戦国時代の1556(弘治2)年、平戸(長崎)を訪れたポルトガルの宣教師が、カステイラ(カステラ)のもとになった南蛮菓子を日本にもたらした。当時のカステイラは、牛乳や蜂蜜を使った治療食の一種であり、イベリア半島東岸中央部に位置した「カスティーリャ王国」の食べものとして伝えられたため、「カステイラ(加須底羅)」と呼ばれるようになったらしい。この頃に日本で食べられていた南蛮菓子は、「ぼうる」や「かるめいら」のようなものだったので、それは斬新な食べものとして、天火(オーブン)を用いる調理法とともに受け入れられることになった。伝来後、広まってからのカステイラは、かまどで炭火をおこし、上に鉄板を載せて焼いていたそうである。カステイラの基本となる材料は、小麦粉、鶏卵、白砂糖だけ。種(たね)生地にはふくらし粉を使っていない。少量の小麦粉と卵白の力を、火力と蒸しの加減をしながら長時間かけて焼き上げ、十二分に引き出している。するとあの、スポンジ生地よりもしっかりとした、独特の食感や複雑な甘みが得られる。もちろん、伝来後の数百年間にわたり、カステイラは庶民の高嶺の花のような存在であった。一般の人に広く食べられるようになったのは、昭和に入ってからのことである。

 南蛮菓子に由来する日本の菓子を、洋風和菓子とはよくいったもので、京都には古くからの製法を守るカステイラの老舗が数軒見られる。大極殿本舗(中京区)はその一つで、二代目が長崎で修行を積み、1895(明治28)年から「カステイラ」づくりに取り組んでいる。そして、1928(昭和3)年には関西電力の前身の京都電灯と協力し、国産第一号となる電気オーブン(電気釜)をつくりあげた。この電気オーブンの誕生によって効率的に焼きあげることが可能になり、カステイラはようやく庶民の手に入る存在になった。大極殿の「春庭良(かすていら)」は、先代の追求した配合を今日も受け継ぎ、ひとりの職人が最初から最後まで管理し、焼きあげられている。


大極殿の春庭良(カステーラ)。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 山口組は世界で最も多い組員を抱え莫大な収益をあげている日本最大の暴力団組織である。『週刊ポスト』(9/11号、以下『ポスト』)によれば、山口組は14年末の時点で構成員・準構成員などを合わせると約2万3400人、全国の暴力団の43.7%を占めるという。

 山口春吉が沖仲仕(おきなかし)たちを集めて神戸で結成したのが最初といわれる。山口組の名を広く知らしめたのは三代目田岡一雄組長だった。彼が就任当時、組員は数十人だったが、全国へ進出して抗争を繰り広げ勢力を拡大していった。1965年には傘下団体424、総勢9000名を超えたといわれている。

 田岡組長は興行の世界へも進出し、当時絶頂の人気を誇った美空ひばりや田端義夫、スターの仲間入りを果たしたばかりの高倉健など多くの芸能人を可愛がったことはよく知られている。

 1978年に田岡は京都のクラブ「ベラミ」で、傘下の組と対立していた松田組系大日本正義団の組員・鳴海清に撃たれ負傷した。私は当時『週刊現代』にいたが、東京の病院にいる田岡の手記を取ろうと、彼を見知っている記者の広岡敬一氏とともに病院で張り込んだが、警戒が厳重で見舞いの花と取材依頼の手紙を渡すことさえできなかった。

 田岡の死後、竹中正久が四代目組長に就任する。これに反対した組長代行山本広を支持する一派が組を割り一和会をつくって「山一抗争」が始まる。その抗争で竹中が殺されるが、山口組の勝利に終わる。一和会側は死者19人、負傷者49人、山口組側も死者10人、負傷者17人、警察官、市民にも負傷者4人が出た。

 これも余談だが、抗争中に『月刊現代』にいた私は、一和会幹事長の佐々木道雄組長の取材に行ったことがある。周囲を厳重に固めた警察に誰何(すいか)され、取材目的だというと渋々通してくれた。

