「えらい、すいまへんな」。京都で数日過ごせば、二、三度は必ず耳にするだろう。「どうもすいません」とか、「どうもありがとう」を意味する方言である。「えらい」は、京都でいろんな意味に使い分けられる、たいへん便利なことばである。

 例えば、「えらい人出やわ」とか「えらいぎょうさん」といえば、「たいへんな」や「たくさんの」という意味になる。「えらいことになってしもた」ならば「とんでもない」だ。さらに「今日はえらいなー」といえば、「しんどい」ということばと同じで、「つらい」「苦しい」「疲れたなー」といった状態を表す時に使われる。「えらー」と、単に語尾を延ばせば、しんどくて、やるせない気持ちを強調して表すこともできる。語源は一説に、江戸時代に使われるようになった俗語で、けやけく峻(するど)いことを意味する「苛(いら)しけない」が転じたとされている。

 京都の人は、いろいろと縮めて使いこなす。「えらしり」は「よく知ってること」。「えらでき」は「よくできること」。「えらうけ」ならば「すごく評判がよい」という意味だ。「えらい(行)き」というのもあって、「たやすいこと」を表している。昔からのことばだが、とても現代的である。


523段あるという、えらいしんどい階段を上がると、そこに豊臣秀吉が眠る。東山の阿弥陀ヶ峰山頂の豊国廟にて。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 日本の年金制度はほとんど破綻しているといっていい。2004年に自民・公明連立政権下で年金制度改革が行なわれたが、そのとき今後100年間、現役時代の収入に対する年金額の割合を、最低でも50%は保証するから安心していいという「年金100年安心プラン」という詐欺まがいの名称をつけた。

 これには5年に一度年金財政に問題がないかをチェックする「財政検証」を行なうこととなっている。早くも2回目の検証を行なった2014年、厚生労働省は日本経済が今後順調に成長を続けると仮定すればギリギリ50%をクリアできると、発表したのである。

 しかし、今のような低成長が続けば2055年頃には年金積立金129兆円が完全に枯渇するという試算も同時に発表し、現役サラリーマンたちを呆然とさせた。

 12月に内閣府が発表した2015年7~9月期の国内総生産(GDP)は、当初予測はマイナス0.8%だったが、意外にもプラス1%になった。4~6月期に続いてマイナスだったら2四半期連続のマイナスになり、アベノミクスは完全に失敗したことになったが、首の皮一枚でつながった。

 だが、この数値には『週刊現代』(12/26号、以下『現代』)によれば、「中国のように統計をいじっているのでは」ないかという疑惑の声が上がっているようだ。さらに、

 「GDPの7割近くを占める個人消費は速報値から下方修正されています。安倍晋三総理は経団連に設備投資と賃上げを要求していますが、消費が伸びないのに企業が設備投資や賃金を増やすわけがない」(エコノミスト中原圭介氏)

 安倍自民党は日銀にジャブジャブおカネを刷らして株価をつり上げるやり方には限界があると考え、われわれの年金を国債や株で運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に対して、国内株式や外国株式購入の割合を12%から25%に引き上げるよう変更させたのである。

 年金をハイリスク・ハイリターンのマネーゲームに注ぎ込んだのだ。だが、欧州の経済は危機を脱せず、中国もバブル崩壊は間近いといわれる中、株価は安倍首相の思惑通りに動かなかったことは、国民周知の事実である。

 そして何が起こったのか。『週刊文春』(12/17号、以下『文春』)が報じているように、GPIFは今年の7月~9月期の年金積立金の運用で約7兆8千億円もの損失を出したと発表したのだ。このことは『週刊ポスト』がだいぶ前に報じていたが、われわれの命綱の積み立てた年金を、安倍政権が強引にリスクの高い株へ投資する割合を引き上げたときから予想されていたことである。

 GPIF側は、10月以降は運用益が出ている、長期で見てほしいといっているが、株価は1万9000円台をウロウロするばかりで、3万円どころか2万円台にも乗らない。中国経済の落ち込みは深刻さを増し、アメリカの中央銀行にあたるFRBが政策金利を引き上げるとみられている(編集部注:12月16日に利上げ決定)。円安も終焉に向かうという見方が多く、株価を押し上げる材料に乏しいのが現状である。

 『文春』によれば、1月に長妻元厚労相の「もし08年のようなリーマンショックが起きたらGPIFにどれぐらいの損失が出るのか」という質問主意書に答えて政府が出した試算は「その時の3倍近くの26.2兆円」になるというのである。

