坂本太郎 著
学問の神「天神様」に対する信仰は、伊勢や八幡信仰などとともに脈々と日本人の心に波打っている。しかしながら、天神様が菅原道真であることや、道真その人については、どれだけ知られているであろうか。本書は、のちのいわゆる天神伝説を取除き、真実の道真像を丹念に叙述した史学界の碩学による道真伝の定本をなす名著である。
[平安][学者|政治家|官人]
奥野高広 著
義昭は室町幕府最後の、しかも織田信長に擁立されのち追われた悲劇の将軍である。古いものと新しいものとが交替した変革の時代に、陋固としてその伝統を墨守しようとあせりつつも、ついに時代の波に押し流されて諸国を流浪する。本書は封建制度と、室町幕府の沿革から説き起し、巧みな筆致で、義昭とその周辺を追求する迫力のある好著。
[室町|戦国|安土桃山][武将・将軍]
帆足図南次 著
近代日本の黎明期にあたり、合理主義思想の花を開かせ、政治思想を初め、独創的な儒学・国学の鑑識、漢蘭折衷の医学など、多方面に先駆的な業績をあげた万里。本書は秘蔵の文書を駆使して大樹のごとき彼の全貌を描くとともに、三浦梅園―帆足万里―福沢諭吉とつながる合理主義思想の史的発展を見事にとらえた意義深い好著。
[江戸][学者]
多賀宗隼 著
早く京都に進出して貴族生活になじんだ摂津源氏の人々。武人ながら歌人の名をほしいままにし、平治の乱後、源氏凋落裡に平氏と協調してその信頼をつないだ頼政。その彼が、老残の身を挺して平氏打倒に蹶起し、頼朝の挙兵──中世開幕の口火を切る立役者となった。本書はその和歌をも巧みに活用して実像をするどく追及したユニークな伝記である。
[平安][武将・将軍|文化人]
堀勇雄 著
林羅山は本名信勝、薙髪して道春と称した。江戸幕府文教の中枢ともいうべき林家の始祖として著名であり、日本史上稀有の博学者ながら、典型的な御用学者ともいわれる。「立身出世のために学者的良心を捨てて曲学阿世の道を選んだ」とされるその哀歓の生涯を、著者は豊富な史料によって詳説した。儒学の本質にも迫る好著。
[江戸][学者]
三吉明 著
流刑の囚徒たちに鬼典獄と恐れられた初代網走監獄所長。キリスト教に改宗し、自ら死刑囚の手をとって祈り、関東大震災には一人の脱走者も出さなかった愛の行為で、世界行刑官の象徴となる。刑余者と非行少女の家庭学園の灯はその後も燃え続けるが、罪を憎み人を憎まぬ人々のために、著者は全国に資料を求めて彼の足跡を鏤刻した。
[明治|大正|昭和][官吏・官僚]
岩橋小弥太 著
世に“萩原法皇”とも称せられ、『花園院宸記』をはじめ、多くの文筆を遺された花園天皇は、歴代きっての文化人であった。持明院統の出身で早く位を大覚寺統の後醍醐天皇に譲られたが、南朝側に対する理解もまた深かった。本書は宮廷史・官制史に独自の学風をもつ著者が当時の宮廷の中にいきいきと天皇の生涯を描き出した。
[鎌倉|南北朝][天皇・皇族]
横川末吉 著
土佐藩政確立期における名宰相野中兼山は、単にすぐれた政治家というだけでなく、儒学者であり、経世家でもあった。徹底した藩体制確立のために、反兼山派の抬頭をみ失脚の悲運に遭遇するが、近世末の土佐藩の活躍は彼に発端するといっても過言ではない。本書は経済史的な観点を踏まえ、未公開の史料を駆使して、土佐藩政史の中に兼山を浮彫りにした好著。
[江戸][政治家|学者]
川端太平 著
幕末維新の動乱期に、親藩の福井藩主ながら開国論を推進しつつ朝幕関係を調停、紛糾を防止した松平春嶽(慶永)の裏面工作は絶大であった。その日記・著作・往復書翰・詩歌など未刊史料をも精査して、維新史上重要な位置をなす春嶽の波瀾多き生涯を、回天動地のめまぐるしい政情とともに見事に描く。
[江戸|明治][大名]
宮崎道生 著
新井白石は詩人として名声は琉球・朝鮮・清朝にまで及び、学は和漢洋を兼ね、人文・社会・自然の諸科学にわたる碩学であった。「正徳の治」を企画して幕政のレヴェルを上げ、オランダには「将軍の師」と伝えられた。明治以後は第一級の日本人と評価され、学界では「近代科学の父」とされてもいる。白石研究の第一人者が心魂をこめて綴った伝記。
[江戸][学者|政治家|文化人]
山口修 著
