今回『新カトリック大事典』第 4 巻の編纂を終え, ようやく出版にこぎつけることができ, この事業が完結される運びとなった. 企画から第 1 巻出版までの経緯についてはすでに第 1 巻の「まえがき」で触れたので, ここでは言及を省く. 前身の旧『カトリック大辞典』は 1940 年に第 1 巻が刊行され, その最後の第 5 巻が 1960 年, 刊行されるまでに第 2 次大戦をはさみ 20 年がかけられた. 『新カトリック大事典』の第 1 巻は 1996 年に出版されているから, 全 4 巻 (各巻平均 1,400 頁) が出版されるまでにおよそ 13 年の月日が費やされたことになる. この間, 完結を待ちわびて厳しいご叱責や温かい激励を寄せられた予約者ならびに寄稿者, その他多方面の方々には感謝してもしきれない気持ちでいっぱいである. そのような激励や叱責は大事典に向けられた期待がどれほど大きかったかを示していたからである.
1996 年に第 1 巻を出版して以後, 『新カトリック大事典』の全巻編纂は, 20 世紀と 21 世紀との間の敷居をまたいで進行することになった. 編纂の意図はカトリック教会の第 2 ヴァティカン公会議の文書, 特に『現代世界憲章』(Gaudium et spes) に表現された, 現代世界から未来に向かう人類とともに歩もうとする教会の積極的姿勢を受け, カトリック思想の伝統と我が国の知的風土との対話を推進するのに資することであった. イエズス会が誕生したとき, カトリック教会はルネサンス・ヒューマニズムと自然科学という新しい知の出現に対応して伝統の再構築を迫られていた. イエズス会宣教師は, 日本においてもコレジヨを設立するとともに, 数々の出版事業によって学問・文化における東西の架け橋となることを目指した. しかし 1612 年の徳川幕府による禁教令によって宣教師は追放され, 彼らの計画はすべて挫折に終わった. ヨーロッパにおいては, 教会内でも啓蒙思想の影響が強まった 1773 年に教皇クレメンス 14 世がイエズス会に解散命令を発せざるをえない情勢となった. イエズス会は消滅したかにみえたが, 1814 年にピウス 7 世によって再興が許され, 再び活動が始まった. それから 94 年後の 1908 年, イエズス会は日本でふたたび活動できるようになった. 昨年, イエズス会の日本管区は再来日 100 周年を祝った. また数年後には上智大学も創立 100 周年を迎える. 奇しくも, この大事典の完結が二つの 100 周年を記念する成果となったことは摂理的であると言わざるをえないのである.
新しい「千年期」(millennium) の到来への願望はキリスト教史の原動力である. 人類は現在新しい千年期にすでに入り, ほとんど 10 年経過する時点に差しかかっている. 19 世紀ヨーロッパ市民社会で確立された「教養」の理想は崩壊し, 新しい知によって取って代わられつつある. この新しい知は文化や伝統に懐疑的である. しばしの間, その混沌と極端な相対主義に人々は酔いしれ, その果実の消費にもっぱら目を向ける知的コマーシャリズムともいうべき姿勢が趨勢であった. 100 年に一度と言われる現在の「底なしの経済危機」はその破綻を暗示しているかのようである. 伝統はつねに再解釈によって活性化されなければならない. 伝統は対話によって現代の文脈に受容される. 『新カトリック大事典』は, カトリックの精神的伝統が過去に築いたものをそのまま現代にパラダイムとして提示するものではなく, 他宗教・教派・思想と学問との対話と交流によって再解釈・構成され, 新鮮さをもち, 未来に向かう勇気と強靭な弾力性の源泉であることを多少とも示そうとしたものである.
第 4 巻の出版によって『新カトリック大事典』は一応完結した. しかし補遺と改訂による微調整が待ち受けている. 16 世紀, グーテンベルク革命は紙と印刷術によって知の共有化を推進し, 近代への道を開いたが, 今やポストモダンの趨勢は IT 革命によって電子文化の時代へと急激に進み, 知の世界はグローバル化している. 次世代のカトリック大事典はいわゆるペーパレスとなり, パソコン画面上で読まれるものになるであろう. 知の世界の容貌は劇的に変化しているであろう. そのとき, 今やっと完結したばかりの本事典は次のステップへの一里塚だったとみなされるであろう. 『新カトリック大事典』が完結した喜びとともに, 将来への準備が欠かせない. そのためにこの事業への各方面の御支援をお願いしたい.
13 年の間に研究社関係の方々と編纂室のスタッフにも入れ替わりがあり, 寄稿者の中にも物故者が幾人かおられる. 幾多の困難はあったが, それを乗り越えることができたのはこれらの人々のお陰である. 感謝の気持ちと同時に, 時の流れを思うと感無量である.
第 1 巻には前教皇ヨアンネス・パウルス 2 世が肖像写真と自筆の励ましの言葉を寄せられたが, 第 4 巻には全巻完結を記念して現教皇ベネディクトゥス 16 世から署名入り肖像写真と祝福をいただく光栄に浴した. 編集者として感謝の念を表明したい.