 『文春』でも書いているように、世界的に見ればGPIFのように、基礎年金部分の1階と厚生年金部分の2階を両方積立金として運用している国は少なく、リスクを取る積極運用で知られるカナダやノルウェーも運用しているのは2階部分だけである。

 「アメリカの社会保障年金制度の積立金は、政治的介入の懸念から株式や債券への投資は禁止され、すべて市場で売買できない国債で運用されています」(シグマ・キャピタルの田代秀敏チーフ・エコノミスト)

 年金は1円たりとも無駄にはできない国民の財産である。それを安倍政権は私物化し、マネーゲームに使っているというのは、国民を愚弄しているとしか思えない。

 さらに『現代』でノーベル賞経済学賞受賞者でニューヨーク市立大学教授のポール・クルーグマンが、アメリカ経済がまもなく崩壊すると警告している。

 「利上げ早期容認論者の人々が、『アメリカ経済は回復したので、(FRBが=筆者注)利上げをしても大丈夫』と主張しているわけです。
 しかし、アメリカの好調さは、相対的に良く見えているにすぎません。あくまで沈む各国に比べて相対的に、なのだという点をおさえておかなければいけません。
 早期の利上げを主張する人たちは、雇用の統計が改善していると言いますが、現実はまだ完全雇用にはなっていないし、賃金もフラットのままです。こういう状況で利上げを急げば、雇用が悪化し、消費は落ち込み、せっかく良くなってきた経済が再び冷え込んでしまう。もし利上げを急げは、アメリカでは日本が2000年代に経験したのと同様の悲劇に襲われることになります。(中略)
 2016年は、世界中がもがき苦しむ年になりそうです」

 安倍首相は経済政策が破綻しているのを覆い隠すために、日銀による未曾有の金融緩和政策を止めさせず、年金まで注ぎ込んでいる。それなのに国民はそうしたことに目をつぶり、次の参議院選に衆議院選とのダブル選挙を仕掛けようとしている安倍自民党を大勝させようとしているのは、どうしたことであろう。

 『現代』は来年7月に衆参ダブル選挙が行なわれれば、公明党、おおさか維新といった与党・準与党勢力を合わせると、安倍政権は衆議院で400議席を超え空前の独裁勢力が誕生すると予測している。

 国民の多くが熱狂した小泉純一郎元総理が残したのは非正規労働者を増大させた超格差社会だった。安倍総理が辞めた後に残すものは、憲法改悪と軍事大国化、それに年金制度を含む社会保障制度の完全崩壊であるとしたら、その時臍(ほぞ)を噛み血の涙を流すのは国民である。そのことを片時も忘れてはいけない。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 重いテーマの後は少し軽い話で。『フライデー』は編集長が替わって、やや活気が出てきたようだ。今週はベスト3入りするものはなかったが、今後は期待できそうだ。週刊誌を読む楽しみの一つに食べ物の記事がある。おいしい店の紹介もそうだが、普段使っている食品の安全性について警鐘を鳴らす記事も、私は好きである。今週は……。

第1位 「実は大阪でエイズが大爆発していた」(『週刊現代』12/26号)
第2位 「『エキストラ・バージン・オリーブオイル』は偽物ばかり」(『週刊文春』12/17号)
第3位 「ついにamazonが始めた『お坊さん便』の勝算」(『週刊ポスト』12/25号)

 第3位。インターネット通販の大手、アマゾンが本や家電、食品以外に、お坊さんを手配するサービスを始めたと報じた『ポスト』の記事。
 名称は「お坊さん便」。四十九日や一周忌といった法事(法要)の際に、読経を行なう僧侶の手配をしてくれるサービスだ。
 料金は、自宅など手配先への訪問のみなら3万5000円。自宅から墓地など手配先からの移動を含む場合は4万5000円。プラス 2万円で戒名を授与するプランもあり、全国どこにでも手配が可能だという。
 このようなサービスは09年に流通大手の「イオン」が始めているそうだ。お布施の目安を公開して人気を呼び、明朗会計を謳う仲介業者に対するニーズが拡大しているそうである。
 今回のアマゾンの「お坊さん便」を運営するのは「みんれび」という会社である。現在は浄土真宗、曹洞宗、真言宗などの宗派約400人のお坊さんを手配可能だという。
 最近は1時間配送を始めたアマゾンだが「お坊さん便」は事前打ち合わせなどが必要になるため、最短で2週間前からの購入となるそうだ。初回は宗派の指定はできるが僧侶の指名はできない。2回目の利用から僧侶の個人名で注文できるという。
 何度も使うところではないとは思うが、意外に需要はあるのではないか。

