<表中テキスト>
(1)1字1音式万葉仮名の字母(奈良時代およびそれ以前のもの) (・印以下は字訓仮名を示す)
[表す音節] [用いる字母]
あ 阿安婀鞅英・足吾
い 伊以異已移易怡印壹夷因・射膽
う 宇?于羽有雲烏禹紆・卯菟得鵜?
え 愛亞衣依哀埃・得榎荏(や行のえを参照)
お 意於淤隱憶應飫乙?
か 加迦可訶甲箇架嘉哥汗賀何荷歌介伽哿河軻柯舸珂甘・香蚊鹿髮芳歟
が 我賀何荷河蛾餓俄鵝峨奇宜
き(甲) 伎岐吉棄支企枳妓耆祇祁〓・寸杵來
ぎ(甲) 藝祇〓儀蟻伎
き(乙) 紀幾貴奇寄綺騎基氣〓規己歸記機・木城樹黄
ぎ(乙) 疑宜擬義
く 久玖苦丘九鳩口君群句?倶區矩衢?
・來
ぐ 具遇求隅愚虞群
け(甲) 祁家計鷄介價谿結奚啓稽係・異
げ(甲) 牙下雅夏霓
け(乙) 氣〓該戒階居開愷凱慨★希擧・毛飼食消笥
げ(乙) 宜?礙皚義
こ(甲) 古故孤姑高庫?枯顧固・粉兒子籠小
ご(甲) 吾呉後胡虞悟誤娯侯
こ(乙) 許去居虚興己忌巨擧★據渠・木
ご(乙) 碁其期凝語御馭
さ 佐左沙作紗酢柴草散積者★差娑磋瑳匝讚尺・狹?羅
ざ 邪奢社射謝奘裝★藏座
し 斯志師新芝紫之子思時旨指司詞事四寺信次此死茲伺璽辭嗣施?詩絶矢始★試資至偲・爲磯
じ 自士仕慈盡貳兒爾珥耳茸餌時・下
す 須周洲州酒珠秀素主蒭輸殊數・渚簀酢栖樔爲
ず 受授聚孺儒殊
せ 勢世西齊施細制是劑栖・背湍瀨迫
ぜ 是筮噬
そ(甲) 蘇素宗祖泝嗽・十麻
ぞ(甲) 俗
そ(乙) 曾則所僧憎諸増賊贈層・背苑衣襲
ぞ(乙) 敍序賊存茹?鋤
た 多他當丹黨???
大侈太・田手
だ 太陀娜??大?
ち 知智致★笞池馳至恥陳珍直・千乳血茅道路
ぢ 遲治地膩尼泥
つ 都川追通菟途屠突徒覩豆頭圖・津
づ 豆頭弩
逗圖
て ?帝底提天題諦・手價直代
で 傳殿?泥代低涅提弟耐田
と(甲) 斗刀土妬都覩杜圖徒塗屠度渡・利戸速礪聰門砥疾鋭
ど(甲) 度奴怒渡土
と(乙) 登等止得苔騰縢藤〓臺・迹跡鳥常十
ど(乙) 杼騰縢藤特廼耐
な 那奈難南儺乃娜寧・七名菜魚嘗中莫
に 爾邇仁而尼耳日二人柔珥貳?・荷似煮煎丹瓊
ぬ 奴濃農努怒★・宿沼寐渟
ね 禰泥尼年涅?・根宿
の(甲) 怒努弩奴・野
の(乙) 能乃廼・篦笑荷
は 波播破
幡八半伴方芳泊薄簸巴絆婆防房??・羽葉齒者
ば 婆伐磨魔麼縻
ひ(甲) 比卑臂必賓嬪避譬?・日檜氷
び(甲) 毘鼻婢妣弭寐彌
ひ(乙) 斐肥悲飛非妃彼被祕費・火樋乾干簸
び(乙) 備肥眉媚縻
ふ 布賦敷不否輔赴浮甫府符富負・歴經乾
ぶ 夫扶矛?部父歩
へ(甲) 幣平弊陛覇敝反返遍蔽??俾・隔重部邊
べ(甲) 辨便別謎婢
へ(乙) 閇倍陪背杯沛俳珮拜・?戸經綜
べ(乙) 倍毎陪謎
ほ 富本番蕃菩品保朋抱寶凡褒報譜倍?袍陪方・帆穗火
ぼ 煩
ま 麻摩萬末磨馬滿★魔麼・眞
目信鬼
み(甲) 美彌民瀰弭寐?・御見三視水參
み(乙) 微味未尾・箕身實
む 牟武无務無鵡模謀夢霧茂?・六
め(甲) 賣咩馬面綿迷謎・女婦
め(乙) 米迷昧梅毎妹・目眼
も 毛母茂望文聞忘蒙畝問門勿木暮謀慕謨梅悶墓★物・裳藻哭喪裙(《古事記》では毛(甲),母(乙))
や 夜移耶野楊也椰〓揶陽〓・八屋矢箭
ゆ 由喩遊?踰臾油愈瑜・湯弓
え 延曳`遙叡・吉枝江兄
よ(甲) 用容欲庸・夜
よ(乙) 余與豫餘預譽已・四世代吉
ら 羅良樂浪邏??★
り 理利梨里隣離?釐
る 留流琉類?樓蘆漏瑠盧婁
れ 禮例列烈連戻黎
ろ(甲) 漏路樓露魯婁盧
ろ(乙) 呂侶盧里稜慮廬
わ 和丸?倭・輪
ゐ 韋位謂爲委萎偉威・井猪居
ゑ 惠回衞隈廻穢慧?畫・咲坐座
を 袁遠乎越呼怨烏弘塢嗚?日・少〓雄男緖尾小麻綬
(2)上代特殊仮名遣いの見られる語
