クラインガルテン(Kleingarten/独)は、ドイツ発祥の市民農園で、直訳すると「小さな庭」という意味だ。
19世紀、産業革命による都市化が進んだドイツで、労働者の生活環境は日に日に悪化。工場労働者が自然と触れ合って健康を取り戻すために、医師のシュレーバー博士の提案で子どもの遊び場つきの菜園がライプチヒ市に作られるようになった。発案者の名前をとってシュレーバー農園とも呼ばれている。
また、20世紀初めのベルリンでは、住宅難に悩まされていた労働者が空地を占拠して小屋を建て、その周りで菜園を営むようになる。
この二つの潮流からできあがったのが、クラインガルテンだ。都市部の労働者が健康を取り戻すための生存戦略から生まれたもので、それが全国的に広がり、ドイツでは市民農園に関する法整備も行なわれるようになる。
一区画300平方メートルの菜園を家族ごとに借りて、野菜や果物、花などを育てるのに利用できる。ラウベと呼ばれる小屋を建て、そこで農作業の間に休憩したり、食事をとったりすることもできる。地域によっては、ビヤホールなど共同利用できる施設を併設しているところもある。利用期間は無期限の菜園がほとんどで、利用料は年間3万円程度。ただし、所得制限があり、集合住宅で暮らしている人に利用が限定されている。
日本でも、90年代前半からドイツのクラインガルテンを模した滞在型の市民農園が作られるようになり、田舎暮らしブームも手伝って、ここ数年は利用者が増えている。ただし、利用料は年間数十万円かかるところもあり、利用期間も4~5年単位など、使い勝手は本場ドイツと比べると見劣りする内容のところが多い。ドイツのクラインガルテンが低所得層に配慮したものであるのに対して、日本では富裕層がリゾート感覚で利用するものになっている面が否めない。
そもそも「庭」とは、人々の生存を支えるために不可欠な農的な暮らしの拠点となる場所だ。真の意味でのクラインガルテンが日本に根付くまでには、もう少し時間がかかりそうだ。