長い間漬物樽に漬け込んであった、少々漬かりすぎた感じの漬け物のことをいう。一般に古漬けといわれ、京都の家庭では「ひねこうこ」とか、「ひねたおこうこ」などという通称で呼ばれている。「ひね」は漢字で「陳」と書き、古くなったり、むだになったりしたことを表すことばである。しかし、ものによって陳麹(ひねこうじ)とか、陳生姜(ひねしょうが)などというと、長期間にわたって貯蔵、熟成され、ひと味もふた味もうま味を増した状態のものをさすこともある。ひね漬けというのは、ちょうど中間ぐらいの感じであろう。一般的な漬け物は、秋以降に収穫された根菜などを、冬にかけて塩漬けや糠漬けにする。いろいろな根菜の収穫期や漬かり具合に合わせ、ちょうど正月ぐらいに食べごろとなるようにつくられる。春になるころには、その漬け物は発酵が進みすぎてくるので、香りが強くなり、酸い味わいがどんどんきつくなってくる。これがひね漬け。しかし、食べ方をちょっと工夫すれば、それまで以上においしく食べられるのである。

 例えば、すぐきのひね漬けであれば、葉も根の部分も細かく刻み、ちりめんじゃこや野菜などを混ぜ合わせて食べる。醤油を数滴垂らし、まろみを加えれば、お茶漬けにしても、ごはんと炒めてもおいしく食べられる。さらに、漬けてから1年以上も経ったような年代物もある。大根のひね漬けであれば、贅沢煮にして食べる。まず、ひね漬けをそのまま水に浸けてけだし(塩抜きし)、適度な塩気の残っているうちに引き上げる。それを鍋に入れ、だしじゃこ、醤油、鷹の爪を入れて煮ると、立派なおばんざいができあがる。漬け物を材料に、さらに手間をかけて調理するので、贅沢煮という名称がつけられたそうである。京都ではスーパーマーケットの総菜売り場に必ずある定番品である。


贅沢煮は安く気軽に手に入り、ごはんのすすむ定番のお総菜である。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 『週刊ポスト』(3/21号、以下『ポスト』)の特集記事。4月から消費税8%になるのに、あえて値下げした根性のある企業を取り上げている。

 たとえば、はなまるうどんは価格を据え置き、日清食品は「ラ王シリーズ」の容器や具材変更で実質約16%の値下げになる。サンリオピューロランドは大人休日料金4400円を3800円など平日休日ともに値下げする。

 ファミリーマートはサンドイッチのパン5%増量でも価格を据え置き、イオンも半数以上のPB(プライベートブランド)商品で価格を据え置く。無印良品も75%の商品で価格を据え置き、しまむらも一部商品の価格を据え置きにする。

 こうしたことがなぜ起きるのか? 経済ジャーナリストの荻原博子氏は『ポスト』でこう語る。

 「給料が上がらず、デフレ脱却は実現していない中、消費増税を価格に転嫁すれば、小売業界は大打撃を受ける。消費増税で喜ぶのは輸出戻し税(企業が製品を輸出した場合、外国の消費者には税金分を価格転嫁できないという理由で、輸出製品の部品や原材料の価格に含まれている消費税分を国が輸出企業に戻す還付金のこと)で巨額の還付を受ける大企業だけ。内需型企業は生き残るために、身を削ってでも価格を下げざるを得ない状況です」

 昨年6月に安倍政権は4月1日以降、消費税増税分が取引価格に必ず転嫁されなければならないとして「消費税還元セール禁止法」を成立させた。だが岡田元也イオン社長は「国民生活を考えていない」、ユニクロ柳井正会長は「それが先進国か」とこき下ろし、下請けへの圧力はあってはならないが、販売店の自助努力まで禁じるのはおかしいと反対論が相次いでいる。

 ド根性企業の中に私の贔屓の店が2店も入っているので嬉しくなる。すき家は牛丼並盛280円を270円に値下げするのだ。

 牛丼もいいがこの店に置いてある食べ放題の紅ショウガがうまいから、一杯の牛丼で容器にあるショウガの3分1は食べてしまう。ちょっとドレッシングをかけると味がマイルドになるという裏技もある。時々店の人間にジロッと見られるが、かまうことはない。

 不思議なもので、たまにはおごって「おろしポン酢牛丼400円」を食べてやろうと意気込んで入るのだが、カウンターに座ると400円がとてつもなく高いものに思えて、いつも挫けてしまうのである。「山かけまぐろたたき丼580円」などは競馬でよほど儲からなければとても手が届かないと思ってしまうのだ。

 もう一つのサイゼリヤも半数程度の価格を据え置くという。「千ベロ」という言葉がある。千円札一枚でベロベロになれる店という意味だが、ここは幾ばくかのおつりが来ることもあるのだ。