え(あ行のえ.ふつう〈衣〉を代表の字母とする) 得(え),榎(え),荏(え),え見ず(副詞のえ),ええしやこしや(感動詞のええ),可愛男(えをとこ),蘆★(えつり),蒲陶・萄葡(えび・えびかづら),蝦夷(えびす・えみし)
え(や行のえ.ふつう〈江〉を代表の字母とする) 江(え),枝(え),兄(え),消(きえ),稗(ひえ),笛(ふえ),胞(え),父母江(父母え.呼掛けの助詞)
き(甲) 酒(き),杵(き),寸(き),き(過去の助動詞),着(き・きる),聞(きき・きく・きこゆ),雉(きぎし),瘡(きず),穢(きたなし),衣(きぬ),絹(きぬ),昨日(きのふ),際(きは),極(きはまる・きはみ・きはむ),競(きほふ),君(きみ),肝(きも),
(きよし),秋(あき),商(あきなふ),明(あきらか),息(いき),沖(おき),垣(かき),盃(さかづき),先(さき),椿(つばき),時(とき),錦(にしき),紫(むらさき),雪(ゆき)
ぎ(甲) ?(あぎ),兎(うさぎ),限(かぎり・かぎる),炎(かぎろひ),雉(きぎし),鴫(しぎ),劍(つるぎ),凪(なぎ),渚(なぎさ),握(にぎる),霍公鳥(ほととぎす)
き(乙) 霧(きり),木(き),城(き),奥墓(おくつき),莖(くき),月(つき),調(つき),槇(まき)
ぎ(乙) 杉(すぎ),水葱(なぎ),萩(はぎ),楊(やぎ・やなぎ),荻(をぎ)
け(甲) 異に(けに),無けなくに(なけなくに),今日(けふ),けむ・けり(助動詞),叫(さけぶ),武(たけし)
げ(甲) 海月(くらげ)
け(乙) 池(いけ),誓(うけひ),公(おほやけ),畑(はたけ),肅(かそけし),安(やすらけし),寛(ゆたけし)
げ(乙) 影(かげ),大角豆(ささげ),歎(なげき・なげく),鬚(ひげ)
こ(甲) 粉(こ),子(こ),小(こ),籠(こ),越(こし),戀(こふ),駒(こま),水手(かこ),柔(にこやか・にこよか),都(みやこ),男(をとこ・をのこ)
ご(甲) 砂(いさご),〓(みさご)
こ(乙) 木(こ),心(こころ),九(ここのつ),腰(こし),こそ(助詞)答(こたふ),言・事・異(こと),此(この),好(このむ),乞(こふ),殺(ころす),衣(ころも),聞(きこす・きこゆ),遺(のこす・のこる)
ご(乙) 濁(にごる),拭(のごふ),如(ごと)
そ(甲) 十(そ),麻(そ),袖(そで),杣(そま),空(そら),遊(あそび・あそぶ),爭(あらそふ),石・磯(いそ),裾(すそ)
ぞ(甲) 算(かぞふ)
そ(乙) 背(そ),苑(そ),衣(そ),襲(そ),底(そこ),其(そこ),現(うつそみ),遲(おそし),こそ(助詞)
ぞ(乙) 去年(こぞ),何ぞ(なぞ)
と(甲) 利(と),戸(と),門(と),隣(となり),問(とふ),取(とる),貴(たふとし)
ど(甲) 思ふ共(おもふどち),門(かど),立處(たちど),辿(たどる),集(つどふ),宿(やど)
と(乙) 十(と),跡(と),鳥(と),時(とき),常磐(ときは),常葉(とこは),床(とこ),所(ところ),年(とし),整(ととのふ),殿(との),飛(とぶ),通(とほる),友(とも),厭(いとひ・いとふ),音(おと),弟(おと),言・事・殊(こと),如(ごと),霍公鳥(ほととぎす)
ど(乙) ど(助詞),悒(いきどほる),滯(とどこほる),和(のどに),綠(みどり),宿(やどり・やどる),躍(をどる)
の(甲) 野(の),篠(しの),凌(しのぐ),思(しのふ),樂(たのし・たのしび),角(つの)
の(乙) 篦(の),荷(の),の(助詞),遺(のこす・のこる),拭(のごふ),後(のち),和(のどに),のみ(助詞),飲(のむ),飮(のむ),命(いのち),飲(いのる),己(おのれ),此(この),好(このむ)
