The Fisher effect
アメリカの経済・統計学者I・フィッシャーが提唱した理論。予想インフレ率(予想物価上昇率、期待インフレ率ともいう)が変化すると、名目金利(表面上の金利)も同様に変化し、実質金利には影響しないという効果のこと。
フィッシャーが提案した金利と予想インフレ率に関する関係式はフィッシャー方程式とよばれ、基本的には直接観察できない実質金利は、名目金利から予想インフレ率を引いたもので表される(実質金利=名目金利-予想インフレ率)。実質金利であれ、名目金利であれ、金利はこれから未来にかけてどのくらいの利子がつくかという将来に関する情報であり、他方、現時点から将来にかけての予想インフレ率は未知である。このため、(事前の)実質金利は、名目金利から予想インフレ率を差し引いたもので近似されるのである。
ここで、経済の長期均衡においては、自然利子率(長期均衡における中立的な実質金利)が実現するため、予想インフレ率の変化が名目金利のみを変化させ、実質金利には影響を与えないという見解をフィッシャー効果(またはフィッシャー仮説、フィッシャー法則)とよぶ。換言すれば、フィッシャー方程式の実質金利に自然利子率を代入しても、この方程式の関係が成立すると考えられる。
フィッシャー効果の現実的な是非については、さまざまな実証研究が行われている。1980年代に行われた多くの研究では、否定的な見解が示されることが多かったが、これらの研究は、直接観察できない予想インフレ率をどう扱うかという部分にむずかしさがあった。その後、物価連動国債の発行が各国で進み、予想インフレ率を直接に観察できるようになった。物価連動国債は、インフレ連動債ともよばれ、物価の動向に連動して元本が増減するため、インフレがおきても実質的価値が減少しない国債である。このデータを用いた実証研究によれば、長期的にみた実質金利は安定しており、名目金利の動きがおもに予想インフレ率から影響を受けているとみられるとする実証結果が得られることが多く、フィッシャー効果が成立している(予想インフレ率の動きが名目金利に反映される)と考えられる。
2021年1月21日