 なにしろワイン500mlが370円、1500ml(ワイン2本分)のマグナムが1060円である。酒のつまみにいい辛味チキンが299円、エスカルゴのオーブン焼きもマルゲリータピザも399円なのだ。

 さらにみみっちい話で恐縮だが、私は毎日バスで駅まで出ている。片道200円だから往復で400円。これが4月1日からPASMOを使わないと片道210円になる。これぞ便乗値上げである。したがって一日20円の負担増になるから、20円×24日(月曜日から土曜日)=480円×12か月=年間5760円にもなると、消費税の“怖さ”を実感している。

 大企業では久々にベースアップが満額回答などと浮かれた報道が多いが、そんな微々たる給料アップは運賃、生活必需品、電力料金の値上げで吹っ飛んでしまうから、これで景気が上向くはずはない。アベノミクスの終焉はすぐそこまで来ていると思わざるを得ないのである。


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 今週最大の関心事はやはりSTAP細胞の小保方晴子さんであろう。疑惑から捏造へと、彼女に対する風当たりがそうとう厳しいのはタイトルを読んだだけでわかる。

第1位 「小保方晴子さんは、これからどうなるのか?」(『週刊現代』3/29号)
第2位 「オボちゃんはなぜ『やっちまった』のか」(『週刊ポスト』3/28号)
第3位 「STAP細胞小保方晴子さんは『佐村河内』だったのか」(『フライデー』3/28・4/4号)

 『フライデー』は「“全聾の作曲家”佐村河内守氏に、多くの日本人が騙された。まさか小保方さんが、とは思いたくないが」と含みを持たせているが、内心では第2の佐村河内事件だと思っているのだろうな。

 『ポスト』でも「『ノーベル賞級の発見をしたヒロイン』から『希代の詐欺師』呼ばわりされるほどの急転落」と、捏造は疑いないという書きようである。
 その背景には、こうした研究はビッグビジネスになる可能性があり、もしかすると「小保方の研究を邪魔しようとする研究者が、こっそりと別の万能細胞を混入させ、実験結果を狂わせた」という怪情報まで囁かれていると書いている。

 『現代』も小保方さん側の“捏造”が濃厚であるという見方ではあるが、その背景に男女の問題があるのではないかと報じている。
 こういう騒動になるとしたり顔で、だからいったじゃないか、あの二人はどうもおかしいと思っていたんだという輩が現れるものである。
 『現代』で理化学研究所の関係者という人物が、再生医療分野の第一人者で理研幹部の笹井芳樹副センター長と小保方さんとのことを、こう話している。

 「それほどの人材が小保方さんの指導にあたっていながら、なぜこんな杜撰な論文を発表してしまったのか、実に不可解です。一部では、論文の根幹部分は笹井氏が執筆を担ったとも言われている。小保方さんは笹井氏の引きで、ほとんど実績もないまま、たった2年で理研のユニットリーダーになりました。その人事の経緯や特別な人間関係も含め、不適切な点がなかったか疑問の声が内部でも上がっています」

 気になる小保方さんのこれからだが、ベテラン研究員は厳しい言い方をしている。

 「ここまで信頼を失ってしまうと、残念ながら、小保方さんはもはや研究者を続けていくことはできません。共同研究など怖くて誰もできませんし、仮に彼女が単独で新論文を発表しても、誰も相手にしない。大逆転があるとすれば、何らかの『奇跡』が起きて、STAP細胞の存在自体が証明されること。そうであって欲しいとは思いますが……」

 天国から地獄まで見た彼女の「大逆転」はあるのだろうか。

   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 「必要は発明の母」。使い古されたこの言葉は、いまなおヒット商品を生み出す源泉である。2013年6月、大阪市に本社を置く「愛眼(あいがん)」が発売したお風呂用のメガネ「FORゆ」は、熱に強く、金属をまったく使っていないため、さびることがない。これまで浴室でぼんやりした視界を強いられていた人にうれしい商品だ。流行情報誌でもよく採り上げられるヒットとなり、さっそく他社でも追随する動きが出ている。

 日本人は世界の中で特に入浴習慣を好み、これほど湯舟に浸かる時間が長い民族は珍しいという。ゆえに、浴室で読書やテレビを楽しむ文化も生まれた。我が家を離れた旅先でも、温泉つきの旅館に泊まるのは定番。このような多様な風呂の楽しみ方がある一方で、これまで「よく見える」ことはないがしろにされてきたといっていい。ヒットとは、灯台もと暗しというか、案外、みずからの国民性をとらえ直したところに生まれるものに違いない。

   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 私たちが日常生活で摂取している糖質は、自然界に多量に存在するブドウ糖や果糖など7種類の単糖(糖の最小単位)だ。これに対して、キシリトールやエリスリトールなど、それぞれの存在量がわずかしかない単糖とその誘導体を「希少糖」と呼ぶ。