 玄関を開けるとズラッと並んだ若い衆たちに睨み付けられ、『月刊現代』と言っても「なんやそれ?」。彼らの世界では『アサヒ芸能』と『週刊大衆』、『週刊実話』が三大誌で、『文藝春秋』はおろか『現代』など聞いたこともないのだ。

 ようようのこと大広間に通されると、そこには一斗樽や米俵がいくつも並び、晩秋だったと思うが、組長の知り合いから届いたという絶品のふぐちりをごちそうしてもらった。

 メディア大好きの佐々木組長は終始ご機嫌で、山口組など殲滅してやると威勢のいい話をしていたが、唯一困るのが好きなゴルフができないことだと言った。警察からゴルフはもちろん人混みにも出るなと言われているそうで、家の中で酒を飲むしかやることがないと愚痴っていたのを覚えている。

 この抗争の後、多少のドンパチはあったが、現在の司忍(つかさ・しのぶ)六代目になって山口組は一枚岩だと思われていた。だが、内実はそうではなかった。分裂の火種は名古屋対神戸の対立だと『ポスト』で傘下団体幹部がこう話している。

 「先代の渡辺芳則(よしのり)五代目が神戸の山健組だったように、それまでは関西から組長が選ばれてきた。司六代目は関西以外の組織で初めてトップに立った。
 山口組には『本部』と『本家』という考え方がある。本部は神戸の総本部で、本家は組長の出身組織。つまり現在の本部は神戸で本家は名古屋になる。それに違和感を覚える直参(じきさん)は少なくない。山口組は日本中に組員を抱えるが、やはり中心は関西であるべきだという考え方は根強い」

 また、司六代目組長の「方針」に対する反発も強かったようだ。

 「六代目は組の統制をことのほか重んじていた。直参は関西に来たら必ず本部(神戸)に顔を出さなければいけない決まりがあった。(中略)
 上納金制度も厳しかった。組の規模によって違うが、おおよそ月に80万円。それ以外にも本部が販売するミネラルウォーター、石鹸や歯ブラシなどの日用品の購入の強制、各組長の誕生日会へのお祝い金など、とにかく金銭の支払いが発生する。暴排条例(暴力団排除条例)などの締め付けでヤクザのシノギが限定されて稼げない時代だけに、厳しい上納に不満を抱く組は多かったようだ。
 雑貨屋のようなシノギしか認めず、しかもトラブルは起こすな。これでヤクザといえるのか?」(同)

 別の傘下団体幹部もこう語る。

 「今年の夏前、司六代目が七代目に弘道会(編集部注:司組長の出身母体)の幹部を指名しようとしているという情報が出回った。これには、“次は関西に実権が戻ってくる”と思っていた直参たちが猛反発。さらに、将来的には本家を名古屋に移動させる案があるという話も出た。
 それからしばらくして、この脱退騒動が起きた。造反した組長たちには、“名古屋から山口組を取り戻す”という思いがあるはずだ」

 『週刊文春』(9/10号、以下『文春』)で山口組某幹部もこう話す。

 「拳銃や防弾チョッキの値段が高騰していて、すでに品薄状態です。抗争になると、相手方の構成員を拉致し、人質交渉が行われることがありますが、今回、ウチの組では『組員が攫(さら)われても一切交渉はしない。自己責任で身辺に注意するように』と通達が出ています。これは、『どんな犠牲を出してでも徹底的に戦う』という意思表示です」

 同じ『文春』で、来年行なわれる伊勢志摩サミットの玄関口である名古屋に山口組が移転するなど許さないと警察庁幹部が息巻いている。

 『週刊新潮』(9/10号、以下『新潮』)によると破門された組長たちは新団体を「神戸山口組」とし「代紋は本家山口組と同じく、山菱を使用し、その真ん中に“神戸”の文字が入る」と言われているそうだから「名神戦争」勃発は避けられないようである。

 「山一抗争」をはるかに超える山口組分裂となれば、シマの奪い合いで都内の盛り場、銀座、赤坂、新宿はどうなるのか? 『新潮』でノンフィクション作家の溝口敦氏が、暴排条例があるので表立ってはみかじめ料を取るわけにはいかないが、クラブやキャバクラではいまでも払っているところがあるし、アングラカジノや風俗店などはトラブル処理を警察に頼むわけにはいかないから、暴力団に頼まざるを得ない、と語っている。

