し語:新古今和歌集)
古事類苑
文學部 洋巻 第2巻 432ページ ...
46. 新古今和歌集竟宴 (見出し語:新古今和歌集)
古事類苑
文學部 洋巻 第2巻 246ページ ...
47. しんぞくこきんわかしゅう【新続古今和歌集】
国史大辞典
⇒しんしょくこきんわかしゅう  ...
48. ぞくこきんわかしゅう[ゾクコキンワカシフ]【続古今和歌集】
日本国語大辞典
〓しょくこきんわかしゅう(続古今和歌集) ...
49. ぞくこきんわかしゅう【続古今和歌集】
国史大辞典
⇒しょくこきんわかしゅう  ...
50. 續古今和歌集命名 (見出し語:續古今和歌集)
古事類苑
文學部 洋巻 第2巻 246ページ ...
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新古今和歌集(新編 日本古典文学全集)
新古今和歌集序(仮名序)〔一〕和歌は、昔、天地が開け始めて、人の営みがまだ定らなかった時、日本の歌として、稲田姫の住んでいた素鵞の里から伝わっているということである。そうした時以来、和歌の道が盛んに興り、その流れは今日まで絶えることがなくて、恋愛に熱中したり
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