 なかでも、いま、注目されているのが「D-プシコース」という希少糖。砂糖の7割程度の甘さがあるのに、食後の血糖値の上昇を抑えたり、内臓脂肪の蓄積を抑えたりする働きがあるという。また、動脈硬化を抑制する効果、虫歯になりにくい「抗う蝕性」も報告されている。

 D-プシコースは、1991年に香川大学の何森健(いずもり・けん)教授が農学部キャンパスで発見した酵素を用いて、果糖から人工的に作り出すことに成功。その後、香川大学が県内の研究機関や企業と連携しながら産官学連携で生産技術を確立し、量産化が可能になった。

 2011年、手始めに県内限定で業務用のD-プシコースのシロップを販売すると、健康志向とあいまって多くの食品会社から注文が殺到。いまでは販路が広がり、コンビニスイーツにも用いられるようになっている。

 飽食の現代人にとって、「食べても太らない」希少糖は魅力的な素材かもしれない。だが、どんなに食品の機能性が高くても、食べ過ぎてもいいということではない。

 健康を維持するには、希少糖も取り入れながら、バランスのよい食事をとるように心がけたいものだ。

   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 オリンギトは、2013年8月にコロンビアでの「発見」が公表されたアライグマ科の動物。この「発見」というのは事情が少しややこしい。これまでオリンギトは、別種の「オリンゴ」と同じ種類と考えられてきた。動物園で知らずに「オリンゴ」として展示されることもあったようだ。それが新しい種と判明したわけである。オリンギトとは、スペイン語で「小さなオリンゴ」という意味。

 さて、新種の発見というだけでは、動物学的には重要でも、一般まで認識されにくそうなニュース。ところが今回、ネット界隈では意外なほど話題を集めたのである。その理由は、何といっても見た目の愛らしさ。ルックスは「猫+アライグマ」と紹介されることが多い(ただし、ネットで紹介されている画像はあくまで幼獣の写真。無粋な指摘ながら、成獣はいくぶんキュートさを失う)。世界に名だたる「カワイイ好き」のニホン。今後ますますオリンギトの知名度は増していきそうである。

   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 「憲政史上、初めての画期的な取り組み」なのだそうだ。

 政府は4月から閣議と閣僚懇談会の議事録を作成し、3週間後に首相官邸ホームページで公表する。

 閣議と、閣僚が意見交換する閣僚懇談会は、原則として毎週火曜、金曜の午前中に行なわれている。1885(明治18)年の内閣制度創設以来、その議事録は作られてこなかった。新聞・テレビで報道される内容は、閣議終了後の記者会見で官房長官、各省大臣らが記者たちにブリーフしたものをもとにしているわけだ。

 議事録作成の狙いは「政策決定の透明性を高める」ことにあるという。特別秘密保護法で「情報公開に消極的」と喧伝された安倍政権にとっては、それを払拭する側面もある。

 ただ、公開されるのは発言要旨になる見通しで、「議事録」というほど一語一句、綿密に記録されるかは微妙だ。安全保障関連など国益上、当然、伏せなければならないものは非公開なのは当然だし、一定の公開条件がつくからだ。そもそも閣議の大臣発言は、「あらかじめ用意された文面を読み上げるものが多く、形式的なもの。議事録を公表しても何ら意味はない」(政治ジャーナリスト)との指摘もある。

 政治的なパフォーマンスということか。

   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



1:タレントほか著名人が自著を出版する際に、本人が語った内容を文章にまとめ直す作業をプロ、いわゆるゴーストライターに委ねた場合、その役割分担のさまを、かつて「現代のベートーベン」として一世を風靡した佐村河内守(さむらごうち・まもる)氏にちなんで「サムラゴル」と呼ぶ。

[使用例](ゴーストライターが新規の書籍編集部に営業をかけているときに)「お笑い芸人の○○○○の小説も元日本代表のサッカー選手の××××の自叙伝も、全部私がサムラゴリました」

2:部下の手柄を全部持っていって、あたかも「すべて自分がやりました」と言わんばかりに、上や周囲に吹聴する直属の上司のことを揶揄の意を込め、かつて「現代のベートーベン」として一世を風靡した佐村河内守氏にちなんでこう呼ぶ。

3:愛人としていただく金銭の額面が、あやふやになって口論が始まり、挙げ句の果てには「女房に訴えられたらお前も同罪だぞ!」と開き直る男のことを、女性側が罵りの意も込め、かつて「現代のベートーベン」として一世を風靡した佐村河内守氏にちなんでこう呼ぶ。通は「サムラゴル」を「サムル」と略し、さらには「サムイ(=寒い)」と韻を踏んだりもする。

[使用例]「あのオヤジ、マンション代全額払ってくれなかったり生活費よこさなかったりで最近サムリまくりなんですけどー。かなりサムクない?」

   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


<<前へ       次へ>>