 「暴力団のシマ(縄張り)は地域ではなく、店ごとに分かれています。これから、山口組が押さえているシマの分捕り合戦が始まる可能性が高い」(溝口氏)

 これに最近勢力を伸ばしているといわれる「半グレ」集団が加われば、都心の歓楽街が血の海になるかもしれない。

 警察はこの機に乗じて山口組を追い込もうと大号令を掛けているようだが、もし組が潰れたら、元ヤクザ難民たちはどこへ行くのだろう。用心棒としてとっていたみかじめ料も入らず、売春やヤクの売買もできなくなった連中が大挙して生活保護を求めて窓口に殺到したらどうするのだろう。

 暴力団組織は「必要悪」とは言わないが、組織から追っ払われた一匹狼たちが野に放たれると、今以上に深刻な社会問題となるのは間違いない。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は山口組の分裂騒動と老後破産の話題で持ちきりで、ほかにはあまりめぼしい話題はないが、気になったのは『フライデー』(9/18号)が報じた「人気女子アナの不倫SEX写真」である。今週の『週刊現代』もやっているが、この女子アナは「可憐な顔立ちとスレンダーなスタイルから多くのファンがおり、現在もキー局の看板ワイドショーにレギュラー出演している」(『現代』)というのだから、コンドームを持って笑っている写真が流出した夏目三久(みく)アナどころの衝撃ではない。
 さらに大学生の時代から芸能活動を始め、ミスキャンパスにも輝いたというから、ネットでは執拗な本人捜しが行なわれているだろうと覗いてみた。
 Xという女性が名指しされている。真偽のほどはわからないが、検索した画像を見ると可愛い娘ではないか。
 だが、ネットの中で「リベンジポルノ」に『フライデー』が手を貸したのではないかという指摘があった。夏目の場合は、彼女が付き合っていた男が二股を掛けていて、片方の女が嫉妬して写真を流したのではないかと言われているようだが、今回の写真は、Xの別れた男が復讐するためにネットにばらまいたのかもしれないというのである。
 もしそうだとしたら、そうした卑劣な行為にメディアがのってしまったということになる。難しい問題を含んだ写真であることは間違いない。

第1位 「巨人・高橋由伸『乱倫なベッド写真』」(『週刊文春』9/10号)
第2位 「ショック! ペットを飼ったら『胃がん』になる」(『週刊現代』9/19号)
第3位 「イケメンリーダー奥田愛基(23)独白90分 安倍首相に『バカかお前は』SEALDsって何者?」(『週刊文春』9/10号)

 第3位。最近よく「SEALDs(シールズ)」という名を聞く。奥田愛基(あき)くんという23歳の若者がリーダーの学生組織で、先月23日に行なわれた「安保反対」集会で、安倍首相の国会でのヤジを逆手に取り、「どうでもいいなら首相をやめろ。バカか、お前は」と言い放ったことで、官邸の怒りを買っているという。
 『文春』によれば、彼は1992年福岡県生まれで、西表島(いりおもてじま)の北にある鳩間島(はとまじま)という離島で中学を卒業後、島根県の高校へ進み、現在は明治学院大学の4年生だそうだ。
 父親は北九州市内でホームレスの支援活動を続ける牧師さんだそうで、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』で取り上げられたこともあるという。
 「SEALDs」のデモのスタイルは一風変わっていて、太鼓を叩きラップのリズムに乗って「戦争するな」「安倍はやめろ」と短いフレーズで盛り上げていく
 『文春』が彼にインタビューしている。いくつか紹介してみよう。

 「(父親について=筆者注)二十年コツコツやってきて、ようやく注目されるようになりましたけど、それまでの孤独な闘いも見ているので。この社会は、タフにやるべきことを淡々とやっていくことが一番大事だと学びました。僕は十四歳で家を出ていますが、何をするにも自分で決めて、選んだ道の結果は自分で引き受けなければならないということを覚えましたね」