前島は「郵便の父」として、ひろく知られているように、郵政事業の基礎を確立し、その発展に尽瘁した。しかし前島の業績は郵政にとどまらない。海運・鉄道・新聞などの近代事業、また教育や国字改良などに果した役割は、きわめて大きい。いかにして、このような人物が生まれたのか。本書は雪深い越後から江戸に出て、刻苦勉励、新政府に出仕して活躍した、その生涯をたどる。
[江戸|明治|大正][官吏・官僚|政治家]
佐伯有清 著
天台座主智証大師円珍の生涯を克明にたどった初の詳細な伝記。当時の政治情況の中で多くの人びととかかわって行動する円珍の姿や唐での留学僧円載との相克を新たな視点から描く興味あふれる叙述。率直、かつ強烈に諸宗派や僧侶の動向を諸著述で批判する姿勢と終生経典の蒐集と校勘につとめたひたむきな人間像に魅せられないではいられないであろう。
[平安][宗教者]
犬塚孝明 著
新国家建設と近代外交の確立に全生涯を賭けた外務卿寺島宗則の本格的評伝。蘭学者から一転して、新政府の外交指導者となった寺島の思想と行動を新史料を駆使して丹念に跡付ける。欧米に対する自主外交、東アジアに対する条理外交という新たな視点から寺島外交を再評価。さらに伊藤博文との政治的競合・対立にも新解釈を加え、新しい寺島像を描く。
[江戸|明治][政治家|外交官]
佐伯有清 著
聖徳太子の後身として崇められていた理源大師聖宝。山林修行につとめ、京都の醍醐寺を開創した聖宝の生涯は、空海の創始した真言宗を、身をもって実践し、大成させたことにつきている。時の権力者との結びつきを極力さけ、けっして名聞を求めない聖宝の姿は、魅力的である。説話の世界に生きる聖宝を歴史の世界に蘇らせ、活写した新たな聖宝伝。
[平安][宗教者]
竹内道雄 著
鎌倉時代が生んだ偉大な宗教家。名門公家の家に生まれ、世俗的出世を望まれながらも自ら出家。さらに真実の仏教・師を求めて宋に渡り、帰国後、純粋禅を広め日本曹洞宗の開祖となる。時代背景をおりなすとともに、中国での足跡をもたどりながら、宗教思想・子弟育成などその人物像を克明に描く。最新の史料・研究をもとにした、新稿の決定版なる。
[鎌倉][宗教者]
橋本義彦 著
平安時代末期から鎌倉時代初期という激動の時代に生きた公家政治家。従来、良い評価は与えられてこなかったが、それは通親と鋭く対立した九条兼実の日記『玉葉』の記述に依拠したためである。本書は通親の生涯の足跡をたどり、できるだけ正確な全体像を描く。また改元定、院殿上定など儀式制度の内容にも具体的に触れ、当時の宮廷生活を垣間見させる。
[平安|鎌倉][政治家|文化人|官人]
芳即正 著
幕末の薩摩藩主島津斉彬は、曽祖父重豪の薫陶により吸収した洋学知識と、琉球を通して知り得た外国情報により、世界に目を向けた開明的な視野で施政を行った。国政においては一橋派を支持して幕政改革を企図し、藩政においては殖産興業・富国強兵の道を進んだ。人格・識見に優れた斉彬の影響のもと、薩摩から明治維新に活躍した輝かしい人材を輩出する。
[江戸][大名]
梅谷文夫 著
書誌学・金石学の基礎を築き、考証学を大成し、儒学・国学が科学としての古典研究に脱皮する素地を醸成した江戸時代後期の町人学者。本屋の子に生まれ、豪商として聞こえた米問屋津軽屋の婿養子に迎えられ、弘前藩の御蔵元を勤める一方、和漢の古典籍の蒐集とその研究に努めて、「和名類聚抄箋注」など、数々の傑出した業績をのこす。
[江戸][学者]
黒板伸夫 著
行成は生前「世のてかき」と讃えられ、現代も三蹟の一人として知らぬ人はない。しかし彼の本領は、藤原道長の摂関政治体制の中に生き、それを支えた典型的貴族官僚としての活動にある。本書は彼の日記『権記(ごんき)』を手がかりに、その実像に迫り、信仰や人生観など内面生活にも目を注ぎながら、当時の政治や宮廷社会のあり方を浮彫りにしている。
[平安][官人|文化人]
原田朗 著
幕臣として軍艦頭取を勤め、幕府瓦解後榎本武揚とともに軍艦を率いて函館に奔り、五稜郭に奮戦したが、陥落投降、赦されて開拓使に出仕し、北海道の測量、農学校の設立、女子教育の促進に尽力した。また内務省地理局に転じ、メートル法の導入、経度の決定、日食観測を行い、初代中央気象台長となるなど、近代日本の自然科学の基礎を築いた科学者の業績と生涯を描く。
[江戸|明治][官吏・官僚|学者]