 第2位。私は朝食で、軽くトーストしたフランスパンにエキストラ・バージン・オリーブオイル(以下EVOO)をかけて食べるのが好きである。
 それが『文春』によれば、オリーブオイルの中でも最高品質のEVOOが偽装されていると、11月中旬にイタリアの大手メディアが報道したというのである。
 この報道によると、2014年はオリーブが不作で、質量ともに例年とは比較にならない状態だった。ところがなぜかEVOOの流通量に変化がなかったため、不審に思ったオイル専門誌が品質を独自調査したところ、普通のオリーブオイルをEVOOと偽装していたことが判明したのだ。
 現在、食品メーカーなど約10社に対して警察の捜査が始まっているそうだ。偽装オイルからは本来の香りとは程遠い、発酵臭やカビ、汚泥のような風味が立ち上るというのである。
 こうしたことは4年前に、ジャーナリストのトム・ミューラー氏が著書『エキストラバージンの嘘と真実』(日経BP社)で、次のように指摘していたという。

 「世界に流通しているEVOOは生産段階で偽装されたものが大半だ。ディフェット(欠陥品)が堂々と売られている事を放置するのか」

 イタリアで起きている偽装問題は、日本人にとっても対岸の火事ではない。

 「今日本で売られている輸入ブランドEVOOの大半は欠陥オイルです。ミューラーさんが著書で指摘したような偽装を施したオイルに加え、もっと単純な、例えば地面に落ちてカビが生え、腐ったオリーブから搾油した酷いオイルなども珍しくないのです。
 特に三、四年貯蔵された古いオイルを使っている場合は健康へのリスクが高い。オイルが劣化、酸化しているため、下痢になったり、人によっては嘔吐する場合さえあります」(日本オリーブオイルソムリエ協会理事長の多田俊哉氏)

 だが「オリーブオイルは植物油脂として他に類が無いほど天然にオレイン酸を多く含んでいます。オレイン酸は人体の老化に繋がる酸化に対して強い効果を発揮します」(多田氏)
 そうしたこともあって日本ではオリーブオイルは健康食品としての認知度が高く消費量も年々増えているという。
 多田氏に同行してもらって『文春』が有名百貨店などで60本以上のEVOOを見たが「これは本物」とお墨付きを得たのはわずか1本だけだったそうだ。ミューラー氏はこう言う。

 「良い品質のオリーブオイルを見極めるには、正しい知識を身に付けなければなりません。知識を持った人が増えれば安心してオリーブオイルが買える社会を実現できるでしょう」

 そうはいっても、有名百貨店でさえ60分の1しか本物がないとすれば、良質のオリーブオイルを見極める目を持つことはいいワインを選ぶよりも難しそうである。『文春』に出ている本物のEVOOの通販をしている「74カボット」(世田谷区)から取り寄せてみようか。

 第1位。『現代』のショッキングなニュース。大阪でエイズが大爆発していたというのである。
 日本エイズ学会が11月30日に東京で行なった第29回の学術集会で大阪府でHIV(エイズウイルス)感染者が激増していると発表されたというのだ。
 厚生労働省のエイズ動向委員会の調査によると、国内のエイズウイルス感染者と感染した後にエイズを発症した人の数の合計は、14年末時点で2万490人。このほかに8120人の「未診断感染者」がいる可能性があるとわかったそうだ。

 「そして、年次別の推計で見ていくと、大阪府で感染者が急増している時期があることも明らかになりました。その時期とは、03~06年。この時期、東京を含めた他の都道府県における新規感染者は横ばい傾向にあるにもかかわらず、全国的に見るとその数は増えていた。つまり、大阪だけで異常に増えていたのです。毎年、約300人の新規感染者が大阪で出ていたと推計されます」(慶應大学医学部専任講師の加藤真吾氏)