 「安全保障上の戦略はシールズ内でも人によってバラバラです。ただ、今回のフルスペックの集団的自衛権の内容は、これまでの憲法と国家の歩みからするとかなりハードルが高いことをしている。それなのに首相補佐官が『法的安定性は関係ない』と発言するほど憲法が軽んじられているから、憲法を守るべきだという点は共有してます」

 「(シールズは=筆者注)各班のリーダーを『副司令官』と呼んでるんです。これはメキシコのサパティスタ民族解放軍というゲリラ組織の影響です。彼らは非暴力で革命を目指しているのですが、そのリーダーのマルコスが自分のことを『副司令官』と名乗ってるんです。なぜかと言えば、『人民こそが司令官だから』。それ聞いて、かっこいいなあ! と(笑)」

 いいではないか。反戦活動も政権を倒せ運動も、かつては格好よかったのだ。
 60年安保闘争のときの全学連委員長だった唐牛健太郎(かろうじ・けんたろう)を調べている佐野眞一氏は、唐牛はすごく格好いい男だったと言っている。「ベ平連」の小田実もそうだった。この奥田くんもそこそこイケメンである。安保法制が山場を迎えているが、彼らの反対運動がどこまで盛り上がるか、下流老人も国会へ行ってみよう。

 第2位。『現代』の「ペットを飼ったら胃がんになる」という特集。私も老犬を飼っているから気になる記事である。
 『現代』によれば、今年6月の日本ヘリコバクター学会で発表されたそうだ。北里大学薬学部の中村正彦准教授らのグループによる研究が元になっていて、胃がんを引き起こす原因とされているのが「ヘリコバクター・ハイルマニイ」と呼ばれる細菌だそうだ。
 この細菌は、胃がんの原因として知られるピロリ菌の亜種にあたり、胃MALTリンパ腫という胃がんの一種を発症させると考えられているという。
 北海道大学大学院医学研究科特任講師の間部克裕(まべ・かつひろ)氏がこう語る。

 「ハイルマニイ感染者はピロリ菌感染者に比べて、胃MALTリンパ腫が発症する確率が7倍も高くなったというデータもあります」

 最も感染の危険性が高いのは口の周りをペットに舐められることだという。
 またフンや吐瀉物を手袋なしで処理することも非常に危険で、なぜなら、この細菌は排泄物にも潜んでいるからだそうだ。
 したがって、ペットのフンを処理するときは必ず手袋をつけ、片付けた後は水洗いだけでなく、石鹸や消毒液を使うことを心がけろという。
 カワイイ雌老犬だが、毎朝のキスの習慣を見直すか、残念だが。

 第1位。今週の『文春』のスクープは、巨人軍の次期監督候補・高橋由伸(よしのぶ)(40)の「乱倫なベッド写真」である。
 昨年の春の沖縄キャンプの時、高橋と親しい矢野謙次(34、今年日ハムに移籍)が、矢野と親しい銀座のママと2人のホステスを東京から沖縄のホテルに呼び寄せ、高橋を連れて深夜その部屋を訪れたというのだ。
 グラビアには二人の女性と高橋、矢野が一緒に写っている写真と、ベッドでママと矢野が寝ているそばで、高橋が背の高いホステスに抱きついている写真が掲載されている。
 この写真を撮ったホステスが別の部屋に出て行き、件のホステスが高橋とセックスしたというのである。写真も証言も、その夜、セックスの相手にならなかったホステスが提供したのだろう。
 いまは太ってしまった高橋だが、若い頃はなかなかいい男でバッティングも天才肌だった。だが極端な秘密主義で、元日テレの小野寺麻衣アナ(39)との結婚披露宴にも球団関係者は長嶋茂雄と原辰徳の2人しか呼ばなかったという。

 「彼は長嶋茂雄が『無味無臭な奴』と称したほどで、目立つことが大嫌い。メディア嫌いで用心深く、銀座や六本木のクラブに通う若手選手たちを見て、『優先順位の一番は遊びなのか? まずは野球じゃないのか』と説教をしたこともあった。家庭では二児の父として良きパパだと聞いています」(球団関係者)