ひ(甲) 日(ひ),檜(ひ),氷(ひ),峽(かひ),貝(かひ),匙(かひ),稗(ひえ),光(ひかり・ひかる),引(ひき・ひく),
(ひこ),久(ひさし),雲雀(ひばり),響(ひびき・ひびく),姫(ひめ),間(あひだ),相(あひ),鶯(うぐひす),乞?(こひのむ)
び(甲) 薄氷(うすらび),背(そびら),旅(たび),遍(たび),?鼠(むささび),蕨(わらび)
ひ(乙) 火(ひ),樋(ひ),干(ひ),簸(ひ),戀(こひ)
び(乙) 葦牙(あしかび),穎(かび),吉備(きび),飛かける(とびかける)
へ(甲) 重(へ),隔(へ),家(へ),へ(助詞),邊(へた),隔(へだたる・へだつ),古(いにしへ),反(かへす・かへり・かへる),蛙(かへる),前(まへ),女郎花(をみなへし)
べ(甲) 便(すべ),壁(かべ),部(べ)
へ(乙) 戸(へ),舳(へ),瓮(へ),竈(へ),上(へ),喘(あへく),上(うへ),永久(とこしへ),苗(なへ),贄(にへ)
べ(乙) 可(べし),諾(うべ),鍋(なべ)
み(甲) 三(み),水(み),御(み),み(接尾語),見(み・みる),命(みこと),岬(みさき),〓(みさご),道(みち),水(みづ),綠(みどり),瑞(みづ),蜷(みな),海(うみ),上(かみ),髪(かみ)
み(乙) 身(み),箕(み),實(み),皆(みな),孤(みなしご),神(かみ),廻(み・みる),のみ(助詞),闇(やみ)
め(甲) 女(め),召(めす),姪(めひ),めり(助動詞),菖蒲(あやめぐさ),恨(うらめし),示(しめす),姫(ひめ)
め(乙) 目(め),芽(め),海藻(め),惠(めぐみ・めぐむ),回(めぐらす・めぐり・めぐる),珍(めづらし),天(あめ),雨(あめ),雀(すずめ),爪(つめ),豆(まめ),夢(ゆめ)
も(甲) 百舌(もず),百(もも),妹(いも),鴨(かも),雲(くも),守(まもる)
も(乙) も(助詞),持(もつ),本(もと),物(もの),思(もふ),衣(ころも)
よ(甲) 夜(よ),よ(〈より〉と同じ意の助詞),宵(よひ),呼(よぶ),いさよふ,通(かよふ),
(きよし),眉(まよ),紛(まよふ)
よ(乙) 四(よ),世(よ),吉(よ),〓(よ),よ(詠嘆,呼掛けの助詞),強(つよし),橫(よこ),由(よし),吉(よき・よし),寄(よす),外(よそ),淀(よど・よどむ),宜(よろし),萬(よろづ),響(とよむ),及(およぶ)
ろ(甲) 炎(かぎろひ),黑(くろ),白(しろ),袋(ふくろ),室(むろ),天木香(むろのき)
ろ(乙) 色(いろ),兄(いろえ),母(いろは),後(うしろ),愚(おろか),下(おろす),嘶(ころろく),代(しろ),心(こころ),比(ころ),殺(ころす),衣(ころも),所(ところ),神籬(ひもろき),滅(ほろぼす),筵(むしろ),脆(もろし),諸(もろもろ),社(やしろ),慶(よろこび・よろこぶ),宜(よろし),萬(よろづ)
注-(1)の表のうち,〈え〉の2種および〈き〉〈け〉〈こ〉〈そ〉〈と〉〈の〉〈ひ〉〈へ〉〈み〉〈め〉〈よ〉〈ろ〉ならびに〈も〉(《古事記》のみ)と,そのうち濁音の考えられるものに,甲・乙2類の区別が語によって使い分けられている.(2)の表は,甲・乙2類がそれぞれどのような語に用いられたかを例によって示した.とくに乙類オ列音〈こ〉〈そ〉〈と〉〈の〉〈よ〉〈ろ〉〈も〉について,意味単位の音節結合に一定の傾向があることをよみ取ることができる.たとえば,〈心〉の〈こ〉〈こ〉〈ろ〉3音節はいずれも乙類で貫かれている.最近の学説では,さらに古い時代には多くの音節について甲・乙2類の区別が存在したものと推定するが,通説に従った.
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