 エイズが再び注目を浴びたのは、ハリウッドスターのチャーリー・シーンが告白をしたからである。
 11月17日にアメリカNBCテレビの生放送ニュース番組『トゥデイ』に出演してこう言ったのだ。「私はHIVに感染したことを認めるためにここにいる」と。
 シーンは、4年ほど前に頭痛や寝汗といった身体の不調を感じ、脳腫瘍だと思い検査を受けたところHIVだと判明したという。
 その後、彼はごく親しい人だけに感染を明かしたが、そのうち数人から、「事実を公表されたくなければカネを払えとゆすられ、要求に応じた」とも話した。口止めのために支払った金額は1000万ドル(約12億円)を超すというのである。
 この告白はアメリカだけでなく、全世界に衝撃を与え、シーンには同情的な声すら寄せられたそうだが、その後、次々と明らかになっていったのは、シーン自身が招いた報いだったということだ。
 何しろ彼は、隣に住む女の子からポルノ女優まで、これまでに関係を持った女性の数は5000人以上というのである。
 『現代』によれば、シーンが来日して大阪に来ていたという記録はないようである。
 増えた理由のひとつに、アナルセックスの頻度が急速に高まったからではないかという懸念があるそうだが、男性同性愛者は、実は、約半数がアナルセックスの経験がないという調査結果があるそうだ。
 それよりも、異性愛者の成人男性のうち50人に1人が男性とアナルセックスをしたことがある、とした論文があるそうだ。その男性が女性とも関係を持ち、広がっていったのか?

 「現在は非常に良い薬があるため、たとえHIVに感染しても、治療すればエイズの発症を抑えられる。また、性交渉によって相手に移すリスクもかなり減らせます。他人事だと思わず、みんなが検査に行くことで、日本でのHIVの流行を阻止できるのです」(加藤氏)

 HIVはがんよりも早期発見すれば今は怖い病気ではない。思い当たることがあれば、すぐ医者に行こう。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 島根県が4連覇である。ポーラ化粧品のブランド「APEX(アペックス)」のプロモーション、「ニッポン美肌県グランプリ」の2015年の結果だ。この企画は2012年にスタートしているが、島根県は不動の1位を保っている。

 ポーラの公式ページによると「一人ひとりの肌は、それぞれ異なるけれど、日本各地の細かな気象環境や生活習慣の違いは、さまざまなエリア的傾向をもたらしている」という。その研究の成果を世に問うべく、膨大なデータの蓄積をもとに、一年間の自社顧客の肌データを分析、毎年「美肌県」を発表しているのだ。なかなかユニークな趣向であると同時に、説得力も感じさせるといえ、毎年マスコミ各社によって取り上げられている。

 「美肌」の指標は、2015年度においては「肌がうるおっている」「キメが整っている」「毛穴が目立たない」「くすみがない」「シミができにくい」「ニキビができにくい」の6つの視点から判断。今回、1位の島根県の「美肌偏差値」は72.4で、2位の山形県の65.3を大きく引き離した。上位の県は、おおむね日照時間が短く紫外線の影響を受けにくいなど美しい肌を育みやすい環境にあるらしい。ちなみに、不名誉かもしれないが、最下位は茨城県の28.2だった。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 高い所に上ると足がすくんだり、めまいがしたりして、高い場所を異常に怖がる「高所恐怖症」は昔からあった。だが、今、問題になっているのは、高いところを怖がらない「高所平気症」による転落事故だ。

 高さの感覚は4歳頃までに培われると言われている。子どもは自分の目線の高さを基準にして、地面との距離を測って、高いかどうかを判断する能力を身につけていく。

 ところが、生まれたときから高層マンションなどで暮らしていると、空に近い景色は見えても地面を見ることはできない。とくに高層マンションだと、階段をつかわずにエレベーターで瞬間移動できてしまう。そのため、高さの感覚に麻痺し、恐怖を感じなくなる高所平気症になりやすいのだという。

 その結果、問題となっているのが、マンションのベランダなどからの子どもの転落事故だ。東京消防庁管内では、2010~2014年の5年間で、12歳以下の子どもの転落事故が155件起きている。

 一般的な高層マンションのベランダの柵は、転落防止のために建築基準法で高さ1.1m以上という基準が設けられているが、その他に要件はない。なかには、デザインによって模様が施された柵などもあり、子どもが簡単に足をかけられるものもある。高所平気症によって、高いところに恐怖を抱かない子どもが、ベランダの柵をよじ登って、転落したケースなどもある。

 また、ベランダに置かれているエアコンの室外機、休憩用の机や椅子などを足場にして、子どもが柵を乗り越えてしまう事故も起きている。

 事故を未然に防ぐには、「ベランダには足場になるようなものは置かない」「足がかけられやすい模様のあるベランダの柵は半透明のアクリル板などでカバーする」「小さな子どもをひとりにして出かけない」「ベランダの鍵を二重にする」などの対策が必要だ。

 また、地上で遊ぶ機会を作って、子どもに高いところが危険だという認識を持たせることも大切だ。公園の滑り台やジャングルジムなど、子どもが地面を目視できる遊具を使えば、高さの感覚をつかめるようになるという。