 高橋は『文春』の取材に総務部を通して、部屋で一緒に飲んだことはあるが肉体関係を持ったことはないと答えている。
 読んでみてチョッピリ高橋が気の毒に思えた。東京から押しかけてきて、あわよくば高橋とセックスしたいと鼻の穴を膨らませているホステスに言い寄られ、その気になったのかもしれないが、こんな写真を公表されたら、もし監督になっても若手に説教できないだろう。何より自分が守ってきた「目立たない、メディアが嫌い」という姿勢がこの記事で吹っ飛んでしまったことに、高橋自身が一番落ち込んでいるのではないだろうか。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 世界最大規模の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」による「2015日本の人気テーマパーク」のランキングで、東京ディズニーランド、東京ディズニーシーに次いで3位となったのは、意外にも「公園」であった。 船橋市公園協会が管理する「ふなばしアンデルセン公園」がそれだ。ちなみに、4位のユニバーサル・スタジオ・ジャパンをおさえての堂々たるランクインである。

 花と緑に囲まれたこの公園は1996年にオープン。船橋市の姉妹都市・オーデンセ(デンマーク)が、童話作家アンデルセンの出身地であることから命名された。「ワンパク王国」「メルヘンの丘」「子ども美術館」「自然体験」「花の城」の5つのゾーンで構成されている。北欧をイメージさせる造りで、アスレチックなど子ども向きの施設も充実。入園料は一般900円、小・中学生が200円で、とにかくコストパフォーマンスがいいと評判だ。

 2014年は船橋とオーデンセが姉妹都市になって25周年とあって、大きなイベントも行なわれていた。ランキングでの躍進は、その効果があったからだろうか。最近、海外からも注目され、客足がますます増えているそうだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 自分自身の半生を振り返り、文章にしてまとめる「自分史」。その自分史の新しいスタイルとして、子どもが親の自分史を雑誌形式でまとめる「親の雑誌」が話題になっている。

 これまでの「自分史」といえば、退職や長寿のお祝いなどの記念に親類縁者に配るもので、自分が自分のために自費出版するものというイメージが強い。価格も数十万~百万円程度かかるため、誰もが簡単に作れるものではなかった。

 こうした大掛かりなものではなく、手軽に自分史を作れるようにしたのが「親の雑誌」だ。自分のためではなく、子どもなどの家族が親のために注文して作るもので、取材込みの制作費は5万円。雑誌形式の自分史が5冊から作れる。

 手がけているのは、ひとり暮らしの高齢者の安否確認や見守り、健康管理などの事業展開を行なっている「株式会社こころみ」だ。

 こころみでは、見守りの手段として、担当の職員がひとり暮らしの高齢者と電話で会話をして、その内容を離れて暮らす家族にメールで伝えるというサービスを行なっている。「親の雑誌」は、この高齢者の話を「聞く」というサービスから派生したもの。

 担当職員が、高齢者の自宅を訪問し、写真撮影を行なったうえで、生まれてからこれまでの親の歴史をインタビューする。その後、電話でのフォローを行ない、「親の歴史」を全16ページ、オールカラーでまとめて2か月ほどで完成する。

 最初は創刊号として刊行し、その後は希望に応じて、2号、3号と親の日常生活を綴る雑誌を作り続けていくことも可能だという。

 離れて暮らしていると、親が元気でいるのか、どのように毎日を暮らしているのかを知るのが難しいこともある。それとなく尋ねようにも、日々の些事に追われて、親のことはつい後回しなってしまいがちだ。

 だからといって、親に面と向かって「業者の見守りを受けてほしい」とは言いにくいものがある。「親の雑誌」は、親を心配する子どもの気持ちを「自分史を作る」という名目で代弁する、新しい形の見守りツールともいえる。

 「親の雑誌」を作ることで、それまで知らなかった親の一面、現在の日常生活を子どもが知ることもできるかもしれない。だが、それは本当に親が望んでいることなのか。

 もしかしたら、「親の雑誌」が広まることは、リアルな親子関係を希薄にするのではないかといった心配も生まれる。

 高齢化社会のなかで生まれた新ビジネスは、これからの親子関係にどのような影響をあたえるのか。親の自分史を作るといった見守りサービスの先にあるものを見極める必要があるだろう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 なんだか体の調子が悪いというとき、自分の症状をネットで検索してみる御仁は多いことだろう。結果、適切な処置が見つかったり、心配無用という結論に達することもあるが、その精度はいかほどのものか。医療全般に関する素地があってはじめて、「正解」に近い情報が得られる。「自分の体のことは自分がいちばんよくわかる」とは限らないのだ。

 「ググった」あげくに、素人判断で誤った病気の判断をしてしまうことを、俗に「Google症」という。体の調子に関しては医師の判断をあおぐか、市販薬を購入するにしても、薬剤師に相談してみることが基本だ。ところが、ネットの情報をうかつに信じてしまうと、症状とはまったく関係のない薬を購入してしまうこともある。これでは治るものも治らない。

 ネット検索では、「重病」「死」などといったワードがヒットすることが多い。これもいけない。自分は深刻な病から逃れられないのではないか、という不安におそわれるのである。その結果、病院に行っても医者が信用できない。「ググった情報と違うので間違った診断なのだ」と思い込むのである。医療の世界にはたしかに「誤診」という難しい問題がある。が、ネットという世界も、それなりにウソや誤りが多いことを理解すべきだろう。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 大企業に女性登用の数値目標を設けることを義務付けた法律。2015年8月に成立した。その骨子は、(1)従業員301人以上の企業と国・地方自治体は、2016年4月1日までに女性管理職比率などの数値目標を盛り込んだ行動計画を策定し、届け出・公表をする、(2)従業員300人以下の企業の場合は努力義務とする、(3)罰則規定はない──というものだ。

 「女性の活躍推進」は安倍政権が成長戦略で柱の一つに掲げている政策で、女性の社会進出を後押しするものとの位置づけだ。

 もっとも、「活躍を後押し」というより必要に迫られての施策というのが実情だ。

 日本では出生率が下がり、高齢化が世界トップクラスのスピードで進んでいる。経済成長を持続させ、年金や高齢者医療を堅持するには、女性労働者を増やすしかないのである。安倍政権は女性の就業率について2012年の68%を2020年には73%に引き上げ、企業などで指導的な地位に占める割合についても30%程度とする目標を掲げている。

 取り組む側の企業としては、管理職の割合や全雇用者に占める女性比率などを数値目標にするようだが、企業側からは「一口に女性登用といっても人材不足で、売り上げなどの数字に責任を取らされる管理職なんか、なりたくない、という女性も少なくありません」(中堅商社幹部)、「ただ女性というだけで、能力もないのに管理職や役員になるケースも出てくる」(流通企業幹部)といったぼやき声も聞こえてくる。

 「女性活用推進」といっても実態は企業任せの部分が多い。罰則規定もないため、効力があるかも疑問だ。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 ファッション用語。英語表記だと「Normcore」。「norm(=normal/ノーマルの略)」と、ハードコアなどでも使われている「core」を組み合わせた造語で、直訳的には「究極の普通」。

 モノトーン調で一見目立たない無地の柄の洋服を無造作風にコーデするも、じつはカットだったり素材の質だったりにこだわった着こなしのこと。

 また、そういう骨太なスタイルを貫き通すことによって、流行やブランドネームに左右されない「シンプルだけど、どこかオーラがあって雰囲気を感じさせる自分」を志す、俗に言うところの「意識高い系」の人たちが好むファッションである。

 ホンモノの審美眼と優れた容姿を持つ少数派にとっては、まさに願ったりかなったりのトレンドだが、フシ穴な審美眼と並か並以下の容姿しか持たない多数派が安易に手を出せば、単なる「さえないアンチャン・ネーチャン」にしか見えない危険性が高い、両刃の剣的ファッションでもある。

 今年の夏は「イケメンパンツ」として白のバミューダ(←死語?)が大ブレイクしたが、コレもまたノームコアの一環なのかもしれない。が、「股間がすぐ黄ばんでくる」という理由で、筆者はまったく食指が動かなかった。男も50を過ぎれば悲しいかな、シモがユルくなってしまうのだ。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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