 高所恐怖症は不安障害のひとつだが、高所平気症はそうした異常ではなく、高低感覚が育っていない状態だ。子どもを危険から守るためにも、日々の遊びのなかで「高いところは危険」という認識を自然につけられるようにしたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 このところ、東京都武蔵野市に本社を置くメーカー「バルミューダ」が、トレンド情報の記事でよく取り上げられている。

 社長の寺尾玄(てらお・げん)氏が元プロのミュージシャンであることなど、同社には語るべき個性が多い。当初はノートパソコン用の冷却台などを開発していたが、現在は扇風機や空気清浄機などで知られている。看板商品の「GreenFan」は、高級扇風機という市場を創出した。全体としてプロダクトデザインの感覚でも高い評価があり、俗な表現をすれば「センスのいい企業」なのだ。

 2015年のバルミューダ最大の話題は、5月末に発売したオーブントースター「BALMUDA The Toaster」のヒットであろう。寺尾社長自身が朝食はパン派ということで、こだわりに満ちた商品となっている。それまでのトースターといえば、安価なキッチン家電の代表格。それが2万円台であるのに、パン好きの支持を得ているのだ。パン工房で食べられるようなモチモチふわふわの味わいを、水蒸気と温度制御によって実現させる。強気の値段というより、無骨なまでに「うまさ」への追求をした必然的なプライスなのだといえよう。

 バルミューダは、寺尾社長にしてみれば「家電メーカー」ではない。家電というのは狭い枠にとらわれた概念で、生産しているのはあくまで現代の「道具」であるとインタビューなどで発言している。その感性が、商品を一歩高い段階へと引き上げているようだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 これは驚きの数字である。日本国内の農業就業者人口が約209万人と、5年前の2010年に比べ2割も減少していたのだ。農林水産省が2015年11月27日に発表した「農林業センサス(速報値)」で明らかになった。さらに言えば、農業就業者は20年前から半減、30年前比でも6割減という有り様だ。

 背景にあるのは、高齢で離農する人が多いうえ、後継となる若者の就農も進んでいないという実情だ。その差が2割減という数字になったわけだ。

 もう一つ深刻なのは就業者の平均年齢も66.3歳と過去最高だったことだ。65歳以上の人を高齢者というが、平均年齢が高齢者という職種が日本農業の現実である。

 日本農業を巡っては、環太平洋経済連携協定(TPP)が大筋で合意するという逆風も吹いている。安倍政権は対応策として「攻めの農業」を掲げ、農産品の輸出を促すとともに、農地の集約化や農業主体の法人化で経営規模の拡大を図ろうとしている。

 にもかかわらず、2割も就業者が減少したのは「攻めの農業」に向けた施策がうまく機能していないからだ。「攻めの農業」と言葉は威勢がいいが、その前に労働環境や収入面で魅力ある職種としなければ、「攻めの農業」は単なるスローガンでしかない。

 メディアも政府のスローガンに追従して「攻めの農業への対応を急げ」と書く前に、農業の現場に足を運び、担い手の育成のために具体的に何が必要なのかリポートすべきではないか。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 1シーズンで「打率3割、30本塁打、30盗塁」をマークすること。打撃の安定力、長打力、機動力の三つを備えた選手が達成でき、身体、技術の能力の高さを証明する記録として認知されている。過去には秋山幸二、金本知憲(ともあき)、松井稼頭央(かずお)らの8人しか達成していない。

 ……のに今年、セ・パ両リーグで福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐(やなぎだ・ゆうき)と東京ヤクルトスワローズの山田哲人(てつと)がWで達成してしまったということで、にわかフィーチャーされ、年末恒例の『2015ユーキャン新語・流行語大賞』の年間大賞まで受賞してしまうほどのメジャー語へと成長した。

 本来、野球好きしか知らない比較的マニアックな言葉であり、それがここまでの脚光を浴びるのは「生涯一野球人」を自称する筆者としては喜ばしいかぎりだが、「なんでコイツが流行語大賞なの?」という声も今年に関しては少なくない、と聞く。

 しかし、同じスポーツ界での今年の大ブレイク語「五郎丸(ポーズ)」などの、固有名詞が入った一過性のワードより、こっちのほうが“野球音痴”な人たちの「?」を喚起するという意味で、ずっと意義があると筆者は考える。これ以上「五郎丸」だけが独り歩きする状況は、ラグビー界にとってもあまりプラスにならないだろうし……。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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